「一つ訊きたい」
「何だ」
「力。力のことだ。力がある、と言ったな。私には、自分を現す力があると」
奴は答えない。
「どれだけの力なのだ、それは。教えろ。笛森志穂は私の姿を見た。私の声を聞いた。私にできることはそこまでか。それとも、もっと何かできるのか」
もっと何か。私の切実な問いに対して、鬼は嘲りの笑みを浮かべた。笑うと言っても、口元がほんのわずか引き攣るだけである。だが、はっきり嘲りとわかる笑いである。
「例えばどんなことだ」
私は口をつぐんだ。意中には、空に持ち上げられる直前の出来事があった。あのとき、五岐警部は私の手を首筋に感じたのだろうか? もし可能なら、私は──私は、今度は、あの女の白い首筋に手をかけなければならない。復讐のため。復讐? いや、そんな単純なものではない。憎しみなら確かにある。私はあの女によって死に追いやられた。あの女を殺してやりたい。だが、慙愧もある。あの女の言葉を信じるなら、私が彼女の母を死に近づけたのだ。私は悔いても悔やみきれぬことをした! 憎悪と悔悟、この二つの心情が複雑に絡み合って・・・違う、違う。違うのだ。正直に語れ、宇津木邦広。そんな感情は皆、風の前の枯葉のようにどこかに追いやられてしまったではないか。そうなのだ。恥じらいもなく言おう。私はただ、ただ、あの女を陵辱したい。
(つづく)
「何だ」
「力。力のことだ。力がある、と言ったな。私には、自分を現す力があると」
奴は答えない。
「どれだけの力なのだ、それは。教えろ。笛森志穂は私の姿を見た。私の声を聞いた。私にできることはそこまでか。それとも、もっと何かできるのか」
もっと何か。私の切実な問いに対して、鬼は嘲りの笑みを浮かべた。笑うと言っても、口元がほんのわずか引き攣るだけである。だが、はっきり嘲りとわかる笑いである。
「例えばどんなことだ」
私は口をつぐんだ。意中には、空に持ち上げられる直前の出来事があった。あのとき、五岐警部は私の手を首筋に感じたのだろうか? もし可能なら、私は──私は、今度は、あの女の白い首筋に手をかけなければならない。復讐のため。復讐? いや、そんな単純なものではない。憎しみなら確かにある。私はあの女によって死に追いやられた。あの女を殺してやりたい。だが、慙愧もある。あの女の言葉を信じるなら、私が彼女の母を死に近づけたのだ。私は悔いても悔やみきれぬことをした! 憎悪と悔悟、この二つの心情が複雑に絡み合って・・・違う、違う。違うのだ。正直に語れ、宇津木邦広。そんな感情は皆、風の前の枯葉のようにどこかに追いやられてしまったではないか。そうなのだ。恥じらいもなく言おう。私はただ、ただ、あの女を陵辱したい。
(つづく)
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