財布とパスポートだけを持つと僕は病室を飛び出した。
厚手のコートを引っ掛けたが、まだ、肺炎が治り切っていないためか喉が鳴り、悪寒や胸痛に苛まれた。
一台のタクシーがタイミング良く病院の玄関に滑り込んで来たため、僕は手を上げ、乗り込もうとした。
しかし、そのタクシーに乗っている二人連れが降りてきたのを見た瞬間、思わず後ろに後退った。
「……父さん!母さん!どうして?!」
「お前こそ、どうしたんだ。まだ退院出来ないって聞いてたんだが?」
僕はどう説明したものかとそこに立ち尽くしてしまっていた。
「それなのに、なぜここにいるんだ?」
「それは……」
タクシーの運転手がシートに手を掛け、「どうすんの?オニイサン、乗るの?乗んないの?」と、気だるそうな声で話し掛けてきた。
「どこに行こうとしているんだ?その体で……」
父はチアノーゼが出始めていた僕の手を取ると、僕の眼前に突きつけ、詰問した。
父は代金を精算すると「運転手さん、すみませんが出して下さい」と、運転手に話し掛けていた。
父の言葉を遮り、僕は今にも閉まりそうなドアに手を掛けた。
「待って下さい!」
「おいおい!ホントにもーどっちなんだよ?」
運転手はお手上げだと言わんばかりに両手を持ち上げるジェスチャーをした。
「すみません。父さん、僕は急いで行かなくてはならないところがあって……」
「何を取り乱しているんだ。お前らしくも無い。今、お前がしなくてはならないことは治療と静養だろう?……運転手さん、いいから出して下さい」
玄関から去るタクシーを追おうと走り出した僕の前に、母が手を広げて立ち塞がった。
そして、右手を振り上げると僕の頬を打った。
「その体で、どこに行こうと言うの?フラフラじゃないの!」
母の目からは涙が溢れていた。
僕はただ日本に帰りたかった。
何もかも捨ててでも君の元に行きたかったんだ……。
父は僕の肩をポンポンと叩くと、「とにかく病室に戻ろう」と笑った。
「治ってからでも遅くないでしょ?」と、母は僕に優しく微笑み掛けてくれた。
だけど、それでは遅いかもしれないんだ。
不吉な予感が僕の脳裏を翳めた。
僕達が病院の自動ドアをくぐろうとした時、もう一台のタクシーが滑り込んできた。
中からは血相を変えたハインツが転がるようにタクシーから飛び出してきた。
「ハインツ!」
ハインツは僕の元に走り寄ると、僕の腕を満身の力を込めて握り締めた。
「トール。大変なことになりました!」
ハインツの顔は更に蒼ざめていった。
「一体、どうしたんだ?落ち着いて、ハインツ」
僕は数分前に両親に投げ掛けられた言葉をそのまま彼に投げていた。
「トール、落ち着いて聞いて下さい。……ケッチャムが自殺しました」
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厚手のコートを引っ掛けたが、まだ、肺炎が治り切っていないためか喉が鳴り、悪寒や胸痛に苛まれた。
一台のタクシーがタイミング良く病院の玄関に滑り込んで来たため、僕は手を上げ、乗り込もうとした。
しかし、そのタクシーに乗っている二人連れが降りてきたのを見た瞬間、思わず後ろに後退った。
「……父さん!母さん!どうして?!」
「お前こそ、どうしたんだ。まだ退院出来ないって聞いてたんだが?」
僕はどう説明したものかとそこに立ち尽くしてしまっていた。
「それなのに、なぜここにいるんだ?」
「それは……」
タクシーの運転手がシートに手を掛け、「どうすんの?オニイサン、乗るの?乗んないの?」と、気だるそうな声で話し掛けてきた。
「どこに行こうとしているんだ?その体で……」
父はチアノーゼが出始めていた僕の手を取ると、僕の眼前に突きつけ、詰問した。
父は代金を精算すると「運転手さん、すみませんが出して下さい」と、運転手に話し掛けていた。
父の言葉を遮り、僕は今にも閉まりそうなドアに手を掛けた。
「待って下さい!」
「おいおい!ホントにもーどっちなんだよ?」
運転手はお手上げだと言わんばかりに両手を持ち上げるジェスチャーをした。
「すみません。父さん、僕は急いで行かなくてはならないところがあって……」
「何を取り乱しているんだ。お前らしくも無い。今、お前がしなくてはならないことは治療と静養だろう?……運転手さん、いいから出して下さい」
玄関から去るタクシーを追おうと走り出した僕の前に、母が手を広げて立ち塞がった。
そして、右手を振り上げると僕の頬を打った。
「その体で、どこに行こうと言うの?フラフラじゃないの!」
母の目からは涙が溢れていた。
僕はただ日本に帰りたかった。
何もかも捨ててでも君の元に行きたかったんだ……。
父は僕の肩をポンポンと叩くと、「とにかく病室に戻ろう」と笑った。
「治ってからでも遅くないでしょ?」と、母は僕に優しく微笑み掛けてくれた。
だけど、それでは遅いかもしれないんだ。
不吉な予感が僕の脳裏を翳めた。
僕達が病院の自動ドアをくぐろうとした時、もう一台のタクシーが滑り込んできた。
中からは血相を変えたハインツが転がるようにタクシーから飛び出してきた。
「ハインツ!」
ハインツは僕の元に走り寄ると、僕の腕を満身の力を込めて握り締めた。
「トール。大変なことになりました!」
ハインツの顔は更に蒼ざめていった。
「一体、どうしたんだ?落ち着いて、ハインツ」
僕は数分前に両親に投げ掛けられた言葉をそのまま彼に投げていた。
「トール、落ち着いて聞いて下さい。……ケッチャムが自殺しました」
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