放射能モニタリングポストの実態調査―指示値の系統的低減化―
(10月5日記者会見)
放射能モニタリングポストの実態調査より一部転載
―指示値の系統的低減化―
内部被曝問題研、汚染・環境実態調査・検討部会
モニタリングポスト検証チーム
1.はじめに
「<福島健康調査>「秘密会」で見解すり合わせ」、と題し記事が掲載されました(毎日新聞10月3日)。福島県が実施中の県民健康管理調査の検討委員会で、事前に秘密裏に「準備会」を開き、「がん発生と原発に因果関係は無い」等を共通認識とさせていた、云々。県民を守り、県民に寄り添う健康管理を行うのではなく、公的記録に原発事故との関連あるいは放射線との関係を記載させず、住民を切り捨てるデータ操作が行われている一端が暴露されました
さらに、かねてから「モニタリングポスト」や「リアルタイム線量測定システム」設置に関して、業者との契約解除を行ったことが報じられました(朝日新聞:2011年11月19日朝刊)。その背後には文科省により「放射能測定計器の指示値を低減させるように」業者に対して指示し、圧力を掛けていたことなどがうわさされました。
モニタリングポストの値がもし低減化されているのならば、それは設置者の「意思が仕込まれている」とみるべきものです。系統的に値に対する人為的な操作がなされるとすれば、それは国家的な犯罪を意味します。
2.測定の詳細
内部被曝問題研、汚染・環境実態調査・検討部会、モニタリングポスト検証チーム(略称:モニタリングポスト検証チーム)はモニタリングポストの実態を解明すべく、系統的・網羅的な測定をしてまいりました。
(1)(検証の目的)
モニタリングポストは、そもそも住民が年間1mSv以下の環境で安全に暮らせるように、という目的で設置されています。事故後は放射能環境を住民に知らせ、汚染環境の基礎データとして諸方面に情報を提供するものとして設置されました。
今回の検証測定の目的は、モニタリングポストが住民の放射能環境を正しくモニターしているかどうか? 少なくとも住民の保護という点での機能を果たしているか、を確認することです。
(2)(測定地域)
現在までに、福島県の浜通り、相馬市・南相馬市51か所、郡山市48か所、飯舘村18か所。9月13日を皮切りに測定し始め、現在も継続中です。
(3)(測定方法)
1、 モニタリングポスト計測器に最も近づけて測定、(密着して、いくら離れても最大10cm程度):この測定でモニタリングポスト計器の指示値と正しいメーターの指示値が比較できます。
2、 除染されている範囲内のモニタリングポストから2mと5mの地点での測定。
3、 モニタリングポストに近接した除染されていない地点(最大でモニタリングポストから15m程度)での数か所測定の平均値:住民の曝されている実際の放射能環境がわかります。
4、 測定は、空間線量だけでなく、地表の測定、cps(ベクレル)測定等も行っています。
(4)(測定機器)
用いた放射線測定器: 校正済みのシンチレーションカウンター:HITACHI-ALOKA TCS172B(沖縄キリスト教学院、カタログハウス[通販生活]の器具を借用しております。感謝申し上げます。)
およびThermo―B20-ER
3.測定結果
(1)相馬・南相馬
図1に相馬・南相馬の直接測定結果を示します。
測定結果の提示の仕方は、個別の地点ごとの結果を表示することで、「モニタリングポストの値が低い」ことはすぐ気が付きます。しかし、「低い原因は何か?」等の解析をするには不適です。モニタリングポスト値を空間線量の数直線の上でプロットする等の基準化の目が必要です。図1の横軸はモニタリングポストと同じ場所(最近接)で測った、手持ち測定器の値です(他の図も同様にしました)。何故そうしたかは、測っているところの空間線量を空間線量の数直線上に並べることによって、モニタリングポスト値の変化の「法則性」があれば把握できる可能性を得ることです。
<1>モニタリングポストの測定器の指針低減化と遮蔽効果
まず丸印(赤の)プロットと平均線をご覧ください。丸印の測定条件は、手持ちの線量計をモニタリングポストの検出器に可能な限り接近させて、モニタリングポストと同一の場所で測定したものです。縦軸は手持ち測定器に対して、モニタリングポスト値が何パーセントの値かを示したものです。ばらつきはありますが、大局的にみて、平均値は直線的に変化しているとみなせます。この「空間線量に対するモニタリングポスト値の直線性」が得られたことは一つの法則性が確認されたことを意味します。この確認はこれから述べます様に大きな意味を持つ発見です。
結果の特徴は平均直線が全て100%未満で、90%から65%までの範囲で、空間線量が高くなるほどモニタリングポストの値は小さくなっています。
