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パウロについて本を読んでいて、彼の人物像が浮かんできた。およそ気づいていたことが多いけれども、彼の手紙を読むのに参考になる。以下、主として佐藤研(みがく)の「旅のパウロ:その経験と運命」2012年によっている。

まず、彼の母国語はギリシャ語で、当時の話し言葉アラム語を理解し、へブル語も読めた多言語を駆使した人であった。素性としては、ベニヤミン族の出で先祖代々ユダヤ教の中にいた生粋のユダヤ人で、ファリサイ派に属する。この誇りに加えて、ローマ市民であるという強いプライドがあった。

普通以上に宗教的な情熱を持ち、すぐ行動に移す熱狂主義者であった。そういう背景からイエス派を迫害し、またおそらく独身を貫いたと考えられている。独善的になる傾向が予想されるが、自分のいる所よりずっと下の方からの視線が具わっていた。テント職人であったことや、身体障害を負っていたことが背景に考えられる。

彼は回心後、宣教に専心することになるが、後発者としてラディカルになる傾向があった。原理的なところがあり、非妥協的で孤立することになる。また、基本的に律儀さ、義理堅さをあげることができる。

パウロの手紙には、榊原康夫によれば、しばしば演説口調で生き生きした親しさが感じられる。それは辻説法師の路傍説教の技法(ディアトリべー)を用いたからで、書簡*でありつつ私信的であるからと説明している。(榊原康夫「新約聖書の生い立ちと成立」1978年)

加藤隆は、パウロは「与えられた目前の状況の中でどんどん」弾力的に「対応していくことに躊躇しない」「個々の判断に、全体的な合理性や論理性の不十分なところがあっても、しり込みしない」と書いている(「歴史の中の新約聖書」2010年, p.119)。彼の物言いは強い調子で、大胆なところがある。コミュニケーションの方法は高飛車なところがあり、研究者たちは彼が矛盾したことを言うことがあることに気づいている。それでも、奥底で彼を支配していたダイナミズム(力強さ)を認めている。私(沼野)はパウロのダイナミズムに驚嘆するばかりである。

彼のメッセージの底に流れる特徴を二つあげることができる。一つは「信仰義認」であり、もう一つは「弱さが逆説的に力」の元となる、という考えである。これについて、佐藤はパウロが残した最高の言葉の一つだと言う。同感である。

以上、佐藤研の本から抜き出してみた(榊原、加藤の引用を除く)が、上村静が一つ鋭い指摘をしていた。それは、パウロが当時の社会秩序をそのまま肯定し、教会の中に持ち込もうとしたことで、彼には社会問題への視座が欠落している、と言う。例えば、奴隷であった者は奴隷のままでいるように、女性は教会で黙っていなさい、など。また、売春婦と交わるな、それは不品行であると言うが、なぜ一人の女性が売春婦にならざるを得なかったのか、といったことには関心がないように見える点である。(「宗教の倒錯」2008年)

佐藤研の本を読んで、パウロの生涯の優れたノンフィクション的再構築を読む思いがし、パウロに対する関心が一挙に深まった。著者は八回にわたってパウロの足跡を追う旅行を行ない、神学的分析と合わせて読み応えのあるパウロの解説を提供している。

*「書簡」epistle は文学の一様式として、一般公開を前提としたもので、「私信」とは区分される。(パピルス学者アドルフ・ダイスマンの分類。榊原p. 66, 67)

 
2012.06.10 毎日新聞



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コメント
 
 
 
NJさんパウロの人物研究本出版か? (オムナイ)
2015-09-27 14:20:40
要望ですが^^;

>ノンフィクション的再構築

遠藤周作さんの『イエスの生涯』もそんな感じでしたね。
「パウロの生涯」とか。。

>身体障害を負っていたことが背景に考えられる。

ジョセフ・スミスは「パウロと似た心境」と書いて末日聖典でもパウロの名が出てきます。

ジョセフ・スミスも幼い頃の足の手術で障害が残っていたとか。
そんなところにもシンパシーを感じていたのかもしれません。

>女性は教会で黙っていなさい、

JS訳では女性は教会を治めるべきではないと訳したとか。

しかし、神権指導者会に女性指導者も招待ではなく参画できるようになったようですね。
破門になった女性弁護士も報われた?

http://www.mormonnews.jp/記事/教会の女性指導者,指導者評議会に任命される

まぁ、モルモンでは昔から女性は教会では黙っていませんが。。^^;
 
 
 
嬉しい御冗談 (NJ)
2015-09-29 23:33:08
嬉しい要望ですが、遥かに及ばない事柄です。読者の一人になるのみです。
 
 
 
ペテロ(大管長)もパウロの書簡の分かりにくさにに警鐘? (オムナイ)
2015-09-30 09:45:32
残念^^;

ブログやその他の情報で満足することにいたします。

>コミュニケーションの方法は高飛車なところがあり、研究者たちは彼が矛盾したことを言うことがあることに気づいている。

当時から新約聖書の多くを占めるパウロの書簡は物議を醸し出していたのかもしれません。

2ペテロ(リビングバイブルから抜粋)ではこんなことを言っています。


学識の深さで知られる、愛する兄弟パウロも、多くの手紙の中で、同じことを書いています。
しかし彼の手紙には、むずかしいところがあるので、中には、それをいいことに、わざと的はずれの解釈をする人がいます。

彼らは、聖書のほかの個所でもそうするのですが、パウロが言おうとしていることとは、全く別の意味を引き出しているのです。

それは、自分で滅びを招いているようなものです。

愛する皆さん。 前もって警告しておきます。
このような不正な者の、誤った考えに引き込まれないように、よくよく注意しなさい。

そうでないと、あなたがた自身も混乱するからです。

むしろ、霊的な面で成長しなさい。 そして、主であり、救い主であるイエス・キリストを、もっと深く知りなさい。 
 
 
 
なるほど (NJ)
2015-09-30 21:31:30
リビングバイブル持っていますが、思い切った敷衍訳をしますね。たまに参考にしています。分かりやすいので助かります。
 
 
 
便利サイト紹介 (オムナイ)
2015-10-02 12:00:09
https://www.bible.com/ja/bible/83/gen.1.jlb

ご存知かもしれませんが、リビングバイブルこちらで読めます。

日本語では口語訳(著作権の関係?)にも気入り変えられます。
KJVなどの多言語にも対応。
 
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