た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

秋雨

2018年09月21日 | 断片

 秋雨が続く。

 近所の老人は小雨が降る中でも杖を突きながら買い物に出る。

 私は窓から秋雨を眺める。 

 子供の頃、秋の匂いと言えば、枯葉積もる山道に落ちた栗の匂いだった。

 栗拾いによく行かされた。火箸とビニル袋を持たされて、袋一杯取ってこい、というわけである。家の裏山には何本も栗の木があった。おそらく植えたものではなく、自生したものだろう。栗の木がたくさん生えていれば、当然落ちた栗も無数にある。栗のイガを両足で踏みつけると、開いた口から艶やかな栗の実が顔を覗かせる。少しすえた様な、甘ったるいような香りが鼻を突いた。秋は冷ややかでしっとりとした風が吹き、雪深い冬の到来を肌身に感じながら、物寂しさと、秋の実りやら炬燵やら雪合戦やら、これから始まる新しい季節に対する穏やかな興奮がないまぜになって、幼心にも妙に印象深い季節であった。

 あの匂いは、今の生活にはない。

 秋雨の中を、杖を突いた老人が小さなビニル袋を提げて戻ってくる。

 私は窓から静かに離れる。

 

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