フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

Mrs.ケッチャム

2006年02月27日 08時20分07秒 | 第13章 思愛編
キンケイドに教わったその場所は、「ニイサン、これ以上は道も狭いしタクシーじゃ無理だよ」と運転手がお手上げするほど深い雑木林の中にあった。

そこで、タクシーでの乗り入れを諦めて、僕は徒歩で向かうことにした。

「分かりました。ではここで」
とチップを弾むと、
「またのご利用を!ニイサン、気をつけてな」
と大喜びしながら、彼はエルビス・プレスリーの歌の入ったテープを最大ボリュームに上げて、ご機嫌に去っていった。

「さて、と、頑張って歩きますか」
少し轍の残る雑木林の中、僕は落ちた小枝をパキパキと踏みながら進んでいった。

目指す家は丘の中腹辺りに漸くその姿を現した。
古い木造りの小さな2階建ての家は、良く見ればあちこちから隙間風が入りそうな位、木や塗装が剥がれ落ちていた。
その家には押しボタン式のチャイムは無く、僕は戸を叩くしかなかった。

ドンドン

「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか?」
すると、背後から洗濯籠を持った40代位の女性が声を掛けて来た。

「どちら様?」
「初めまして。僕はトオル・フジエダと言う者ですが、Mrs.ケッチャムですか?」
僕は手を差し出して、夫人と握手を交わした。
「ええそうです。まぁ!まぁ!主人から良くお名前は聞いておりましたわ!!
ささ、どうぞ。こんなところでは何ですから、中へ……」
夫人は聞いていた以上に大女で、そのヒョロ高い背をくの字に折り曲げながら、戸を潜り、僕を招き入れた。

内装は外観とは違い、綺麗に補修されたリビングへと僕は通された。
ソファに身を沈め、リビングに置かれているケッチャムの写真を見ながら彼を最終的に死から守れなかったことに胸を痛めた。

程なく、夫人はリビングにやって来て、コーヒーを差し出すと、僕の隣りに腰を下ろした。

話し難い位置に座る女性だなと思いつつも、「この度は、何と言っていいか……」とお悔やみの言葉を述べた。

すると、夫人は「そうですの。こんなことになるなんて……」
そう言いながら、僕の膝に手を置いてサメザメと泣き、ハンカチで涙を拭った。

「私ほど不幸な女はこの世にはいないわ。
ロナルドは絶対出世すると両親が言ったから嫁ぎましたのに……。
それが、さして出世もせず、精神を患ったとかでラボに入院しましたでしょう?!」
夫人は僕の膝に置いた手を今度は肩まで這わせると、「その上、離婚話もそぞろに自殺なんて、酷い話ですわ!」と、遂には僕の胸にしがみ付いて号泣し始めた。

「お、落ち着いて下さい!Mrs.ケッチャム!」
「そう思いませんこと?!」
「あ、いや。お二人にとってお気の毒な結果だったと思いますが……
ミッ!Mrs.ケッチャム?!ぼっ、僕の上からどいて頂けると助かるのですが!!」
「私、エミリーと言いますの。そうお呼びになって……」

僕は既に夫人に組み敷かれて、ソファに押し倒されていた。

……まずい!
この体勢は非常にまずい!!

ここに来て初めて僕は身の危険を察知していた。



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