フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

恋の遺伝子

2006年02月16日 23時36分38秒 | 第12章 逡巡編
2階の突き当たりにある書斎には、建築家になるのが夢だったと言うおじさんの思いそのままに沢山の家の模型が置かれていた。

おじさんはオレに椅子を勧めると、「吸うか?」と煙草を差し出した。
「いえ、オレ、止めたんで」と断ると、「そうか。吸っても?」と煙草を目の高さに掲げた。
オレがどうぞと勧めると、ライターを点け、煙草を燻らせた。

「あいつは・・・・・・、ハルナは妻に似て美人だろう?」
「え?!あ、はい・・・・・・」
オレは突然の質問の意図を図りかねていた。

「大学時代、僕と片岡・・・・・・、君のお父さんはハルナの母を巡って争ったんだ。
・・・・・・聞いていたかな?」
オレは初めて聞く彼の告白に面食らった。
「いえ。初耳です」
「そうか。丁度、今の君くらいの年齢だったよ。僕達3人が出会ったのは・・・・・・。
結果、僕と彼女が付き合い、結婚し、長年子宝に恵まれなかったがなんとかハルナが産まれた・・・・・・」

「そうだったんですか・・・・・・」
オレはオヤジの過去を知って不思議な感じがしていた。

「しかし、遺伝子の執念恐るべしと言うか・・・・・・。
結局、こうやって我が家の大切な姫君を片岡にそっくりの息子がかっさらって行くんだものなぁ」

彼は苦笑しながらオレの顔をしみじみと見つめた。

「君達はまだまだ未熟だ。だからせめて君が一人前になるまでは出来る限りのことはさせて貰いたい」
彼は持っていた煙草を灰皿でねじ消した。
オレは「すみません」と項垂れるしかなかった。

「娘を幸せにしてやってくれ」と、オレの肩を叩く彼の手は心なしか必要以上に力が入っていたような気がしたが、その笑顔に気のせいかと思い直した。


「さて、下に行こうか。女達が心配するからね」
「はい」
と、立ち上がった瞬間、ミゾオチに鈍い痛みが走り、オレは腹を抱えて座り込んだ。

おじさんは右手を擦りながら、「父親として当然の権利を行使させてもらったよ」とにっこりと微笑んだ。

そう言えば、おじさんが高校時代ボクシング部だったと、以前おばさんから聞いたことを、ゴホゴホと咳き込みながら思い出していた。

ハルナの凶暴な遺伝子は間違いなくおじさんから受け継いだものだと、オレは身をもって実感した瞬間だった。



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魔の23階段

2006年02月16日 15時15分41秒 | 第12章 逡巡編
ハルナの家の前に車を横付けしたが、彼女は車から下りるのを渋った。

「カズト、やっぱり違う日にした方が・・・・・・」

心配するハルナに軽くキスをして「大丈夫だよ」と笑った。

ハルナの家の隣りにあるオレの家の車庫に車を入れると、雨の中、ハルナの肩を抱いて小走りで彼女の家へと向かった。

チャイムを押すと中からいきなりおじさんが出てきた。
大丈夫とは言ったものの、さすがにこれには固まった。

「お久し振りです・・・・・・」
「やぁ、カズト君。随分大きくなったね」
おじさんの思いも掛けない笑顔のお蔭で、安堵に胸を撫で下ろした。

「ここで立ち話もなんだから、入りなさい」
「・・・・・・失礼します」
ハルナはやはり不安そうにオレの方をちらちらと見ていた。

「大丈夫だって」と小声でウィンクすると、「もう!」と呟きながら笑った。

靴を脱いでリビングに行こうとしたところでおじさんが、
「カズト君、ちょっと、2階の私の書斎に来て貰えるかな」と階段を指差した。
「はい・・・・・・」

また、不安そうな目をしているハルナと目が合った。

おじさんの後について彼女が一緒に2階へ上がろうとしたところでおじさんが振り返った。
「男同士の話しだから、お前は席を外しなさい」
「でも・・・・・・」
ハルナは後に続くオレの方を、振り返り顔を曇らせた。
オレは黙って微笑んだ。

ハルナはしぶしぶオレの横を摺り抜けると、「ごめんね」と呟いて階下へと向かった。

再び、オレが手摺に手を掛け上を見上げると、おじさんの顔からは笑顔が消えていた。

オレは息を呑み、永遠に着かないだろうと思われる位、長い長い魔の23階段を一歩ずつ踏みしめて上って行った。



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苦渋の瞳

2006年02月16日 10時04分37秒 | 第12章 逡巡編
昨日の晴天とはうって変わって町は雨に煙っていた。
オレ達は車に乗り込むと帰路へと着いた。

オレは昨日ハルナから取り返したサングラスをかけ、忙しなく動くワイパーの先に目を凝らした。

「ハルナ、体大丈夫か?」
ハルナは一瞬躊躇しながら小さく頷いた。

「じゃぁ・・・・・・、これからマンションに来ないか?」
「え?!」
「だめ?」
「・・・・・・だめ」
「あんなんじゃ、全然足んないんですけど・・・・・・」
「そんな・・・・・・」

オレは咳払いをひとつすると、横目でハルナの反応を注意深く追った。
「今日はずっと抱き合っていたい」
ハルナは、「・・・・・・だめよ」と小さく呟くと、「今日、パパが帰ってくるの」と話題を変えた。

「え?!おじさん、出張先から戻って来るのか?」
「・・・・・・うん」
「じゃぁ、オレ、挨拶っつーか、謝りに行った方が良いな・・・・・・」

オレの言葉にハルナは慌てて、「あ!それは別の日がいいかも」と打ち消した。
「なんで?」
「実は、今日は高校の担任の先生が午後から来ることになってるの」
オレはオフクロの昨日の言葉を思い出した。
「学校、退学するって本当か?」
ハルナは無言で頷いた。
「じゃ、尚更、行かないとな」
「え?!」
「原因君のオレとしては結果ちゃんの人生に責任を取りたいしね」
「ぷっ!何、それ?!」
ハルナの顔に漸くいつもの笑顔が戻ってきた。

「オレ達、何でも言い合って、何でも相談し合える夫婦になろう。
だから、今回みたいな大事なことは独りで抱え込まないで真っ先にオレを頼って欲しい」

オレを見つめるハルナの目からはみるみる涙が零れてきた。
オレは左手でハルナの頬をなぞると、「ばぁ~か。泣いてんなよ」と笑った。

何でも言い合える夫婦・・・・・・か。
そう望みながら出来ない自分を心の中で嘲笑い、苦渋に満ちた目をサングラスの下に隠した。
そして、オレは、今にも口を突いて出そうになる言葉をギリギリと奥歯で噛み砕いた。

・・・・・・ハルナ、お前、昨日の夜は誰を想いながら抱かれていたんだ?と。




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