釜石の日々

米帝国

世界の歴史は超大国の盛衰の歴史でもある。そして超大国は他国からの収奪により超大国となった。大英帝国はインドなどの植民地化で富を蓄積し、繁栄したが欧州での第一次、第二次世界大戦で疲弊し、国土の荒廃がなかった米国が武器など資源を欧州へ供給することで富を得た。戦後、英国に代わって大国となった米国は、疲弊した欧州や日本の復興を助けた。しかし、欧州や日本の急速な復興により、1950年代後半には米国の貿易収支は次第に赤字を出すようになった。消費大国である米国は欧州や日本からの輸入が輸出を上回り始めた。1960年代後半からはベトナム戦争への支出のために財政赤字も拡大し始めた。貿易は基軸通貨ドルで行われたため、貿易で得たドルを日本や欧州は次第に溜め込んで行った。欧州、特にフランスは、米国の貿易赤字と財政赤字を見て、溜め込んだドルに不安を抱いた。赤字をドル印刷で賄うために、ドルの価値が下がるからだ。フランスに見倣って他国も米国に対して溜め込んだドルと金との交換を要求した。当初は交換に応じていた米国も、金の保有が激減したため、ついに1971年、交換を停止させざるを得なくなった。ニクソン・ショックと呼ばれる。交換停止後も、日本や欧州の製造力は強く、米国の製造業は競争力を失い、貿易赤字は増大し続けた。国内投資の利益率の低下に危機感を抱いた富裕層は、海外投資と国内企業の収益化を目論んだ。それを実現させるために登場したのが1980年代の新自由主義である。国内企業にはコスト削減を強化させ、海外へは資本の自由化を迫った。非正規雇用や海外への米国資本の自由な投下の始まりである。1985年のプラザ合意により、ドルの切り下げを飲まされた日本は苦境に陥り、国内金利を下げて、バブル経済を生み出してしまった。バブルは必ず崩壊する。崩壊後の日本はまさに米国資本の餌食となった。日本の主要企業や銀行はたちまち米国資本により割安で買われて行った。欧州へも米国資本は投じられ、日本と同じことが繰り広げられて行った。超大国米国は、軍事力を背景に植民地化することで帝国を築いた英国とは異なり、資本により他国を植民地化することで、資本の所有者である富裕層を超富裕層にまで高めることで帝国を築いた。無論、この帝国を危うくする可能性のある芽は、ことごとく軍事力で潰して行った。アフリカ共通通貨を提案したリビア、ユーロでの石油取引を主張したイラクなどはその典型だ。2022年1月14日、ブルームバーグは、「米ブラックロック、運用資産が初の10兆ドル突破-ETF資金急増」を報じた。ブラックロックは米国の富裕層の資産を預かり、それを運用して利益を富裕層に還元する世界最大の資産運用会社だ。世界の資産運用会社500社中のトップ10には米国の企業が8社を占める。コンサルト企業WTW(ウイリス・タワーズワトソン)の日本法人は、2022年10月27日、サイトに「世界の運用資産規模トップ500社の運用会社ランキングの公表: 運用資産残高の総額は過去最高の131兆米ドル 」を載せた。米国の2023年度予算は5兆7920億ドルである。ブラックロック1社だけでも米国の年間予算の2倍近い資金を運用しているのだ。そして、このブラックロックは世界経済フォーラムとも密接な関係を有している。2020年1月24日、ロイターは、「コラム:企業融資の決定権握る銀行、気候変動に大きな役割」で、「銀行業界は、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で地球温暖化問題を巡って白熱した議論が行われている現実を肌で感じつつある。今年のダボス会議は、気候変動が支配的なテーマだ。資産運用で世界最大手の米ブラックロックBLK.Nは、気候変動に十分な手を打たない企業の意思決定に株主総会で反対すると約束しており、一部企業の行動を変えられるかもしれない。」と書いている。ブラックロックは企業行動を変える力がある。投資ニュースサイトSustainable Japanは、2022年6月13日、「ブラックロック、ジェンダーレンズ投資拡大でUN Womenと提携。プライベート市場向けESG報告分野も強化」を報じた。気候変動やジェンダー活動にも関与している。1970年代に製造業の競争力を失った米国は、1980年代に新自由主義の推進と共に金融経済に大きくシフトした。金融経済は製造業とは関係なく、お金がお金を産むシステムだ。借り物を売る「空売り」、元手の何倍も売り買い出来る「デリバティブ」、「自社株買い」など、要は賭博である。世界のデリバティブは現在3000兆ドルにもなる。そして、それらは長く続いた超低金利による借金で極端に膨らみ、史上最大のバブルを生み出した。しかし、コロナとロシアへの経済制裁はインフレをもたらし、金利を上げた。借金で膨らんだ金融バブルは、今、金利上昇で危機の瀬戸際に立っている。超低金利下で延命していたゾンビ企業はすでに次々に破綻して来ている。企業も人員削減を開始している。