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平成22年度高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官あいさつ 平成22年6月9日
最高裁判所長官あいさつ
社会経済情勢の大きな変動の中で,人々の行動様式や価値観も多様化し,様々な問題についての意見の対立が深刻化しています。このような状況の下で,普遍的な法原理に則り,透明で公正な手続により紛争を解決する司法の意義は,ますます重要になっています。私たちは,時代の変化を的確に把握し,司法の機能を高め,社会の要請にこたえていかなければなりません。
裁判員制度が施行されて1年が経過しました。既に600件を超す事件について審理が行われましたが,これまでのところ,候補者の出席率は極めて高く,裁判員を経験した人々のほとんどが,審理や評議に参加できたことは有意義な体験であったとの感想を述べています。さらに,意見の中には,刑事裁判だけでなく,広く個人を取り巻く社会や制度にも関心を持つようになったといった深い認識を示すものもあります。裁判員制度は,国民の理解と協力を得るという点で順調な第一歩を踏み出したと言うことができると思います。今後,重大事件や複雑な否認事件等の審理が本格化する中で,多くの課題に直面することになりますが,法曹三者が協力して,これらを一つ一つ解決し,制度の安定的な運用を確立していく必要があります。まずは,公判廷での証言を中心とした審理を確保し,また,被告人に迅速な裁判を保障するため,公判前整理手続の機能を高め,速やかな審理を実現することが望まれます。
どのような制度の下であれ,正しい事実の認定は刑事裁判の要です。最近,長期間服役した人に対し,科学的証拠を検討し,再審で無罪の言渡しがされました。私たちは,改めて刑事裁判における事実認定の重要性を確認し,中でも科学的証拠の意義,機能について,速やかな検討を行い,その結果を広く刑事司法全般の運用に生かしていけるよう努めなければなりません。
経済情勢や法曹人口の増加等の構造的要因に基づく民事事件の動向に十分な注意を払う必要があることは,これまでも述べてきたところです。民事訴訟事件は,内容的にも数量的にも大きく変わってきており,今後,訴訟外の紛争解決手段との役割分担や連携の在り方について更に検討を深めるとともに,弁護士の果たすべき役割を視野に置いた合理的な訴訟実務の形成に向けて,取組を進めることが求められます。また,先端的分野における訴訟や社会に広範な影響を及ぼし紛争の実体について幅広い考察を必要とする訴訟なども増加しています。これらの事件については,法律的な知識に止まらず,対象となる事柄の内容や紛争の社会的実態などについての知識,理解が不可欠であり,的確な判断を行うために必要な情報を利用できるような態勢についても検討していかなければなりません。
家庭の姿を反映し,家事事件の態様にも著しい変化がうかがえます。家族間の事件であっても,関係者の利害の対立が激しく解決の困難な事件が増える一方で,これまで以上に家庭裁判所の専門的,後見的な機能の発揮が期待される事件も増加しています。家庭裁判所は,ともすれば,長年の実績を重視した運用を続けがちでしたが,このような事件の実態に照らし,それぞれの特質に対応できるよう機能の見直しを図ることが求められています。当事者の手続保障の強化等を柱とする家事審判法の改正作業はその一つの表れにほかなりません。法改正等に適切に対応するとともに,運用面でも,より合理的で柔軟な実務を目指して各職種の意識を改革し,改善,工夫に取り組んでいく必要があります。
司法制度改革によって導入された新しい法曹養成課程のもとで,既に多くの判事補が任官しました。裁判所を取り巻く環境や対象とする事件に様々な変化がありますが,裁判の担い手である裁判官に求められる資質や職務に必要とされる基本的な姿勢に,これまでと異なるものはありません。一つ一つの事件に誠実に向き合い,適切な手続の進行を通じて,早期に事件の核心をとらえ,明快な論理に支えられた妥当な判断を示すことは,裁判官の最も基本的な職責です。判事補として,まずこうした職責を着実に果たせるだけの力を身につけることがすべての基礎であると言えるでしょう。その上で,司法の直面している諸問題に対処していくためには,従来の運用を漫然と踏襲するだけでなく,自らが新たに実務を創り上げていくという気概をもって,日々の事件に取り組む姿勢が強く求められます。変動の著しい今日,すべての裁判官が,様々な課題について,自由な雰囲気の中で,闊達に意見を交換し,議論を深めていくことが必要です。
様々な課題を抱える中,日々の裁判事務については,適正迅速な裁判の実現のため着実な取組がされています。裁判所職員の真摯な執務姿勢は,裁判員裁判における接遇等の面でも国民から高い評価を受けているところです。職員各位には,こうした平素の執務姿勢こそが,司法に対する国民の信頼の基盤であることを改めて認識し,誠実に職務に取り組んでいただきたいと思います。
以上をもって,私のあいさつといたします。
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今後、ADRとの連携を深めていく事や、過去の運用に必ずしも頼らない事、法改正への適切な対応、よる柔軟な運用を行っていく事などが最高裁長官の口から語られています。
社会の変容に伴い、裁判所自体が大きな変革を迫られている事を感じているようです。