ナノテクノロジーニュース

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新しいタイプのトランジスタ

2012-07-30 | 報道/ニュース

シリコンなど半導体を基盤とするトランジスタが使われ始めてすでに60年にもなる。現在のトランジスタでは(10/29参照)、ゲートとドレインの間に加えた電圧によってドレインとソースとの間の電流を制御する。電流を流すことは発熱の原因にもなってあまり好ましくない。ナノテクをベースにする次世代LSIのトランジスタにこの方式を継承するべきであろうか。トランジスタに要求される性能は、流れる電流を少なくすることならびにゲートとドレインに電圧を加える前後(オンの状態とオフの状態)のドレインとソースとの間の電気抵抗比を大きくすることである。

理化学研究所(RIKEN)の研究グループは、Mott絶縁体と呼ばれる材料を用いて全く別のタイプのトランジスタの開発に成功した。Mott絶縁体の歴史は古い。1937年にイギリスの研究者たちがエネルギー帯構造[HP(アドレスはプロファイルに)2.1D参照]の上からは金属と見なされるはずのある種の材料が、絶縁体であることを見つけた。この現象に理論的な説明を与えた理論物理学者Mottの名前をとってMott絶縁体と呼ばれている。たとえば、RIKENの研究グループが用いた酸化バナジウム(VO2)は、ほぼ常温以上では金属であるが常温以下では結晶構造が変わり絶縁体となる。絶縁体となる理由は、電子間の強い相互作用が作用して、電子が動きにくい結晶構造に変化するためと考えてよい。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/jul/25/prototype-mott-transistor-developed

Mott絶縁体に信号を加え、金属/絶縁体間の変化を起こしトランジスタとして利用しようとする試み、Mottトランジスタを作成しようとする試みはこれまでにもなされてきたが成功していなかった。RIKENグループは、電解液に電界を加え酸化バナジウムの表面に正イオンを付着させると、結晶構造が変化し金属から絶縁体への変換が起こることを明らかにした。

今のところ、電解液を用いる必要があるとかまた金属/絶縁体の抵抗比が1:100しかないとか問題点が多い。しかしながら次世代LSIの構造ブロックとなりえないかという期待も大きい。一方でMott絶縁体の原因である電子相関、電子間の強い相互作用は超伝導の原因でもあり解明するべき事柄が多く残っている。


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