釜石の日々

ルビコン川を渡った日本

太平洋戦争敗戦の前年、1944年の日本の政府債務は1520億円であった。この年のGDPは697億円なので、政府債務はGDP比で218%であった。敗戦後の政府は預金封鎖と最高税率90%の財産税を課し、100分の1への円の切り下げになる新円切り替えを行い、債務を減らそうとしたが、それに加え、敗戦直後から1952年までの7倍のインフレにより、1952年には政府債務は対GDP比で13.2%と言う驚異的な回復を見せた。しかし、この間の国民の負担は極めて厳しいものであった。日本以上に政府債務が大きかったのは英国である。1946年の英国の政府債務は対GDP比で259%にもなっていた。英国は、日本が実質的な債務不履行デフォルトの道を選んだのに対して、長期間の金融抑圧と言う手段で債務を削減した。1990年には対GDP比で27%まで回復させた。金融抑圧とは、インフレと低金利を誘導して、実質的な通貨の価値を下げ続ける方法だ。政府債務を減らすと同時に国民の現・預金の価値を減らし、国民から豊かさを奪うものでもあった。これにより、英国の政府債務は一旦は回復したが、そのために英国の経済成長を犠牲にしてしまったのだ。英国の凋落である。さらには、2008年のリーマン・ショックで、再び政府債務が急増し、今では87%まで膨らませてしまっている。日本の政府債務の推移を対GDP比で見ると、1996年に100%を、2002年に150%を、2009年に200%を超え、2017年末は236%となっている。日本銀行が2013年から誘導して来た2%の物価目標と超低金利はまさに英国政府が実施した金融抑圧そのものである。もはや日本の政府債務は尋常な手段では持続不可能なものになってしまった。少子高齢化、人口減が拍車をかけてもいる。敗戦直後のような実質的なデフォルトの道を政府は取りたくない。とすれば、国民が気付き難い金融抑圧を選ぶしかない。政治家や官僚にとっては都合がいいが、金融抑圧は、それ自体で日本の未来を潰すものでもある。英国がそれを示してくれている。かっては、「揺り籠から墓場まで」と言われた福祉国家の代表のような英国であったが、今では見る影もない。主要国では最低の地位に甘んじなければならなくなっている。いずれ日本も英国のようになる。しかし、日本のこうした状況は、単に政治家や官僚だけの責任ではない。国民もあまりにも政府債務に対して関心がなさ過ぎて来た。投票権がありながら、国家の借金を他人まかせで、負担を嫌って来た。もはやすでに日本は引き返すことの出来ない地点まで来てしまっている。どんな政治家も官僚も現在の政府債務を何らかの国民の重い負担なくして軽減は出来ない。一気に重い負担を背負うか、何十年もかけて負担して行くかの違いしか残されていない。前者が実質的なデフォルトであり、後者が現行の金融抑圧である。つまり、現政権は日本銀行とともに後者を選んでいると言うことだ。官僚や政治家は極端に目立って、責任を問われることを回避するため、当然後者を選ぶ。しかし、資金の移動が自由である現在のグローバル化した経済では、国家の思惑は、必ずしも思惑通りにはならい。先日も書いたように、日本の国債を誰が保有しているか、とは関係なく先物や空売りで海外の投資家・投機家は日本国債を売り浴びせることが出来る。デフォルトも金融抑圧も、国債の売り浴びせも、結局は国民にとって、「円」の価値がなくなることである。米国の元ダラス連邦準備銀行のアドバイザーであったDanielle DiMartino Booth氏は、最近のインタビューで、世界が直面している最大の問題は、250兆ドル近くの記録的な世界債務であることを指摘した上で、2019年には景気後退に入り、"Inflation will run amok"(インフレが荒れ狂う)と述べ、"Gold Is the ultimate hiding place"(金は究極の隠れ場所)だと言っている。リーマン・ショック後、日本だけでなく、先進諸国は政府債務を膨らませ続けて来た。米国の政府債務も持続不可能である。日本よりは一見良さそうに見えるが、米国では実際の政府債務は21兆ドルではなく、60兆ドルだとも言われる。いずれにしろ、米国の通貨ドルも価値を失う時が遠くない。日本も米国も国民が個人の資産を守るにはゴールドしかない。過去の長い歴史はゴールドだけが唯一の世界共通の通貨であったことを教えてくれている。
今日も職場の裏山に現れた鹿
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