1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2/3・美をにらむガートルード・スタイン

2013-02-03 | 美術
2月3日は、米国出身の作家、ガートルード・スタインの誕生日(1874年)。
ガートルード・スタインというと、自分はピカソが描いた「ガートルード・スタインの肖像」が真っ先に目に思い浮かぶ。
すわったスタインが、ひざに手をおき、斜に構えた感じで、なにかをじっとにらんでいる恰好の肖像画である。
もちろん自分はスタイン本人に会ったことがないけれど、ピカソの肖像画のほうが、写真よりも実物に近い気がする。

ガートルード・スタインは、米国ペンシルヴァニア州で生まれた。
「スタイン」の名前からわかる通り、ユダヤ系で、父親は羊毛を扱う商人で、鉄道会社に投資して潤沢な資産を築いていた。
ガートルードは、7人きょうだいの末っ子で、当初5人きょうだいだったのが、上の2人が死んだため、急遽もうけられた下の2人のひとりが彼女だった。
長男のマイクが資産運用にたけた人物で、彼らきょうだいはその運用利益で、なに不自由なく暮らしていける身分だった。
ガートルードは医学学校で勉強していたが、途中で退学。すぐ上の兄レオが住んでいたパリへ引っ越していった。これが1903年、29歳のとき。
スタイン兄妹は、サロンを開き、そこには大勢の新進画家、文学者などの芸術家が出入りした。
画家のマスス、ピカソ、ブラック、詩人のアポリネールなど。
「ガートルード・スタインの肖像」が描かれたのは、このころである。
ガートルード・スタインは新進画家たちの絵画を収集するとともに、彼ら現代芸術家たちを擁護する論陣を張り、「これが芸術家か」と反発の強かった一般の人たちに、しだいに新しい20世紀芸術を受け入れ、認めさせる啓蒙家的な役割を果たした。
スタインが買い集めた絵画は、しだいに値が上がり、ついにスタインも手が届かないくらいに高価になった。
執筆活動も旺盛で、著作に小説『三人の女』、評伝『アリス・B・トクラスの自伝』『みんなの自伝』などがある。
第二次大戦仲は、占領されたフランス国内にいたが、かろうじて迫害をまぬがれた。
1946年7月、胃ガンのため没。72歳だった。

自分がガートルード・スタインの書いたものを、はじめて読んだのは、ヘミングウェイの小説『日はまた昇る』の文庫本である。
このヘミングェイの処女小説の扉には、エピグラフとして、スタインのこんなことばか引用してある。
「あなたがたはみなうしなわれた世代の人たちです」
(You are all a lost generation. )
パリに住んでいたころのヘミングウェイに作文の指導をしたのは、スタインだった。

ところで、ピカソの「ガートルード・スタインの肖像」のスタインが、じっと、にらんでいるのは何だろう?
それは「美」だ、と自分は思う。
じっと「美」をにらむ。これが20世紀の新しいスタイルなのである。
それ以前、19世紀までは、芸術家が美の女神に祈りを捧げ、一心不乱に作品に打ち込めば、おのずとそこに「美」が生まれた。
しかし、20世紀に入るとそうはいかなくなった。
芸術家は、まず創作する前に「美」をじっとにらみすえ、悩まなくてはならなくなった。
これが、ピカソやスタインが掲げた芸術革命であり、「ガートルード・スタインの肖像」が重要であるゆえんである、と自分は考えている。
(2013年2月3日)


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