「登山、丹沢山塊、東丹沢・山迷記」
「人気の表尾根から東丹沢の札掛けへ抜けてみたが、
その札掛けからの帰路、とんでもない事になってしまった。
初春の、サンサンと雪の降る夜だった・・。」
表丹沢:「丹沢山迷記(7)」
昔、夢中になっていた「山」に関する過去の雑記、メモを整理しながら記載しております。
お茶など出ませんが、同じ趣味、興味のある方は立寄って御覧ください。
現在と比較しながら眺めるのも一興でしょう・・。
表尾根登山基地の「ヤビツ峠」
「反省」・・、
札掛けを出発してから2時間以上は経過していた。
沢は陰惨でドス暗く、無情な雪が我等を呑み込んでしまいそうである。二人は無言の内に今来た道を引き返している。
「いいかね・・、俺が発言し、引き返す行動を取ったことに対して一言だけ言わしてもらう・・、それは、“このルートは絶対に間違っている”とは確信というか、確証はない。 ただ、結果的にもし間違っていたら我等は大いに反省しなければならないと思うし。 もしも、この道が正しかったとすれば、此れに対しては謙虚であって、絶対に悔いたりはしないこと。 これだけは判って欲しい・・!、」、「そして、今日は取りあえず札掛けまで戻って、そこで今日の宿を取ろう、明日の大事さは判るけど・・、明日のことは明日考えよう」
彼は、「そのことは承知した・・。 それでも、今でもこの道が正規の道であることは、今でも7割ぐらいは思っている。」
私は、この一言に対して理由を問いただしたが、納得のいく明解な返答は彼の口からは返ってこなかった。
戻りのペースは早かった。
今通ったばかりの踏み跡を頼りに突き進んだ。
険悪だった沢ずたいの道もいつしか明るくなり、やがて、覚えの或る林道へ出て胸を撫で下ろしたのは、既に19時半も回っていた。
そこで、もう一度冷静になって状況を振り返って考えたところ・・、合点が合うのは最初の出発点(札掛)から感違いして進んできたのではないか・・??、 この疑問に小生、些か身震いが生じた。 まさか・・?、と思ったがこの疑問は札掛けに着くまで解消しなかった。
夜中も8時を過ぎた頃、やっとの思いで札掛けの「丹沢ホーム」の宿泊施設に着いた。
玄関ドアーを開けると怪訝そうに先ほどの「おばさん」が出てきた。
「あら・・、あんだ方はさっきの・・・!」
「はいそうです、」と答えて、早速ながら・・、
『ヤビツ峠へ行く道は、どちらになりますか・・??』と切り出したところ・・。
「あれま・・、橋を渡った向こう側を右へ行く道がそうですけんど・・、」という・・。
我等は、次の言葉が出なかったのは当然であった。
検めて地図を確認した・・。
我等が3時間余の放浪を強いられたのは、『タライゴヤ沢』という・・。
タライゴヤ沢とは・・、
表尾根の上部、新大日からのびる長尾尾根の南部を流れる沢で、新大日の下山コースでもある。 又、タライゴヤ沢やその上流の境沢の谷を遡上する沢登りも堪能できる。
クマタカやヤマセミでも有名なこの付近は、丹沢の隠れた渓谷美でもあり、ブナの原生林も広がる。
しかし、以前は沢筋の登山道が荒れており、迷いやすくかなり危険で一般にはすすめられなかった。
だが最近は再整備がほぼ完了し、現在は安全なコースとなったらしい。
札掛→タライゴヤ沢→境沢→長尾尾根→札掛で約5時間。 札掛・丹沢ホームをベースにすればゆっくり楽しめる。
確かにホームの前から林道が延びていて途中で無くなり、その後は沢ずたいの道を詰めてゆくようになる。 何とそこは、我等が下山時に通ってきた「長尾根」に達し、表尾根に続く道だったのである。
そして、地図をもっと丁寧に、冷静に観れば当然判るはずであった。
我等は、がっくりと肩を落としたのは云うまでもない。
検めて想うに・・、我等の軽率さもさることながら、多くの山へ入っていると思わぬことが起るもんだと・・!。 そして、雪も降るこの時節、深い山中でこのようなことが起ったら或いは遭難も・・、と思うと身震いを禁じえなかった・・!!。
そして、更に綿密な調査、計画、状況把握、地理と地図の整合性、何よりも決断の速さと そして何よりも、疑問が生じ、解消できない場合は厳に行動を慎まなければならない・・!!。
これは山歩き、山屋の鉄則であろう・・!。
それに「自然」を、「山」を甘く見ないことである。
今回は、反省の多い山旅であった。 『終』