た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

小雨(四杯目)

2005年10月04日 | 寄席
 「なんとなく陰気な名前でしょ」
 ママさんは慌てて首を横に振る私を、無視するように遠くを見つめて言葉を続けましたね。
 「でも、この名前にしないと、待ってることを忘れてしまう気がしてね。恐いんですよ」
 ほう、何を────というか誰を、と私は聞き返しました。たぶん男だろうな、とは見当がつきましたんでね。
 ママさんは静かな笑みを浮かべながら煙草を人差し指で叩いて、長い灰を落としました。
 「誰をって、そうねえ。何を待ってるってことに答えるなら、小雨の降る晩かなあ・・・」
 「へえ。じゃあ、まさに今晩じゃない」
 「正確に言えば、小雨の降るあの晩です」
 私は頬杖を突きました。実はちょっと寒気がしたんですが、まさか秋口にエアコン入れてくれも言えませんからねえ。さては雨に長く濡れすぎたか、と今更ながらその晩の徘徊を後悔しましたね、ちょっとだけ。
 「この話聞きたいですか?」
 ママさんは物憂げな目でじっと私を見つめました。物憂げな目で美人に見つめられたらですよ。もちろん、と答えるより他ないでしょうに。(つづく) 
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