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ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】エピジェネティクス入門 三毛猫の模様はどう決まるのか

2007年10月18日 22時03分06秒 | 読書記録2007
エピジェネティクス入門 三毛猫の模様はどう決まるのか, 佐々木裕之, 岩波科学ライブラリー 101, 2005年
・"岩波科学ライブラリー" このシリーズは初めて読みました。平易な語り口とほどほどの分量ながら、内容としては新書よりも専門領域に一歩踏み込んでいて、少しレベルが高く感じました。
・読んではみたけれど、いまいち "エピジェネティクス" とは何なのか、ピンときていません。「三毛猫の模様はどう決まるのか」という問いに対する回答は、「エピジェネティックな現象が偶然に起こった結果」であるとのことですが、やはりどこか釈然としない。喩えるなら、「今日の天気はどう決まるのか?」という問いに「偶然です」と答えられているような気分です。"偶然" という言葉がひっかかります。本当にそれは "偶然" 起こる現象なのか。読む側としては「天気予報を100%当てる方法」を期待するのですが。
・「われわれ人間も含めて、どうして同じ種の生物がこのように多彩な外見を示すのでしょうか。  第一の要因として、ゲノム(すべての遺伝子と、それらの調節領域、およびそれ以外の部分からなる遺伝情報全体をこう呼びます)の多型があげられます。(中略)任意の二つの固体を選んでゲノムを比較してみると、1000塩基に一つ程度の割合で塩基置換(たとえばCがTに置き換わるなど)が存在します。このような正常集団中の違いを多型と呼びます。」p.1
・「エピジェネティクスは、「DNAの配列には変化を起こさないで遺伝子の機能を調節する仕組み」のことをいい、ときに見た目にも鮮やかな影響を外見に与えます。また、エピジェネティクスは、ごく単純には「遺伝子の働きを抑える仕組み」と考えていただいてもけっこうです。」p.2
・「トランスポゾンは生物の進化の途中でゲノムに寄生するようになったDNAで、ゲノム上のある場所から別の場所へと移動することが可能な転移性因子のことです。」p.3
・「雄にはX染色体が一本しかありませんから、茶か黒かどちらか一方の遺伝子しか持ちません。ですから雄は二色(白と茶、または白と黒)にしかならず、三毛猫はほとんど例外なく雌なのです。」p.8
・「エピジェネティクスは偶然を取り込む生命現象と言えるかもしれません。」p.11
・「現在では、エピジェネティクスは「DNAの配列に変化を起こさず、かつ細胞分裂を経て伝達される遺伝子機能の変化やその仕組み」または「それらを探究する学問」と定義されています。」p.17
・「DNAの塩基配列には変化を与えないで、化学修飾というかたちで遺伝子に印をつけ、それをDNA複製と細胞分裂を経て次の細胞へ伝えていく……これがエピジェネティクスの仕組みの神髄です。」p.32
・「では、動物では獲得形質の遺伝は起こらないのでしょうか。必ずしもそうとは言い切れません。」p.54 前出『生物学個人授業』(p.157)では真向から否定されていましたが、生物学的常識は変わりつつあるようです。
・「エピジェネティクスは遺伝的なプログラムにしたがって働くだけでなく、偶然や環境をも取り込みつつゲノムを操ることができることがおわかりいただけたでしょうか。エピジェネティクスはとても柔軟性に富み、寛容な遺伝子の調節機構と言えるかもしれません。」p.60
・「がん細胞でゲノムDNAが全体的に低メチル化状態にあることは、およそ20年前に発見されました。これはがんの種類を問わず見られ、しかもがん化する以前の腺腫など、良性腫瘍でも見られる傾向です。(中略)低メチル化により本来適度に調節されるべきがん遺伝子の働きが増加する場合があるのではないかと疑われています(表1)。」p.75
・「実際、がんのように解明されているわけではありませんが、動脈硬化、喘息、糖尿病、統合失調症、アルツハイマー病など、よく見かける病気でもエピジェネティクスの関与が疑われています。」p.78
・「たとえば、がん抑制遺伝子のメチル化の度合いを調べることで、悪性度や進行度を判定したり、どのがん抑制遺伝子が抑えられているかで、治療法の選択を変えたりすることが可能になるかもしれません。」p.80
・「一方で、遺伝子をメチル化する技術については最近進展がありました。2004年の夏、特定の遺伝子の働きを人為的にDNAメチル化で抑え込んでしまう方法が発表されました。目的とする遺伝子だけを狙い撃ちできるとは夢のような話です。」p.84
・「DNAメチル化は生物にとって非常に使い勝手のよい道具であったと思われるのです。実際、DNAメチル化は自分自身の遺伝情報を守る、ウイルスやトランスポゾンを不活性化する、染色体構造を安定化する、転写のノイズを抑える、遺伝子の発生段階特異的または組織特異的な発言を調節する、ゲノム刷り込みの目印となる、X染色体の不活性化を安定化するなど、さまざまな目的に使われています。」p.91
・「生物は使える道具はなんでも利用して生きています。しかし、一度その道具に依存したシステムを作って利用を始めると、今度はその道具なしには生きてゆけなくなってしまう危険性があるのです。哺乳類はインプリンティングやX染色体不活性化などの高度な現象にDNAメチル化を利用しており、もはや完全に中毒してしまった状態と言えます。」p.92
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