このモニタリングポスト値が直線的に低減化されていますが、この直線を、①横軸がゼロとなるところへ外挿するとほぼ90%になります。②直線的に変化していることは、空間線量が高くなるとそれに比例する低減化が起きていることを意味し、このことからいくつかの推論を展開します。
二つの原因がまず考えられます。一つは①モニタリングポストの指針のスケールのメモリが小さな値を示すように調整されていること。二つ目は②モニタリングポストには遮蔽効果が働いていること。

図1
②の遮蔽効果から解析して行きます。モニタリングポストは同一地域内では同じ構造を持つものが設定されておりますので、測定器とその周囲(モニタリングポスト内部)の構造は同一です。(と仮定できます。と言った方が安全かもしれません、私たちが逐一内部を確認してはいませんが、サイズや材質等の外見が同じということで推察しています。配置された部品が同じならば、全てのモニタリングポスト内部には、同一の部品を同じ位置に配置してあるという条件で、一定(全てのポイントで同じ)の放射線遮蔽率を仮定できることになります。なお、グラウンドをコンクリートで覆っていることや、周囲が除染されていることは、この測定の場合、モニタリングポストと手持ち測定器に対して同じ条件を与えますので、この遮蔽効果はモニタリングポスト内部の部品等による遮蔽です。そこで、モニタリングポスト値を何倍にしたら、横軸ゼロの点で100%となるかという倍率を改めて模索し、グラフを作ります(図1で明瞭ですが、原理的な解説を行うために作図します)。それが図2です。

図2
① 丸印(赤い点)の平均線の横軸ゼロへの外挿値は、空間線量がゼロとなると同時に遮蔽効果もゼロになる点です。従って、縦軸への外挿値の倍率は計器の指示スケールが低減化されている「計器スケールの正規スケールに対する倍率」を示しています。手持ち測定器と同じスケールが正規基準に則って物差しとなって入れば、倍率1で100%点に一致するはずです。図1の赤丸印の縦軸を約1.1倍すれば100%線に一致します。図1でもわかります様にモニタリングポスト計器スケールは狂っています。1.1 倍しないと100%線に一致しません。これは正規スケールが1を示す時、モニタリングポスト値は約0.9を示すことを示しています。すなわち、遮蔽効果が無い時の条件で確認できますが、モニタリングポストスケールが0.9倍されていることを示すものです。
② 遮蔽効果は、縦軸を1.1倍した図2の赤丸印の平均線で測ると1μSv/h当たり8%の減少という遮蔽率を示します。これを図1で見ると、0.9倍された実際のモニタリングポストスケールでは1μSv/h当たり7.2%の減少と読み取れます。
以上で、モニタリングポスト計器の指示値低減化は0.9倍されていること。モニタリングポスト構造から来る遮蔽効果は「1μSv/h当たり7.2%の減少」という遮蔽率です。
<2>住民の受けている空間線量に対するモニタリングポスト値
この実態は、図1において確認します。X印の青い測定点と平均直線をご覧ください。住民が曝されている場所での空間線量に対するモニタリングポスト値の百分比です。モニタリングポストの周辺はごく少数の例外を除いて5mから10mの規模で除染されています。我々は除染区域内の測定も丁寧に行っていますが、いずれも外部の比除染地域に比べて低いものでした。
X印の青い測定点は住民の生活区域(モニタリングポストから10m~15m)の空間線量に対してモニタリングポストの値を百分比で示しています。
この測定点は、ばらつきはありますが、歴然とした低線量側への系統的な偏りを示し、住民が受けている線量の60%~50%という大幅な低減化が確認されます。大雑把な表現をすれば、モニタリングポストの値をほぼ2倍しなければ住民の受けている放射線量値にならないのです。
相馬・南相馬の汚染度は実測値を年率に変換すると2.36mSv/年から28.1mSv/年と強い線量であり、実に幅広く分布しています。それだけに線量の多い危険を認識しなければなりません。低線量区域は、チェルノブイリ周辺3ヶ国の住民保護基準では移住権利ゾーン(1~5mSv/年)に相当し、高線量区域は強制移住ゾーンに相当しています。
中略
メモ:(問題点)
①住民の健康保護目的である以上是正が必要。
②何故低い値が出るのか? 一体文科省のどのポストの誰がこのような状態を意図したのか?
計器目盛りの低減化には設置者の意図が埋め込まれていると見るべき。
除染を行うことについては明確な低減化の意図があるであろう。
福島県が行った「秘密会」での、見解すり合わせ等の健康被害の切り捨て
と関連はないか?
③基本的には住民の集団移住等の健康保護策を優先すべきであるのに、線量が高いのに「帰って故郷の復興をしなさい」というのは、住民の健康を切り捨てている。その口実づくりのためのデータ操作の可能性ではないのか?
④モニタリングポストの値が公式汚染記録になっているかいないか?
補償額等に影響を及ぼすか?