12月26日、日本経済新聞は、「23年は景気後退、金利高止まりで債務問題に ロゴフ氏」を載せている。元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストでハーバード大学ケネス・ロゴフ教授へのインタビュー記事だ。「2023年上半期に世界的な景気後退に入る確率は高くなっている。欧州経済は非常に高いインフレ率のまま不況になる。米連邦準備理事会(FRB)は米国が景気後退に陥るまで利上げを続けようとしている」、「国債利回りから予想インフレ率を差し引いた実質金利がどの水準まで上がるのか。これが最大の焦点だ。私たちは実質金利が非常に低い世界を生きてきたが、終わりに近づいている。『借金はタダではない』ということが明らかになる」、「足元の状況は1970年代に一番似ている。当時も供給ショックと地政学的ショックが重なった。異なるのは、現在の負債水準が圧倒的に大きく、資産価格がはるかに高い点だ。株式市場や住宅市場を壊しながら利上げをしなければならない。問題への対処はより困難になっている」。国家、民間企業、個人全て、米国の債務は史上最大である。巨大な金融バブルの崩壊は避けられないが、その時、2008年のリーマン・ショック後のように果たして中央銀行はドルの大量印刷が出来るか。12月10日の韓国保守系メディア東亜日報は、「中国がサウジと39兆ウォン投資協定、「ペトロ人民元構想」に現実味」を報じた。「米国と中国のグローバル競争が激化する中、中国がサウジアラビアとの協力強化に乗り出した。米国とサウジの関係が冷え込むなか、隙を突くような形で中国の存在感が増している。特に、原油売買決算をドルの代わりに中国人民元で行う方式も議論され、「ペトロ人民元構想」が現実味を帯びてきた。 8日(現地時間)、サウジのSPA通信などによると、中国の習近平国家主席がサウジのサルマン国王、国政を事実上取り仕切っているムハンマド皇太子とそれぞれ会談し、両国の「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名した。また、中国の経済領土拡張プロジェクト「一帯一路」とサウジ国策事業計画「ビジョン2030」の協力強化にも合意し、両国の経済協力の規模はさらに大きくなる見通しだ。」とある。現在、人民元国際決済システムCIPSの加盟国は103カ国に達している。日本は加盟しているが西側主要国は参加していない。今月6日の日本経済新聞も、英国の著名な経済紙フィナンシャル・タイムズの記事、「石油で進む人民元「新秩序」 ドル離れと対中投資加速」を載せている。「中国は近年、イランやベネズエラ、ロシアおよび一部のアフリカ諸国から、人民元建てで石油や液化天然ガス(LNG)の購入を増やしてきた。 欧州金融大手クレディ・スイスのアナリスト、ゾルタン・ポズサー氏は顧客向けメモの中で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が昨年12月、サウジおよびアラブの主要産油国で構成する湾岸協力会議(GCC)の指導者たちと会談したことは、「ペトロユアン(ペトロ人民元)の誕生」を告げる場となったと指摘した。 ポズサー氏によると、中国はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を含む多くの国々の脱ドル化を進める取り組みの一環として「世界のエネルギー市場のルールを書き換えようとしている」。背景には、ロシアによるウクライナ侵攻への制裁にドル建ての外貨準備が「武器」として使われるようになったことがあるという。」、「だが石油市場は米国より中国との共通点が多い国々が(少なくとも政治・経済の面では)大きな影響力を持つ。しかも中国は上海と香港の金取引所で人民元を金と交換できるようにし、いわば金融のセーフティーネットも提供している。」、「これは中国が安価なエネルギーを強みにポズサー氏が「farm to table(農場から食卓へ)」と呼ぶ海外からより高付加価値なものを生産する投資を呼び込む動きの皮切りとなるかもしれない(米国でもエネルギーコストが安いため、多くの欧州メーカーが雇用を拡大している)。」。ドル離れは確実に進んで行く。ドルを保有する必要性が減れば、ドルの価値は下がる。米国の経済的な武器であるドルの価値が下がる中で、巨大な金融バブル崩壊後にさらにドル印刷を行えば、米国は猛烈なインフレに見舞われることになる。リーマン・ショック後と同じ手は使えなくなる可能性がある。いずれにせよ米帝国の凋落は見えて来ている。問題は、それでも超富裕層は生き残り、世界経済フォーラムを通して、世界にさらなる全体主義をもたらすかも知れないことだ。

米国の2022年第3四半期までの債務推移(縦軸単位:兆ドル)
オレンジ:地方自治体、紫:政府、緑:個人、青:非金融企業(金融企業の債務は把握出来ない)
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