時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

スポットライトの中の仏たち

2006年12月02日 | 絵のある部屋

  展示終了も間近い東京国立博物館『特別展:仏像 一本にこめられた祈り』を見る。予想通り、長蛇の列であった。11月末で入場者30万人を越えたとのこと。最近では珍しいほどの人気である。館内でスポットライトが当たった仏たちは、いつもと違った場所でどんな気持ちなのだろうか。

  今回の特別展の特徴は、日本に固有ともいえる木像一本彫の仏たちである。薄暗い堂内や埃だらけの道端に据えられた像とは異なり、今日は表裏の細かい所までライトが当てられている。

  一体、一体、それぞれに考えるところがある仏たちだが、展示の後半に置かれた円空、木喰の作品に深く惹かれるものがある。とりわけ、円空の洒脱で素朴、人間味のある仏たちは、素晴らしい。仏教が国家や支配階級のものから、ようやく庶民の生活の奥深く行き渡ってきた時代、日本人の心の源があるかに思える。

  展示の後半、木喰の「12神将像」、「十王坐像」を見る。神将といいながらも、一人一人笑みを浮かべた和やかな顔に彫られている。冥界の番人といういかめしい身なりにもかかわらず、どこにもいそうな穏やかな表情の人たちである。楽しく眺めていると、なんとなくラ・トゥールの「キリストと12使徒」と重なってきた。思いもかけなかった連想に戸惑いながら、夕闇迫った上野の山を後にした。

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メキシコから見たアメリカ(1)

2006年12月01日 | 移民政策を追って

  アメリカとメキシコ間の国境は、どちらの側に立つかでかなり異なって見える。不法に越境する多くのメキシコ人は、非合法行為をしているという意識がないといわれてきた。1846-48年のアメリカ・メキシコ戦争以来、アメリカによって奪われた祖先の土地へ戻るのだという潜在意識が働いているからともいわれる。

  2001年アメリカのブッシュ大統領とメキシコのフォックス大統領が会談した時、移民に関する2国間協定が成立しそうな状況が生まれた。しかし、フォックス大統領の任期が終了に近づくにつれて、両国の関係は混迷してきた。特に、アメリカ側の不法移民への対応が冷くなってきた。2001年の9.11同時多発テロ勃発とともに、ブッシュ大統領の考えも変わった。他方、国連安保理事会で、イラク戦争へのアメリカの介入について、メキシコが反対するなどの変化もあった。中間選挙の結果、求心力を失ったブッシュ政権は、移民問題についても指導力を失っている。

  中間選挙前、ブッシュ大統領は国境の安全管理を厳しくするとともに、すでにアメリカに居住している不法滞在者の合法化への道を緩和するという組み合わせを提示していた。しかし、実現に向っているのは、前者だけである。これは、すでに存在する75マイルの国境フェンスをさらに延長し、新たに700マイル(1,100キロ)の壁を設置するという内容である。今年初め、ブッシュ大統領は6000人の国境ガードを配置した。しかし、不法越境者が減少したわけではない。他方で、越境希望者がコヨーテなどのブローカーに支払う費用など越境に要するコストは1人5000ドル近く、この1-2年で倍増したと推定されている。

  連邦最低賃金率の引き上げなどを反映して、アメリカの賃金がさらに上昇すれば、産業界は労働力確保のために、合法移民の枠をもっと拡大せよと要求し始めるとみられる。国境フェンスの強化があっても、アメリカ・メキシコの労働市場の実質的統合度はさらに強まるだろう。

  もっとも、メキシコ人の間にも、国境管理の強化はメキシコのためにも都合がよいと考える者もいる。毎年不法に越境する者の中で、メキシコ人は約半数であり、残りは中央アメリカ、南アメリカ、その他の地域から北上してきた者と推定されている。もし北の国境が「穴だらけ」とすれば、南のグアテマラとの国境は「大穴だらけの下ろし金」といわれる状況にある。メキシコはアメリカへの越境者のいわば通過経路になっている。

  グローバル化の波が世界的な規模で移民労働者層を揺り動かし、その流れがいくつかの雇用機会の集積地に向っている。彼らの目指す先は、富める国アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパの基軸国、日本であり、中東地域もひとつの中心になりつつある。

  日本では、外国人労働者政策は労働市場政策の端の方に置かれたような扱いだが、研修・実習制度の破綻に象徴されるように、一見すると周辺部分のように考えられる領域から労働市場の荒廃は進む。  

  押し寄せるグローバル化の怒涛の中で、崩れかけている労働市場の秩序をいかに整理、再構築するか。大きな課題が待ち受けている。

Reference
"Time to wake up." The Economist. November 18th 2006.

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