PARK'S PARK

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『ジャズに生きた女たち』

2008年05月10日 | 本のレビュー
●素晴らしい本とCDに出会った!
『ジャズに生きた女たち』。そしてそのコンピレートアルバムである。
CDを聞きながら、この本を読んでいると、非常に気持ちの良い時間が過ごせる。

       

■この本では8人のジャズに生きた女たちを取り上げている。
       

本書の扉の言葉を引用したい。
アフリカン・アメリカンであること、そして男社会のジャズ界で女性であること。
本書に登場する女たちは、そんな”二重のマイノリティ”として音楽人生を生きた。
ジャズという音楽が何を背負ってきたか、彼女達の生き方は静かにそれを語ってくれる。

輝きと闇、強さと弱さ・・・。八人のジャズ・ウイミンの音楽と人生を描く。

■ジャズの創成期は男の社会であり、ここに女性が参入することには非常な苦労があった事は容易に想像できる。
さらに時代背景は麻薬、乱れた性モラル、貧困、無教養などネガティブな要因ばかりである。しかし混沌とした中にこそ、希望、喜び、悲哀をバネにしたエネルギーがジャズを生み出し、発展させたのでしょう。

著者の北川ヨウは非常に多くの資料を検証し、精力的に現場での取材を行い丁寧にレポートしている。

◆とり上げられた8人の女性ミュージシャンは言わずと知れた大物ばかりです。
一言ずつコメントをつけて紹介しましょう。

①リル・ハーディン・アームストロング【サッチモにジャズを教えた女性】
ルイ・アームストロングの妻であり、作曲家、ピアニスト。CDにはルイアームストロングのホット・ファイブが演奏するストラッティン・ウィズ・サム・バーベキューが収録されている。ニューオーリンズの香りが濃密に残るジャズ初期のエネルギーを感じる。

②ベッシー・スミス【ブルーズの女帝】
「クラッシク・ブルーズ」を確立したベッシー・スミス。たっぷりとした声量とエモーションのこめられたブルーズには、アフリカン・アメリカンの女性としての苦悩と、苦しみを笑い飛ばす気概があふれている。

③メアリー・ルー・ウィリアムス【ビッグバンドからビ・バップの温床】
はじめて作曲家、アレンジャーとして認められた女性と言って良いでしょう。
デューク・エリントンが「ジャンルを越えた人」と評価しています。ブルーズ、ブギウギ、ストライド・ピアノ、そしてスィングにビ・バップにと時代とともに変遷を遂げました。

④ビリー・ホリデイ【奇妙な果実の嘘】
本書のメインと言える人物です。”レディ・ディ”と呼ばれ今でこそ不世出のシンガーと誰もが認めていますが、生存中は十分な評価があったとは言えません。
肌の色が白いための差別、麻薬好きなダメ男好き。そういった負の要素を抱えながら渾身の力とまれに見る才能で歌ったからこそ彼女の歌声は人々を癒し続けるのでしょう。
CDに収録された「奇妙な果実」はリンチで殺されて吊るされた黒人を歌ったもの。非常に重い。彼女もこの歌は全身全霊をこめて歌わなければならないために歌うたびに力が尽きたと回想している。

⑤エラ・フィッツジェラルド【ファースト・レディ・オブ・ソング】
陽のあたる部分を見れば、グラミー賞13回受賞、経済的にも恵まれていたように思われています。しかしやはり日陰の部分があり、母親の死後、少年院に送られ脱走しホームレスになった幼い時代がありました。
「あの日に戻りたくない」と奮起する努力の人だったのです。

⑥パノニカ・ド・ケーニングスウォーター【ビ・バップを擁護した男爵夫人】
世界的な大富豪ロスチャイルド家に生まれた彼女はセロニアス・モンク、チャーリー・パーカーなどのビ・バップ時代のミュージシャンを支援しました。

⑦アリス・コルトレーン【ジョン・コルトレーンの遺志をついで】
ジョン・コルトレーンとの愛人関係を経て、結婚した1年後、ジョンは41歳にして肝臓癌で亡くなってしまうのです。彼女は遺志をついで精力的に活動をします。

⑧穐吉敏子『日本人のジャズの自覚と追求】
彼女は「グローバルな地平線に立った上で、自身のアイデンティティーを表現する」という21世紀的視線を時代に先駆けて持ち、地平を切り開いてきた音楽家と言えるでしょう。
さらにジャズと日本の文化を融合させた=グローバルでありながらアイデンティティに根ざした音楽を作り続けてきたのです。

★本書は二重のマイノリィティを背負った女性を通して、ジャズの歴史、悲哀、問題点を描き出している。
ジェンダーの壁が低くなり、活躍の場が増えている女性ミュージシャンの役割は今後も多くなっていくと考えられる。
女性たちがこれからのジャズを育て、変えて行くに違いないでしょう。