都立高専交流委員会ブログ

都立高専と城南地域の中小企業(特に製造業)との交流・連係を図り、相互の利益と地域社会・地域経済の発展を目指します。

東京都教育委員会 「高専改革検討委員会 報告書」 について

2007年08月19日 | Weblog

       東京都教育委員会 高専改革検討委員会 報告書 について
 

                                                   ( 田中 基茂 ) 
 
 
 平成16年末に作成された
 都立高専改革の「報告書」について、ご紹介させていただきます。
 
 この「報告書」は、東京都教育委員会が作成したもので
 都立工業高専(品川)、都立航空高専(荒川)の統合による 都立産業技術高専 の新設
 専攻科の設置、産業技術大学院大学の併設、更に、公立行政法人・首都大学東京への経営統合を展望し、
 高専改革と新高専のあり方を提示するものです。
 
 全体のコンセプトを図で表わしたのが下記(「検討委員会」委員名簿などを含む)
  http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/gakumu/kousenkaikaku/shiryo.pdf
 (1枚目の右下「新高専の特色」では、「中小企業家経営塾」の発展が「専攻科」の課題となっています。)
 
 「報告書」の全文が下記となります。
  http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/gakumu/kousenkaikaku/honbun.pdf
 
 
 この「改革検討委員会」は、
 東京都教育委員会が主導、ここに、都立高専や企業の関係者などを入れて構成されており、
 高専(品川キャンパス)よりは、藤田現校長、西村前校長、中西先生他が委員に入り、
 企業経営者では、大田支部 ㈱クマクラ 熊倉賢一氏、
 中小企業家経営塾の講師をお願いした ㈱篠崎製作所 高鍬宏氏 もメンバ-になっています。
 
 
 これは、全くの私見ですが

 基本的なコンセプトでは
 ややもすると、「机上の改革の空回り」 という印象を拭えません。
 
 やみくもに 「高度化」 や 「新しいもの」 を求め、
 創造性や、自ら課題を発見し、分析・解決する能力を育成する等は
 学生達を対象として唱えられるものではないと思います。
   
 それは
 何よりも、大人の世界に向けられるべきものであるように思います。
  
 (もちろん、大人の世界の虚しさを紛らわす呪文ではありません。)
 
 問題(現象)を指摘(認識)することと、
 問題を解決する(客観的な現状評価ににより、問題の本質を理解し、新しい課題を明確にすると共に
 従来はなかったような様々な要素を結びつけ、この課題解決の方向づけや条件づくり行い、
 これを実現する新しい組織スキ-ムやロ-ドマップをつくりあげる)ことは
 まったく、違ったプロセスを意味します。
 
 改革の目標となるのは、教育政策のあり方や政策形成プロセスですし
 
 公教育(専門的な職業学校)の目的となるのは
 複雑な社会を生き抜いていくための基礎学力(職業人としての基礎的能力)を学生に与えていくことでしょう。
 
 この基礎学力(能力)のあり方が、
 社会(時代)の変化によってどのように変わっているのか? を明確にし
 社会を生き抜いていくための基盤となる能力をバランスよく育成し、
 若者達の自立を支えるために何をなすべきかを議論すべきだと思います。
 
 
 とはいえ、この「報告書」、
 
 各論に入っていくと、大変有意義な改革の考え方やプログラムが提示されていきます。
 
 以下は、「本文」(上記のアドレスの後段)の最後の項になる「3.高専教育の特色」よりの抜粋です。
 今後の交流・連携のあり方を考える上で、重要と思われる点を抜きだしました。(強調も当方)
 ご興味をお持ちの方は、全文にも、目をお通し下さい。
 
 「③ 産業界との連携 2) 企業経営者の講師招へい(企業との双方向の交流)」では、
 「中小企業家経営塾」の発展の方向などについても記載されています。
 

  
 
