1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3/16・革命の作家、ゴーリキー

2013-03-16 | 文学
3月16日は、伊国の映画監督、ベルトルッチの誕生日(1941年)だが、露国の作家、マクシム・ゴーリキーが生まれた日でもある。
自分はゴーリキーの名前は昔から知っているけれど、その書いたものは、ほとんど読んでいない。ただ、彼の短編を、森鴎外がドイツ語経由で訳しているのを読んだことがある。若い兵卒と年老いた漁師が、夜の海辺で話すうち、漁師が昔あった恋愛事件を語るという内容だった。小品だけれど、なかなか味わい深い、さすが鴎外が紹介しようとしただけのことはある、と思わせる佳い作品だった。腕のいい作家だったのはまちがいない。

マクシム・ゴーリキー(本名、アレクセイ・マクシーモヴィチ・ペシコフ)は、1868年3月16日に、ロシア、現在のゴーリキー市で生まれた(ユリウス暦による)。
父親は家具職人だったが、3歳の息子マクシムがコレラにかかったのを看病していて感染し、病没。その後、母親が彼をおいて家を出ていき、頼っていた母方の家が破産し、あるいは彼自身が病気がちだったこともあって、マクシムは子ども時代から苦労して育った。
10歳のころから働かざるを得なかったゴーリキーは、くず拾い、靴屋の小僧、汽船の厨房の皿洗い、パン焼き職人などさまざまな職業を転々とした。
文学青年だった彼は、十九歳の時、孤独と失恋の痛手から拳銃自殺をはかった。たまたま通りかかった人の通報で病院へ運ばれ、弾丸摘出の手術を受けて、自殺は未遂に終わっている。
20歳のころから、民衆のなかへ入ってそこから革命を起こそうというヴ・ナロードの動きに合流し、革命運動にかかわりはじめた。
21歳のとき、革命運動に関与して逮捕。数日で釈放されるが、以来、ゴーリキーの行動はつねに帝政ロシアの警察の監視下におかれ、逮捕と釈放が繰り返されることになる。
各地を放浪するなか、作家のウラジミール・コロレンコに出会い、励まされて小説を書きだし、24歳のとき処女作『マカール・チュドラ』を新聞紙上に発表。30歳で『オーチェルクと短編』を出版し、一躍人気作家となった。34歳のとき、代表作の戯曲『どん底』初演。
1905年1月、サンクトペテルブルクであった「血の日曜日」事件に参加。逮捕され、保釈金を積んで釈放された。警察側の監視体制はいよいよ強まるが、そのなかで執筆を続けた。
1917年、ゴーリキーが49歳の年に、二月革命、十月革命が起きた。ゴーリキーは、革命を応援してきた論者で、ロシア革命成功後は、新政府によって優遇されたが、権力をにぎった革命政府が横暴を働きだすと、彼はレーニンやトロツキー、スターリンをも容赦なく批判し、今度は新政府ににらまれる存在となった。
61歳のとき、悪化した肺結核の療養のため、イタリアのソレントへ移ったが、64歳のときに帰国。ソヴィエト連邦政府は、有名人の帰国を、国家のいい宣伝材料として歓迎し、ゴーリキーに家や別荘を与え、彼の故郷を「ゴーリキー市」と改名した。
1936年6月、流行性感冒により没。68歳だった。スターリンによる大粛清がおこなわれていたころで、ゴーリキーの死には毒殺説も存在する。

ゴーリキーが67歳、亡くなる前の年に、『ジャン・クリストフ』の作家、ロマン・ロランが彼を家に訪ねている。そのときのことを、ロランはこう記している。
「ゴーリキーは敷居際に立って私たちを待っていた。もしスターリンが予想とはちがう人だとしたら、ゴーリキーは完全に想像どおりの顔であった。背がたいへん高い。私より高い。(中略)白髪混りのブロンドの眉、刈り込んだ灰色の頭髪、人の好い淡青色の眼。その眼の底に悲しみが見える」(佐藤清郎『ゴーリキーの生涯』筑摩書房)
人は、いろいろな見たいもの、見たくないものを見てくると、うすい青い悲しみ色の眼になるのかもしれない。
それにしても、苦しい家庭環境のなかから立ち上がり、絶望しかけたときもあったのを乗り越え、価値観がころころと変わる革命と動乱のきびしい時代をくぐりぬけた。しかも、背筋を曲げることなく、ぴんと立てて生き抜いた。みごとな生きざまだと敬服する。
(2013年3月16日)

著書
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句』
「風と共に去りぬ」から「ハリー・ポッター」まで、英語の名作の名文句(英文)を解説、英語ワンポイン・レッスンを添えた新読書ガイド。

『新入社員マナー常識』
メモ、電話、メールの書き方から、社内恋愛、退職の手順まで、新入社員の常識を、具体的な事例エピソードを交えて解説。

『こちらごみ収集現場 いちころにころ?』
ごみ収拾現場で働く男たちの壮絶おもしろ実話。

『12月生まれについて』
ゴダール、ディズニー、ハイネなど、12月誕生の31人の人物評論。ブログの元のオリジナル原稿収録。12月生まれの取扱説明書。

『ポエジー劇場 ねむりの町』
カラー絵本。ある日、街のすべての人が眠りこんでしまった。その裏には恐るべき秘密が……。サスペンス風ファンタジーの世界。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 3/15・OK、アンドリュー・... | トップ | 3/17・小説の神様、横光利一 »

コメントを投稿

文学」カテゴリの最新記事