フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

開かれた扉

2006年02月11日 22時46分45秒 | 第12章 逡巡編
オレは息を震わせながら、部屋のチャイムを押した。
ハルナが中から鍵を開けてくれることを祈り、数秒待った。

・・・・・・頼む!開けてくれ!

胃がキリキリと痛み出す。
だが、中から鍵が開く気配は無かった。

これで最後だと自分に言い聞かせ、2度目のチャイムを鳴らした。
・・・・・・長い沈黙が流れたが、それでも扉が開くことは無かった・・・・・・。

頼む、ハルナ!ここを開けてくれ!
そして、オレにチャンスをくれ!

扉に額を付け目を瞑ると、知らず知らずのうちに呟いていた。

「頼む!頼む!!頼む!!!」

しかし、返って来たのは無言の拒絶だった。


オレは、もう笑うしかないと言った感じで「ははっ」と自嘲すると、重い足を引き摺って地下駐車場に通じるエレベーターに向かった。

そうだよな。
オレがあいつに付けてしまった心の傷を考えれば、これが当たり前だ。
あいつがまた以前のようにオレに接するようになったからと言って、オレを受け入れてくれるかと言えば、それはまた別の問題なのかもしれない。


だけど・・・・・・。


オレはエレベーターに乗り込むと、壁にもたれ掛かりそのままずるずると床にしゃがみ込んだ。

「やべっ・・・・・・」
なんか、らしくねぇけど、・・・・・・泣けてきた。

もう、永遠にあいつはオレを許して、受け入れてくれることはないような気がした。





だが、エレベーターの扉が後数センチで閉まるというところで、不意にオレはあいつの声が聞こえたような気がして、慌てて立ち上がり、今にも閉まりそうな扉をガッと抑えた。

エレベータの扉は開かれ、再びハルナへと通じる道を開けた。

「ハルナ!」

オレは、気のせいかもしれないが、何故だかお前が待ってくれてるような気がして、部屋を目指して走っていた。


オレが再びチャイムに手を伸ばしたその時、真っ白なガウンを羽織り、髪から水滴を滴らせながら、ハルナは慌てて部屋から飛び出してきた。

オレは驚きのあまり、チャイムを押そうとした手を「よ、よぉ?!」上げると、ハルナはポロポロと大粒の涙を流した。

そして、

「かずにぃのばか!!」

そう叫びながら、その華奢な体でオレを抱きしめたんだ。



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戻れない道

2006年02月11日 18時59分49秒 | 第12章 逡巡編
ホテルの中にある店に文庫本が売ってあったので手に取り、さして興味も惹かれなかったが時間潰しの為に買った。
ラウンジのソファに腰掛けると早速パラパラとページを捲り、そして1頁目に目を落とした。

だが、何度読んでも肝心の一行目が頭に入らない。
何度も何度もチャレンジしてみたところで溜息を吐き、腕時計を見た。

しかし、レストランを出てまだ5分と経っていなかった。

そこでもう一度気合を入れ直して本の一行目を読もうと集中した。
だが、やはり集中できず腕時計に目を落とす。

秒針は気忙しく動いていたが、長針の方はさっき見た時から1分も経っていない。

部屋に行くまでの30分がとてつもなく長い時間に感じられた。
「何やってんだよ、オレは・・・・・・」
本をぽんと手前のテーブルに放り投げると、両手で顔を覆い、上下に強く擦った。
こうすると脳まで酸素が行き渡り、落ち着くような気がする。

だが、心臓は正直だ。
「うるせぇよ・・・・・・」
自分の胸をドンと叩くと、ソファにもたれ掛かり、天井を仰ぎ見た。
天井にはまるでテレビで観たシスティーナ礼拝堂のような美しい天井画が描かれていた。

その絵の中のハルナに良く似た天使が柔らかな微笑をオレに投げ掛け、慈悲の手を差し延べているかのような錯覚を覚えた。

もしかしたら、あの時の選択は間違いだったのではないだろうか。
あいつはあの天使のように遠く手の届かない侵さざるべき聖域だったのではないか・・・・・・。
そーいや北尾も言っていたな。
侵さざる神聖な美少女だと・・・・・・。


オレは無意識にホテルの吹き抜けより更に先の何かを見ようと目を凝らしていた。




ピピピピピピ・・・・・・


30分経過を告げる腕時計のアラーム音にはっと我に還った。


ぼやけていた視点が天使の目線と交わった。
オレは祈るような気持ちで呟いていた。

「オレにチャンスをくれ」

オレは両足を踏ん張って立ち上がると、二度とは戻れない道を再び歩き始めた。



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