1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2/23・カッコイイ人、宇崎竜童

2013-02-23 | 音楽
2月23日は、名作『出家とその弟子』を書いた倉田百三の誕生日(1891年)だが、ロック・ミュージシャン、宇崎竜童(敬称略)が生まれた日でもある。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドを率いた宇崎竜童。山口百恵の「プレイバックPart2」を作曲した、あの宇崎竜童である。
自分がはじめて宇崎竜童を知ったのは、中学生のころだった。
それ以前にも、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン・ブギ」がヒットしていたのは知っていた。高校生が朝から晩までたばこを吸いつづけるという内容の歌詞で、全国の若者を中心に受けに受けていた。
が、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドが世間をあっと言わせたは、やはり「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」である。曲自体が斬新だった。ドラム、ベース、ギターが刻む強いビートをバックに、ボーカルの宇崎竜童が、歌うというより語る楽曲で、世界でもっとも初期のヒップ・ホップのひとつだと思う。曲のなかで繰り返し登場する「あんたあの娘のなんなのさ」のせりふは、大人から子どもまで、当時日本中で大流行したものだった。
およそNHK好みのバンドではなかったが、圧倒的な勢いで、年末のテレビ番組、紅白歌合戦にも、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドは出演した。「紅白」に出演する歌手たちがみな、ほかの歌手より目立とうと、競って派手な衣裳を用意するなか、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドは、いつもと同じ、シンプルな白いつなぎ、サングラスという扮装で登場し、「港のヨーコ~」を演奏した。出演者たちのなかで、いちばん目立っていたのがよく記憶に残っている。
自分はダウン・タウン・ブギウギ・バンドのCDをもっていて、いまでもときどき「港のヨーコ~」を聴くけれど、いま聴いてみても、古さをまったく感じない。サウンドがシャープで、演奏が洗練されている。数十年たってなお、新鮮でありつづける、あの曲づくりと演奏のセンスは、いったいなんなのだろう、と思う。

宇崎竜童は、1946年、京都で誕生した。デヴィッド・ボウイやビートたけしの一年先輩にあたる。
東京で育った宇崎は、明治大学の法科を出た後、27歳のころ、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドを結成し、上記の曲のほか、「知らず知らずのうちに」「カッコマン・ブギ」「裏切者の旅」「涙のシークレット・ラヴ」「沖縄ベイ・ブルース」「サクセス」「身も心も」「欲望の街」など名曲を発表。以後、竜童組のバンドや、あるいはソロとしても演奏活動を続けた。
自身で演奏活動をつづける一方、作曲家としても活躍。作詞家である奥さんの阿木燿子さん(特別に敬称付き)とコンビを組み、「横須賀ストーリー」「夢先案内人」「イミテイション・ゴールド」「プレイバックPart2」「絶体絶命」「美・サイレント」「しなやかに歌って」「ロックンロール・ウィドウ」「さよならの向う側」など一連の山口百恵のヒット曲をはじめとして、さまざまな歌手に楽曲を提供。1970年代を代表するヒットメイカーとなった。

宇崎竜童は、奥さんの燿子さんとは、同じ大学に通っていて知り合った仲で、はじめて見かけたとき、宇崎竜童はピンとくるものがあって、初対面の彼女にこう言ったという。
「あのー、あなたは、ぼくと結婚することになっているんですけど」
彼女はこう答えたそうだ。
「そういうことにはなっていないはずですけど」

それからだいぶたった後、二人がおしどり夫婦として、山口百恵のヒット曲を量産していたころ、阿木燿子さんが雑誌のインタビューに答えているのを読んだことがある。当時、彼女は才色兼備の女性として、世間の注目の的だったが、そんな彼女が、いまでも宇崎竜童がハンドルを握るバイクの後ろに乗って、ふたり乗りでツーリングに出かけるというのを聞き、インタビュアーが「危なくないですか?」と心配すると、彼女は笑ってこう答えた。
「のろけるわけじゃないんですけど、彼といっしょなら、いつ死んだっていいんです」
いい女だなあ、と、自分は思った。
まったく、この夫婦は、カッコイイ夫に、カッコイイ妻、なのである。

自分は、宇崎竜童に「カッコイイ」とはどういうことかを教わった気がする。
これは宇崎竜童がそう言ったというのではなく、自分が彼を見ていて、勝手にそう感じただけなのだけれど、いわく、
「『カッコイイ』とは、流行をまねしたり迎合したりするのでなく、自分の個性をストレートに押し出すことであり、いま自分が立っている場所にまっすぐに立っていることである」
もちろん自分も、カッコイイ存在になるべく、努力してきたし、また、しているのだが、なかなかカッコよくなりきれないままに、時間はすぎてゆく。
「カッコマンになりたくって、カッコマンになりきれない、カッコマンになりきれなきゃ、それが悩みの種じゃん」
と歌う「カッコマン・ブギ」は、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」のレコードの裏面の曲だった。
(2013年2月23日)

著書
『こちらごみ収集現場 いちころにころ?』

『新入社員マナー常識』

『出版の日本語幻想』

『12月生まれについて』

『ポエジー劇場 子犬のころ2』

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