      高専改革検討委員会 報告書   3.新高専の教育の特色
 
 
 東京は、日本の首都として企業の本社機能や金融機関、情報機関が集中する政治、経済の中心であり、世界の中でも有数の大都市である。
 また、東京の産業は、製造業等の事業所が約7万社、そこに働く労働者は約100万人を越えている(平成13年度事業所・企業統計調査)。
 更に東京の特徴としては、工業集積地域が多いことであり、品川区や大田区のいわゆる城南地域、足立区、荒川区、葛飾区等の城東地域など京浜工業地帯を代表する工業集積地域が存在している。
 このような状況下で、新高専の役割は、こうした集積地域の企業を人的資源の面から下支えすることである。
 そのためには、地域における共有の財産である高等専門学校基盤技術等を習得した「実践型技術者」を引き続き養成し、入学選抜とカリキュラムの工夫により、教育理念に示した「一専多能」型人材を輩出させていくことが求められている。また、新高専に新たに設置する専攻科、更には産業技術大学院に至る9年間の一貫とした新たな教育課程を通じて、ものづくりのスペシャリスト、すなわち「開発型技術者」を養成することが必要不可欠である。
 新高専の教育の特色は、東京のものづくり産業の基盤の強化に資するものであるとともに、新高専の立地のメリットを最大限に生かした教育プログラムを提供できることにある。
 
 
      ① 日本で唯一の専門職大学院と一体化した高専教育
 
 新たに専攻科を設置し、産業技術大学院との接続を視野に入れることにより、16歳から9年間の一貫した体系的な技術者教育が可能になる。これまでも持っていた実験・実習重視教育の優位性に加え、より高度な知識、技術、手法を身に付けることのできる教育プログラムを用意することによって、産業界及び都民が求める多様なものづくり人材のニ-ズに対応していく。
 図にあるように、学科・コ-ス構成は、「機械」「電気電子」「情報」の三つの基盤技術に「ロボット」「医療福祉」「航空宇宙」の三つの総合技術を加えた専門技術教育を、「技術者倫理」「国語力・英語力」「基礎教養」といった一般教養教育がしっかりと支える。加えて、新高専の立地のメリットを生かした産学公連携や「東京工学」の視点からの様々な教育プログラムを導入し、教育の効果を高めていく。
 産業技術大学院には、毎年、専攻科卒業生が一定程度進学できるよう制度設計が望まれるが、参考資料「新都立高専『ものづくり一貫教育』の体系図」(略)にあるように、専攻科各コ-スから大学院に予定されている二つのコ-スへの接続が考えられる。
 
  
      ② JABEE及びISOの取得  --略--
 
 
      ③ 産業界との連携
 
    1) 産学公連携、共同研究の推進
 
 企業ニ-ズと高等専門学校のシ-ズによる産学公連携や共同研究を積極的に推進するとともに、行政が抱える政策課題等の解決に向けた支援・協力体制を構築することが必要である。
 そのため、新高専としては、企業と大学のコ-ディネ-ト機能企業と自らの研究シ-ズを用いた共同研究の推進、更には行政課題に積極的にかかわる仕組み高等専門学校のベンチャ-ビジネスの創設学校内のインキュベ-ションオフィスの設置など企業との連携施策について検討していく必要がある。
 
    2) 企業経営者の講師招へい(企業との双方向の交流)
 
 高等専門学校のカリキュラムの作成に当たっては、企業の意向等も十分に踏まえ実施しているところである。
 しかし、今後、企業の中でより実践的な就業を確かなものにするためには、企業の経営者などを講師として招へいし、より実践的かつ即応型な実習や研究を行うことが必要である。また、企業における教員のリカレント研修の実施なども有効である。
 新高専が地域の財産として、就職の受け皿としての企業と双方向性の協力関係を打ち出すことが必要である。
 そのためには、今後、教員の人事・任用制度の検討に当たって、外部人材の登用を積極的に検討すべきである。
 また、これまで産学連携の一環で実施していた「中小企業経営塾」を更に発展させ、企業家精神や経営的センスを学ぶ「ものづくり経営塾(仮称)」として位置付ける。
 
