フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

閉ざされた帰国

2006年02月23日 20時28分36秒 | 第13章 思愛編
財布とパスポートだけを持つと僕は病室を飛び出した。
厚手のコートを引っ掛けたが、まだ、肺炎が治り切っていないためか喉が鳴り、悪寒や胸痛に苛まれた。

一台のタクシーがタイミング良く病院の玄関に滑り込んで来たため、僕は手を上げ、乗り込もうとした。

しかし、そのタクシーに乗っている二人連れが降りてきたのを見た瞬間、思わず後ろに後退った。

「……父さん!母さん!どうして?!」
「お前こそ、どうしたんだ。まだ退院出来ないって聞いてたんだが?」

僕はどう説明したものかとそこに立ち尽くしてしまっていた。
「それなのに、なぜここにいるんだ?」
「それは……」

タクシーの運転手がシートに手を掛け、「どうすんの?オニイサン、乗るの?乗んないの?」と、気だるそうな声で話し掛けてきた。

「どこに行こうとしているんだ?その体で……」
父はチアノーゼが出始めていた僕の手を取ると、僕の眼前に突きつけ、詰問した。


父は代金を精算すると「運転手さん、すみませんが出して下さい」と、運転手に話し掛けていた。
父の言葉を遮り、僕は今にも閉まりそうなドアに手を掛けた。
「待って下さい!」
「おいおい!ホントにもーどっちなんだよ?」

運転手はお手上げだと言わんばかりに両手を持ち上げるジェスチャーをした。

「すみません。父さん、僕は急いで行かなくてはならないところがあって……」
「何を取り乱しているんだ。お前らしくも無い。今、お前がしなくてはならないことは治療と静養だろう?……運転手さん、いいから出して下さい」

玄関から去るタクシーを追おうと走り出した僕の前に、母が手を広げて立ち塞がった。
そして、右手を振り上げると僕の頬を打った。
「その体で、どこに行こうと言うの?フラフラじゃないの!」
母の目からは涙が溢れていた。


僕はただ日本に帰りたかった。
何もかも捨ててでも君の元に行きたかったんだ……。

父は僕の肩をポンポンと叩くと、「とにかく病室に戻ろう」と笑った。
「治ってからでも遅くないでしょ?」と、母は僕に優しく微笑み掛けてくれた。

だけど、それでは遅いかもしれないんだ。
不吉な予感が僕の脳裏を翳めた。


僕達が病院の自動ドアをくぐろうとした時、もう一台のタクシーが滑り込んできた。
中からは血相を変えたハインツが転がるようにタクシーから飛び出してきた。

「ハインツ!」
ハインツは僕の元に走り寄ると、僕の腕を満身の力を込めて握り締めた。
「トール。大変なことになりました!」

ハインツの顔は更に蒼ざめていった。
「一体、どうしたんだ?落ち着いて、ハインツ」
僕は数分前に両親に投げ掛けられた言葉をそのまま彼に投げていた。

「トール、落ち着いて聞いて下さい。……ケッチャムが自殺しました」



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終われない想い

2006年02月23日 03時58分45秒 | 第13章 思愛編
僕はあらゆることに楽観していた。

全てが気道に乗り何もかもが上手く行く、そうした希望の兆しに気を取られてしまい、逆に小さなシグナルを見落としてきたのかもしれない。

僕はベッドの上にテーブルを渡すと、ノートパソコンを起き、ハルナにメールを打とうとしていた。
丁度その時、彼女からのメールが飛び込んできた。

遠い日本で、この瞬間に同じように君が僕のことを想ってくれている……。
我知らず笑みが零れ、君の無題のメールをクリックした。


……しかし、彼女からのメールは僕が思っていた内容とは全く異なっていた。
僕はメールの意味が理解出来ず、何度も何度も読み返していた。


―――ごめんなさい。私、待てなかった。もう、会えない―――

何かの間違いではないか、冗談ではないかと、このメールに目を凝らした。
今まで彼女から来たメールを全てクリックし、何らかのシグナルがなかったかを探った。

「……トオル君に会えなくて淋しいけど、待ってるね」
「……いつもトオル君のこと想ってる」
「……早く会いたいです」

彼女のメールは僕を元気付けてくれるほど愛に溢れていた。
では、彼女に何があったのか?

待たせ過ぎてしまったのか。
今までのメールは本心ではなかったのか。
なぜ、責めるのではなく、謝るのか。

無情な電子文字は、君の温もりを掻き消し、その本心をも見えなくしてしまっているように思えた。

僕は慌てて、冷たい機械の箱を引き寄せ、想いを乗せたメールを打った。

―――ハルナ、待たせてばかりで本当にごめん。だけど―――

それから先が続かず、打つ手が止った。
こうしてメールを打ってどうすると言うんだ?
彼女がどういう思いで書いたにせよ、ここまで思い詰めてしまった彼女を、更にメールで追い詰めようと言うのか?

僕はノートパソコンの蓋を閉じると、目を瞑り唇を噛んだ。

こんなメールなんかで終われない!

今でも、初めて彼女とキスをした時に聞いた潮騒の音が耳の奥でこだまし、僕の胸を切なく締め付ける。
そして、波間に漂う天使のような彼女の瞳が僕を捕え、「トオル君、愛してる……」と囁いている。


僕は急いでパジャマを脱ぎ捨てると、クロゼットにしまってある服へ手を伸ばした。



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