1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

11月20日・カール・フォン・フリッシュの部屋

2019-11-20 | 科学
11月20日は、『ニルスのふしぎな旅』を書いた女流作家、セルマ・ラーゲルレーヴが生まれた日(1858年)だが、動物行動学者のカール・フォン・フリッシュの誕生日でもある。ハチの「8の字ダンス」を発見した人である。

カール・リッター・フォン・フリッシュは、1886年、オーストリアのウィーンで生まれた。父親は外科医で泌尿器科医だった。カールは4人兄弟のいちばん下だった。
カールははじめ医学の道に進んだが、途中で自然科学方面へ進路を変えた。24歳の年に博士号となった彼は、ミュンヘン大学の動物学部で助手となり、33歳のころ、教授になった。
彼が47歳の年にナチスが政権をとり、ユダヤ人への迫害が強まった。新しく成立した法律によって、市民は自分がアーリア人である(ユダヤ人でない)ことを証明する必要に迫られた。フリッシュは、自分の両親と、4人の祖父母のうちの3人まで証明できたが、残りのひとりの証明ができなかった。このため、彼は8分の1のユダヤ人と分類された。これを理由に、彼を追いだそうとする動きが起こり、彼は大学から追放された。追われた後も、彼は研究を続けた。
第二次世界大戦が終わった翌年、60歳の年に彼はグラーツ大学の教授となり、その後、ミュンヘン大学へもどり、72歳の年に退官した。退官後も研究を続けた彼は、87歳のときにノーベル生理学・医学賞を受賞。1982年6月、ミュンヘンで没した。95歳だった。

カール・フォン・フリッシュは、ニコ・ティンバーゲン、コンラート・ローレンツといっしょにノーベル生理学・医学賞を受賞した。ティンバーゲンは、最初のノーベル経済学賞を受賞したヤン・ティンバーゲンの弟である。
フリッシュは、ミツバチの嗅覚、味覚、視覚、位置の把握方法などを研究し、明らかにした。彼らは、自分の位置やからだの向きを、まず太陽の光によって知り、つぎに空の様子から、そして地球の磁気からも知ることができるという。
ミツバチが仲間にミツや花粉のありかを伝えるのに、巣の上をの字を描いて動きまわって見せるとき、太陽に対する角度が方向をあらわし、お尻を揺する時間が距離をあらわす。エサの場所が比較的近いときは、丸く円を描いて踊り、距離が遠くなると、8の字を描くのだそうだ。

学生のとき、同じ下宿にいた理学部生物学科の先輩の部屋へ行くと、飼っている虫の巣箱や標本箱で部屋中がいっぱいで、楽しかった。その暮らしぶりを見て、
「生物学をやる人というのは、研究対象といっしょに暮らすようになり、いわば人生そのものが虫や動物たちと一体化してしまうのだなあ」
と感心したけれど、おそらくフリッシュの部屋もハチだらけだったのだろう。いっしょに生活する家族は、ハチ嫌いだとやっていられない。
生物相手の研究暮らしは、虫や動物に気をつかう大変な生活だけれど、人に気をつかいながら生きるのとはちがって、そういうのも悪くない。
(2019年11月20日)



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