    3) 長期インタ-ンシップの実施
 
 一般的には、学生が企業に就職し、自身の能力を最大限に発揮しながら企業に定着し、企業からも期待される姿が望ましい。
 そのためには、学生自身が企業において一定期間就労するなどのインタ-ンシップが効果的であり、現在も1週間程度の期間で実施している。
 しかし、企業からは、「仕事を覚えたところで期間が終了してしまう」との声が聞かれる一方、学生自身も「職場に慣れないまま終了し」、本来のインタ-ンシップの目的が達成されない状況にある。
 そのため、今後は、1か月以上のインタ-ンシップを実施することにより、企業内における臨場感を体験するとともに、時には壁にぶつかり失敗を経験するなどして人間としての真の強さを鍛錬する良い機会となるよう再構築する。また、インタ-ンシップでは、単位取得が可能となる制度として検討していくことが必要である。
 また、インタ-ンシップの対象についても企業ばかりでなく、清掃工場、下水処理施設、交通局など公的な機関に拡大していく。
 
    4) 企業後継者特別推薦枠の創設(企業後継者支援システム)
 新高専の本科8コ-スに一定程度の「後継者特別推薦枠」を創設し、企業の後継者問題の解決に向けた取り組みを進める必要がある。
 今後の入試方法等の検討に当たっては、「企業後継者支援システム」の実施の可能性も含め検討すべきである。
 
 
      ④ 「東京工学」に資する人材の育成  --略--
 
 
      ⑤ 海外留学生の受入  --略--
 
 
      ⑥ 一般教養力の強化と多様な入学選抜の実施  --略--
 
 
      ⑦ 小中学校・高等学校との連携  --略--
 
 
      ⑧ 知的財産権システムの確立  --略--
 
 
      ⑨ 試験研究機関等との連携  --略(都立産技研等との連携)--
 
 
      ⑩ 教育システムの外部評価
 
 教育・研究水準の向上を図り、新高専の使命である首都東京の産業振興や課題解決に貢献するものづくり人材の育成を達成するため、教育システム(カリキュラム・授業方法・成績評価・教員の教育研究評価等)について自ら点検・評価を行い、その結果を公表するのみならず、産業技術大学院の教授や企業の技術者等外部有識者による外部評価及び提言を受け、教員の資質向上を図るとともに、教育、研究、学校運営等の改善充実に努めなければならない。
 特に高専卒業生(本科、専攻科)を受け入れている企業等に、ものづくり一貫教育を受けた学生の能力、技術力等について聞き取り調査等を行い、その実態を把握し、カリキュラム編成等に反映していく必要がある。
 
 
      ⑪ 運営体制
 
 現在、都立高等専門学校は、東京都教育委員会に属しているが、人事、財政面における弾力的な運営を図るためには、独立行政法人への移行を検討する必要がある。
 都立大学など4校の大学・短大は、平成17年4月から新たに公立大学法人首都大学東京として開校することとなっている。
 高等専門学校は、都立の大学と同様に高等教育機関として位置づけられていることから、新高専の独立行政法人化の検討に当たっては、高等専門学校単独で移行を検討するよりも、スケ-ルメリットを十分生かし、首都大学東京との一体的な運営方法を検討すべきである。
 
 
      ⑫ 新高専の将来像(5年後のリニュ-アルの取組)
 
 新高専は、平成18年4月に開校し、平成22年度には完成する。
 そこで、平成22年度を見据えて、本科(8コ-ス)、専攻科(4コ-ス)について再度の見直しを図る必要があり、デザインコ-スやマテリアルコ-ス、ソフト開発コ-スなど人材確保も含め、都民や企業から期待される新高専としてなお一層の見直しを図るべきである。