時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ロレーヌの春(3)

2007年03月03日 | ロレーヌ探訪

Hôtel (Maison) de la Monnaie (1456), Vic-sur-Seille.
Photo: Y.Kuwahara


    ラトゥールの生まれ育ったロレーヌ地方、ヴィック=シュル=セイユの町は、現在のフランス北東部、モーゼル県に位置するが、13-17世紀にかけては、メス司教区(Bishopric)の下にあり、実際の統治行政に当たる出先機関が置かれていた。今日でも中世以来の町並みが残っている人口1570人くらいの小さな静かな町である。盛期には、人口もこの数倍はあったのだろう。メス、ナンシー、ストラスブール、ザールブルッケンなどにも十分、一日内に騎馬で行ける距離にある。

  ヴィックは13世紀ころから発展を続け、17世紀前半に文化的にも最盛期を迎えた。司教区にあっては、重要な防衛上の拠点のひとつでもあった。当時の繁栄を支えていたのは、この地域に多い岩塩鉱とワイン生産であった。近くに岩塩生産の歴史を語る展示館が残されている。また、ワインについては、一時期すっかり衰退してしまったが、過去15年くらいの間に、復活してきた。そして、いまや天才画家ジョルジュ・ド・ラトゥールの生まれ育った町として知られるようになった。この画家は1593年3月にこの町に生まれた。町としても繁栄の盛りであった。しかし、その後は画家と作品が長らく歴史の中に忘れ去られたように、この町も静かな小さな町にとどまってきた。町中を歩いてみても、人影も少ない。

  町はなだらかな丘陵の合間に位置しており、町をセイユ川が横切って流れている。春の雪解けで増水し、溢れるばかりであった。丘の高みからみると、教会の高い尖塔が目立つ。17世紀頃もほとんど同様な景観であったろうと思われる。13世紀頃から城郭が町を囲んでおり、今でもメスの司教区のために建てられた城壁の一部分が残っている。東西南北、それぞれ600メートルから1キロほどの小さな町なので、どこでも容易に見に行けるのだが、ちょうど修復中で足場がかかっていた。パリなどの大都市からも遠く離れ、現代世界の主流からは取り残されたような小さな町ではあるが、歴史的遺産の修復・継承などの仕事も着実に進められている。

  美術館のあるジャンヌ・ダルク広場は、町の中心に位置しており、そのすぐ近くにツーリスト・史跡保全オフィスが置かれている。15世紀には貨幣鋳造場Maison de la Monnaieが置かれていたゴシック風の趣きのある3階建ての建物であった。町を歩いてみると、いたるところに、16-17世紀の趣きを今日に伝える館や町並みが保全されている。ジョルジュ・ド・ラトゥールも洗礼を受けたと思われる13世紀頃に建てられた教会と洗礼盤も残っている。ちなみに、ジョルジュの洗礼記録も、ジョルジュ・ド・ラトゥール美術館に展示されていた。教会も当時の美しさを維持している。17世紀以来のカルメル会修道会の跡も残っている。

  ヴィックの近くにはロレーヌの地域自然公園もあり、16-17世紀の頃を偲ばせるような美しい森林、河川、湖沼などが緑豊かに残されている。この町を有名にした画家は、「ジョルジュ・ド・ラトゥール通り」 La rue Georges-de-La-Tour として、その名をとどめている。

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