一番下に9月25日付朝日新聞名古屋版声欄に掲載された記事を添付してあるが、少し説明を加えておきたい。
我々が福島原発事故で学んだことは、(1)原発は地震・津波で操作不能に陥ることがある、ならびに(2)地震震度ならびに津波の高さを安易に想定してはならない、であろう。この教訓をもとに、どのような事態が起ころうとも放射性物質のばらまきすなわち放射線公害が起こる確率を最低にするような方策を講じて欲しかった。このことは不可能ではなかろう。実際福島原発の地下室にあって水没した非常用電源が正常に動作し燃料を冷却し続けることが出来ておれば、このような悲惨な事態にはならなかったであろう。
残念ながら、官・産・学が取った安全対策は極めて不可解なものであった。まず、原子力安全・保安院が各原発に安全対策を提示するよう指示し、両者協議の上応急的安全対策を決定した。こともあろうに原子力学会はこれを学会の安全対策に対する提言として採用した。しかし、その不完全さを認識していたのであろう。これを前期提言とし、より完全な安全対策を中期提言としている。多くの原子炉専門家は、このダブルスタンダードに準じて応急的安全対策を講じた原子炉の安全性が確保されていると述べている。たとえば大飯原発を例にとると、応急的安全対策とは、4m余の高さの津波で水没するはずの非常用電源が、その建物のドアにシール施工を施すことによって11mの津波にも耐え得るという。さらに、電源車を用意することになっている。地震・津波で何が起こるか分からないなかで、これから十分な安全対策であるとは思えない。
原子力学会がこのような状態であると、今後の政府の再稼働決定にも疑問が残る。政府が決めた5人の原子力規制委員会委員が政界や経済界からの圧力のもと、純粋に技術的な立場から結論を下せるとは思えない。原子力学会すなわち原子炉専門家の集まりが、技術的な立場から上記委員会委員に助言出来るよう体制を整える必要があろう。
私は、原子炉専門家は次の二つの点で反省すべであると思う。まず第一に、地震国にふさわしくない現存の原子炉(非常用電源は地下にまた燃料プールは高い階層に)を建設し続けたこと、第二は上記のダブルスタンダードである。その上で、放射線公害を起こす確率を最低に出来る原子力発電所を選定し、それらの原子炉に対する安全対策を提言してほしい。電力会社にも原子力規制委員会にもこのようなことが出来るはずはない。ニ度と福島でのような放射線公害を起こさないよう努力すること、これが原子炉専門家の義務であろう。
さらに、人類の将来のため、より安全性の高い次世代原子炉の開発を目指してほしい。すでにアメリカではその兆しが見えている。地震国日本ほど次世代原子炉に対する要望が強いはずである。ちなみにもんじゅ型高速増殖炉は地震国日本に設置すべきではない。制御不能に陥ったとき水冷ができないからだ。プルトニウムも燃料として利用出来るような次世代型原子炉(たとえばTWR、2/13参照)が開発できないものだろうか。
若い原子炉専門家に大いなる奮起を促したい。このままでは日本の原子力産業は衰退の一途をたどるであろう。後継者も育たないであろう。