織内将男の山旅の記録

若かりし頃よりの山旅の記録です・・!!

立山・剱岳「天の記」(14) 「前剣(軍隊剣)」

2009年07月18日 | 立山・剣岳
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写真:前剣全容と頂上


立山・剱岳「天の記」(14) 「前剣(軍隊剣)」

一服剣の頂上で息を整えた後は、直ちに不休直進、前進である。
今まではどちらかと言えば剣御前、一服剣をつなぐ稜線の東側である風下にあって、風力は余り感じられなかったが、一服剣を過ぎると稜線歩きになる。 従って、西の谷あいからモロに吹付ける風圧は相当なものであり、しかも、体が浮かされるように、谷から吹き上がってくるのである。 風の音も、岩角や草花に当たって微妙な音の違いを発し、風波の強弱を現しているようでもある。 風波が強そうな時は、身を屈めて風に逆らわないように、安定を保ちながらソロリと前進する。 又、風には地形によって強弱があり、吹き溜まり・・?のような常時、吹付けているところもあるようで、そんなところは出来るだけ早めに行動をするか、風除けになっているようなところを選びながら進むように気を配るのである。
進路によって、どうしようもなく風に曝されるところもあるが、この尾根はどちらかといえば稜線より微かながら東よりの風下の路程が多いようで助かる。

下りきったところが「武蔵のコル」という。 
鮮明ではないが、この右直下には武蔵谷が口を開いていることだろう・
剱岳周辺には平蔵とか、源次郎、長次郎といった人名が多く使われている。 剱岳黎明期において名だたる名ガイドの名前であり、武蔵というのも同様に人の名前と想像するが、何処の、誰で、どのような人であったかは定かでない。
この稜線の谷に当たる地は、堰の放流口といったところで風の集積場でもあり、強烈な風が絶え間なく吹き付けている。 風の当たる面積を最小限に縮めて、しかも安定姿勢で、いち早くこの場を退散する。
歩きにくいガラ場(山用語で、山の斜面が崩れて、岩石がごろごろしている場所)を少々行ったところから、直に登り返す。 いきなり一枚岩のような大岩にぶつかった、垂直に切り立った岩壁で逃げ道は無い様である。 見ると一本のクサリが張ってあり、踏み跡のスタンスもしっかり付いていたので難なく通過する。 

われ等は遮えぎられっぱなしの、所謂、霧中を(五里霧中ではない)を夢中(無我夢中ではない)になって歩を運んでいるのだが、それでも時折、瞬間的であるが目の前のガスがスーッと消える時がある。 そんな時、どうゆうわけか山高いが故に水平、若しくは足下を見てしまう。 そしてこの地、或いはこの先の足下は間違いなく吸い込まれそうな千尋の谷底が口を開いているのである。 霧中は、それらの恐怖心を幾らかでも和らげて呉れているのか・・?、そして、目の先には要塞のような相変わらずの垂直の灰色の岩稜が立ちはだかっている・・!。
雨も次第に激しくなっている、そして風のほうも相変わらず吹きまくっている。 
行き交う人も無く、われ等は風と霧の世界で沈黙の中、遅々として前進する。 
どうやら前剣のピークへ達したようである、時に8時少々回っていた。 不順な天候と緊張の連続で、時間の経過など気にしなくなっていたようだが、意外と早めに行動しているらしい。 
この前剣のことを戦前の頃までは「軍隊剣」と称していたらしい。 
戦前、中部方面隊え陸軍歩兵部隊の精鋭が濃霧の中、登山訓練と称して剣岳を目指した際、前方が霧で全く見えなかった為、このピークを剣山頂と勘違いして登頂成功を祝い、万歳をして下山したためその名が付いたとされている。
立山・剣の登山地図にも前剣のところに括弧付けで軍隊剣としている。

次回は、平蔵の頭へ・・、


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立山・剱岳「天の記」(13) 「登行 一服剣」

2009年07月18日 | 立山・剣岳
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写真:一服剣と付近から見る前剣の岩峰


立山・剱岳「天の記」(13) 「登行 一服剣」  

ゾクゾクするようなこの峰、何時まで経っても見飽きることのない山・・!、この感覚はやはり只者ではない山である。 しかし、このようなセンチメンタルな感傷には慕ってはいられない。この山には明日は是が非でもアタックするのだ。
明日の天気を考えると是非晴れてほしい、穏やかであった欲しいとは思う。 だが、相手は気ままな自然である、峰からくる拒否反応もあるだろうし、威圧的に敬遠されるかもしれない。 しかし、われ等は精神一到、多少の悪天候は覚悟で登頂を心に決める。

夜が明けた・・!、
昨夜から今日にかけての県下・立山地方の天気予報は、前線の影響で山沿いは霧又は小雨とあった。 案の定、明け方は濃霧にスッポリと囲まれていて、時折、風を伴って霧雨が吹き付ける。 昨夕、あれだけ鮮明に望めた本峰も、霧に隠れて姿は無かった。
気が入らないまま簡単な朝食を作って6時過ぎ、取り敢えず「剣山荘」へ向けて出立した。 万が一の時は、どちらかの山小屋で沈没するつもりだ・・!。
小屋のすぐ裏の小さな雪渓をトラバースしながら、ほぼ水平の道を歩くと程なくして「剣山荘」へ着いた。 ちょうど剱岳直下の取付き点のところにあり、最終のベースといったところで、新装成ったモダンな山小屋でもある。

一息入れながら本格的に雨具を装着する・・、 
小屋より上部から完全にガス(濃霧)の世界であり、風に混じって小雨も吹き付けている。
小屋の主人に伺うと「風はそんなに強いわけでないし、岩場も濡れているが足場はしっかりしているから慎重に登って行けば、登れんことはナカヨ・・」という。
勇気をチョット戴いた気分で、早速登りに掛かる。 雨用のナイロンズボン、ザックまで被せるナイロンポンチョ、ナイロン帽に軍手と一通りの準備をして剣山荘を後にした。

小屋脇から直ちに、直登に入った・・、
本来ならすぐ正面に、否、頭上に一服剣の勇姿が聳え立っていて、それを目標に足跡を辿ればよいのだが、霧に阻まれ、濡れた岩場のザク石は足跡もままならない。 それでも道を外さぬよう慎重に、黙々と、ただ黙々と歩を進める。
雪を被ったようなコバイケソウの花が雨に濡れてそよいでいる。 そして、花の終わりかけたシナノキンバイの黄色い群落も、風にチロチロと揺れている。 
花々に励まされながら、こちらもチロチロと歩むのみである。

高度が上がるに従って先刻より雨のほうがやや強くなってきたが、風のほうはさほど変わらず助かる。 下山してきた或るパーティに上の様子を伺ったところ「私たちはアクシデントがあってこの上の一服剣にまでしか行ってませんが、ココと余り変わってはいませんでした、ただ、風がチョット強かったですね・・」と話していた。 
一服剣は、ほんの前衛の峰に過ぎない。 その先の前剣、そして本峰が本来の目的地である。 どんなアクシデントかは知らないが、われらはその様な事が無いように、気持ちを更に引き締めて前進する。
次第に傾斜もきつくなり、岩陵地帯になってきて犬猫よろしく四つ脚で・・?グングン高度を稼ぐ。 巨大な岩を傍に見て、ほぼ垂直の壁を乗り越えたところが「一服剣」の頂上であった。 本来なら眼前にそそり立つ壁のような前剣、そして本峰の巨大な山容が現れ、我らを招いてくれるだろうが、今は全く無常無味である。

次回は、前剣へ


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