織内将男の山旅の記録

若かりし頃よりの山旅の記録です・・!!

立山・剱岳「天の記」(21) 「彷徨の下山」

2009年07月26日 | 立山・剣岳
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立山・剱岳「天の記」(21) 「彷徨の下山」

黙々、黙然と相変わらず岩との格闘している最中、一人・単独の岳人に出会った。
軽い気持ちで何時ものように「こんちは、お疲れさん・・!」と声をかける。 
通常、山歩きですれ違う場合、見ず知らず同士ででも大抵の場合、勇を気する為もあって挨拶を交わすのは普通のことになっている。 まして、お互い状況が厳しい中にあっては、励ます意味と気を交換するためにも、普段の挨拶以上に言葉のやり取りをするのが有効な時もある。 しかし、彼の場合は常態とは異なっていた。 視線は訝(いぶか)しく、相手(小生)を避けるように無言のうちに脚足早く通り過ぎて行ったのである。
稀有な感じであり・・!、彼のパーソナリテーなのか、疲労や天候不順による心身の変化なのか・・、相手を想いつつも自分は一体どうなっているのか、疑問を我が身にも振りかけながら先を急いだ。

しばらく、クサリ場やハシゴ、岩場を登ったり、降りたり、這いずったり、横切ったりと相変わらずの連続であり、下山とはいっても気楽な気持ちは微塵も無い。 霧の状態も先ほどより濃淡が判るようになり、動きも感じられるが、しかし、未だ煙幕のようなガスが風雨を伴って襲う時もある。 
時間的な感覚でもそろそろ前剣のピークに来てもよさそうだが、と思いを巡らしながら激しい岩場の格闘が暫く続き、右手の大岩から正面に塞がる岩壁を「ひょい」と超えたところで前が開けた・・!。 
そして、よく観ると「これは又、何たる事か、遥か以前に・・?、越したと思っていた例の平蔵の避難小屋が眼前に現れたのだ・・!!」 一瞬、目をこすり、幻ではないか・・と冷静に確認したが、それは、まぎれも無い頂上直下の避難小屋で、しかも先ほど通過して筈の避難小屋であったのだ。 夢中になって退路を急いで・・?来たのに、否、夢中だったからこそ勘違いが生じてしまったのかも知れない・・?。 はた又、避難小屋という完全な目じるしが無かったら、そのまま剣本峰へ登り返していたかも知れないのだ。

小屋で地図を広げ、冷静になって進路を(この場合は退路)確かめたが、何処で、どう間違えたのか明瞭な判断は着かなかった。 とにかく今来た道(足跡)を着実に引き返せば、何処で、どう間違えたか察しがつくはずと思い、又、それ以外実行する手立て(足立て・・?)はなかった。 幸いというか・・、ふみ跡やルートを外し、所謂、進路不明の迷子状態になった訳ではなかったのである。
普通の山道であれば概ね登り、下りは鮮明の筈であるが、事、ここに及んでいる状態は闇の中で、岩場の冷徹な場所で、鎖やハシゴで夢中になって上り下りを繰り返しているのである。 従って、一息入れて何気なく、さて参ろうかという時に、極めて似たような場所、状況なので、うっかり今来たルートを戻りかねないのは充分考えられるのである。 謂わば、一種の猫袋(昔の運動会で顔に袋を被せ、目暗状態にしてゴールへ向かう)状態・・?。

その後になって原因としては、どうやら前剣と平蔵の頭の谷間で一息入れて、さて出発という時にそのまま逆道を行ってしまったようである。
それにしても、この自然の悪戯(自分の不注意)に一瞬、茫然自失にさせられたことは事実で、まかり間違って踏み跡を外していたら、たちまち遭難に追い込まれるとこでもあった。 用心、用心・・!!。
剣岳に一つの借りが出来たので、次回にその借りを返しに再来することを自問自答しながら剣山荘へ急いだ。 無事到着し、早速小屋の係員にその旨を話したら「特にこんな日(濃霧)は、岩場では間違いが起こりやすく、時折、その様な話を聞くときがありますよ・・!」と言っていた。
因みに、最近では岩場のルートを間違えないように危険な場所やルートには、プレートでルート番号、場所、進行矢印などを表記しているらしい。

今夜は疲れきった身体をじっくり休ませ、明日下山することにした。

次回は、終章


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