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[モルモン書に戦争の記述が多いことについて] 

 モルモン書はニーファイ書から始まって終章のモロナイ書まで戦いの記述が多く、読者を苦労させます。そして、なぜこれほど多くのページを割くのだろうかと思わせます。

 このことについてBYUの故ダグラス・フィリップス教授(古典が専門、日本に伝道した)とジョン・W・ウェルチが解説しているので、紹介します。参考にしてください。

 

1 「深いところでは信仰・宗教と関わっている。モルモン書は『悲劇』の書」(Phillips)

 

 モルモン書に出てくる戦いは、深いところで信仰・宗教、不義・邪悪など社会問題が原因で生じている。ニーファイ人 / レーマン人の間で戦争が生じたのは、いずれもリーハイが予言したとおりであり、神は義しい者を守り邪悪な者を罰するために義人であった軍人を御手のうちに用いられた。戦争も神が用いられた手段であった。

 モルモン書の末尾でモロナイが直面した事態は、「予言された民の滅亡」を来たらす最後の戦いであった。神が御心を履行されたものとは言え、モルモン書は文学や演劇で言う「悲劇」(tragedy) に分類できるのではないか。

 アメリカ人を含め今日の世界の人々に、私たちが不完全であることを弁え(わきまえ)させ、より賢明に生きるよう警告する書である。

 

[モーサヤが民を率いてニーファイの地を去るところ]

 

2 「二つの版の一つは世俗事象を記録。複雑な記載は正確なことの証し。」(Welch)

 

 ニーファイが記録するように命じられた二組の版のうち一つは、戦争や争いを含む世俗の事柄についてだった。ニーファイ人にとって政教分離の区分はなく、戦争も歴史の不可分の一面であった。神の意志はしばしば戦いという試練を経て示された。ニーファイ人にとって戦いに応じることは最重要な事柄で、信仰上の責務でもあった。

 ヒュー・二ブレーは、記録が長くて詳細にわたり、複雑なのはそれが正確な文書であることを示している、と書いている。

 モルモン書に記された戦争の記述は、時に真に迫ったリアルなもので、一貫性があり正確である。古代イスラエルの戦争を記した資料が背景にあり、それを継承するものと言える。私(Welch) は歴史的な分析に耐えられるものと信じている。

 

 以上、二人の識者の解説を紹介しました。思い切って大幅に要約しているため、逆に理解しにくくなっているかもしれません。それでもモルモン書に多く見られる戦いの場面を読む時、少しでも参考になれば幸いです。

 

参考

R. Douglas Phillips, “Why Is So Much of the Book of Mormon Given Over to Military Accounts?” in “Warfare in the Book of Mormon” edited by Stephen D. Ricks and William J. Hamblin. Published by Foundation for Ancient Research and Mormon Studies/Deseret Book, 1990 Page(s): 25-28.
・John W. Welch, ”Why Study Warfare in the Book of Mormon?in “Warfare in the Book of Mormon” cited above, pages 3-24.



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コメント
 
 
 
モルモン書に無いものは地政学 ()
2024-08-30 10:01:50
私にとってモルモン書が理解しにくいのは、「モルモン書には地政学がない」事です。

聖書には地政学が有ります。

何故ロトはウルを出たのか?

アブラハムが求めた地は?

イスラエルとカンン民族との闘い、ペリシテ人の侵入、エジプトの影響。 

新約ではイエスの足跡、パウロの旅、すべて地図として頭に浮かびます。 
それは、それぞれの地域の慣習や宗教観に繋がって理解を深めます。

しかし、モルモン書には「地図」が有りません。
地名に現実味がないというのは、存在そのものを疑わせるものです。

ニーファイはどこに住み、レーマンはどこに移住したのか?
アルマはどの距離を歩いたのか?

全く頭に浮かんできません。

彼らが生きていた地は、何処に山が有り、何処に海が有り、何処に荒れ地が有ったのか?

作物は豊かに取れたのか?水は豊富だったのか?

そう、モルモン書は生活の匂いがしない。
 
 
 
「モルモン書は宗教書」 (沼野治郎)
2024-09-03 18:34:12
豚さんへ

 モルモン書に地政学的手がかりが欠けていることについて、率直な感想を投稿されました。ありがとうございます。

 この件について、もう前のことになりますが、現在のどのあたりでモルモン書の出来事があったのか推測する動きがありました。アラビア半島の沿岸と荒野を進んだのではないかという見方ともう一つは中米に上陸地と活動した地域があるのではないか(地峡の記載などから)、という仮説でした。いずれも聖徒の道に紹介されたのではないかと思います。

 それに対し、教会は一貫してモルモン書の地名について地理学上の特定をしないように言ってきました。モルモン書は宗教書であって、そのように詮索すべきではないという立場でした。今も変わっていないと思います。

 そういえば聖書も創世記の前の方は、古代住民の間に見られた伝承(神話)によっていて、文字通り受けとめられるものでありません。矛盾も散見されます。古代イスラエルやヘレニズム世界の姿(新約)が反映されていますが、やはり宗教書であるという点では同じです。

 (参考:イスラエルのハイファ大学歴史学教授エラン・シャーレヴが「アメリカの歴代誌としてのモルモン書: その偽典性と文化的起源」という論文。「モルモン書をアメリカ研究者はどう見るか」オックスフォード大学出版2019年所収。当ブログ2021.01.17「モルモン書は疑似聖書物語が流布した時代を背景とした」で紹介しています。)
 
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