セシウム新基準半年:除染進み、農作物の超過ほとんどなしより転載
毎日新聞 2012年10月01日 19時25分(最終更新 10月01日 21時17分)

店頭で福島県産の野菜を手に取る買い物客。価格の上にセシウム検査結果が表示されている=東京都港区新橋の「カタログハウスの店」で、町田結子撮影
食品に含まれる放射性セシウムの基準が1キロあたり500ベクレルから100ベクレルに厳格化され、1日で半年。この間、農作物は基準超えがほとんどなく、風評被害は昨年よりは沈静化した。また、超過が相次ぐ水産物も、特定の魚種に限られていることが分かってきた。
厚生労働省によると、自治体などが9月末までに検査した食品11万3509件のうち、基準値を超えたのは1394件で全体の1.2%。水産物が735件と約半数で、残る半数のほとんどは、きのこや山菜、野生の鳥獣肉が占め、野菜や果物は1%以下だ。農林水産省は「農地の除染が進んだ結果」とみる。
福島産の桃は昨年、当時の暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)を超えなかったものの、価格が例年の半額に下落した。JA伊達みらい(伊達市)は果樹3万7000本の皮を削るなどして除染。今年の桃は8~9割まで価格を戻した。同JAで桃の販売を担当する芳賀武志さん(31)は「出荷量は減ったままで、まだ先は見えない」と気を引き締める。
復興支援で福島の農産物を販売する東京・JR新橋駅前の「カタログハウスの店」は40ベクレルの独自基準を設け、検査結果を表示。昨年は検査方法などを聞く客もいたが、今は固定客が増えた。初めて来た都内の女性会社員(38)は「表示があると安心して買える。最近はむやみに怖がる必要はないと思うようになった」と話す。
イオンも自主検査を実施し、検出限界値(10~15ベクレル)以下だけを販売しており、東北の農産物は売り上げを回復している。それでも水産物はまだ消費者の不安が強いという。
基準超えが出ている魚種はババガレイやヒラメなど沿岸の底魚が多い。一方、福島県沖でも海面近くに生息するコウナゴなどからはほとんど出ず、タコやイカのような無脊椎(せきつい)動物は検出限界値以下だ。
水産庁などの調査では現在、セシウムは海水からほとんど検出されていない。金子豊二・東京大教授(魚類生理学)によると、魚は口から入ったセシウムをエラから排出し、無脊椎動物は皮膚全体が海水を通すので、海水が浄化されると体内のセシウム濃度が下がる。ただしセシウムは海底に蓄積しているため、海底生物を餌にする底魚は高いとみられる。
福島県水産試験場の調査で、県海域(福島第1原発20キロ圏を除く)で採取した海底生物の濃度は昨年7月から低下傾向にある。五十嵐敏場長は「底魚の濃度も徐々に下がるだろう」と話す。【神足俊輔、町田結子】