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日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

太刀 助次 Aoe-Suketsugu Tachi

2010-10-21 | 太刀
太刀 助次

太刀 銘 助次



 鎌倉時代前期の、古青江助次(すけつぐ)の貴重な在銘の太刀。古青江の作品は中青江に比して地鉄鍛えに強みがあり、微塵に詰んだ小板目鍛えに板目肌が現われ、澄肌とか鯰肌と呼ばれる映りが現われるのを特徴とする。その特徴が現われている作品を紹介する。
 映りは一般的に写真に映り難い。光を直接反射させて鑑賞することによってようやく分かる働きである。この写真では、よく詰んだ小板目鍛えを基調とし、所々に板目肌が現われ、刃文に近い部分が和図かに沈んで暗帯部を形成、鎬寄りに大きく乱れた淡く白っぽい叢が全体にみられる。映りが島状あるいは斑状に点在するところが、鯰肌の表現に繋がっていると思われる。□


太刀 康光 Yasumitsu Tachi

2010-09-02 | 太刀
太刀 康光

太刀 銘 康光





 杢目交じりの板目肌が地景を伴って強く起ち現われ、肌目に沿って地沸が付き、鎬寄りに現われた映りと働き合って生気に満ち満ちた地相を呈している。盛光と共に応永備前の二大巨匠と謳われる康光(やすみつ)の、この時代の特徴的な太刀である。身幅は控えめに重ね厚く、下半で反って先伸びやかな美しい姿格好。刃文は盛光に似た腰開きごころの互の目乱刃と、このような直刃出来がある。刃境に現われた鍛え目に匂が起ち、匂のほつれが淡く繊細に働き、刃中にも淡く匂が立ち込めて細い金線が走る。帽子はほとんど乱れずに直刃のまま切先へと向かい、わずかに尖って返る。□



太刀 粟田口國定 Kunisada-Awataguchi Tachi

2010-08-20 | 太刀
太刀 粟田口國定

太刀 銘 國定

 

 鎌倉時代中期の山城国には、粟田口(あわたぐち)、綾小路、来などの名流があり、いずれも精緻な小板目鍛えの地鉄に、各派特色のある焼刃を施している。本作はその粟田口派の國定(くにさだ)と推測される優雅な太刀。わずかに磨り上げられてはいるが茎の下端部に銘が残されており、姿格好も山城ものの特徴的な輪反り。
 絹目のように微塵に詰んだ小板目肌に微細な地沸が付いており、この瑞々しさは江戸時代の多くの刀工が再現を試みた刀剣類の言わば境地の一つ。多少の研ぎ減りも加わっているが、焼刃が洗練味のある美しい細直刃。派境に小沸が付いてほつれ掛かり、刃中には金線が清らかに流れる。
 刃文は決して華やかにあるいは派手に乱れているわけではない。光を反射させての観察では、古風な小乱れが刃境を彩り、これを分けるように細い金線が入っているのである。大きな見どころといえば、粟田口派にまま現われる二重刃風の焼刃が、この太刀でも所々に観察されるところ。



太刀 豊後國行平 Yukihira(Bungo) Tachi

2010-08-19 | 太刀
太刀 豊後國行平


  太刀 銘 豊後國行平

 

 鎌倉時代初期の太刀。豊後國行平(ゆきひら)には間々在銘作が遺されている。腰反り深く、先に行くにしたがって反りが少なくなり小鋒に結ぶ、この時代の特徴的な姿。地鉄は板目鍛えの地底が小板目肌のように詰み、ねっとりとした古風な肌合いとなる。もちろん研ぎ減りがあり、物打辺りに鍛え肌が強く現われている。地景はさほど強くは感じられないが、所々に淡く観察される。所々に映りが斑に現われており、鉄色は殊に古く白っぽく感じられる。
 鎌倉時代初期以前にまで時代の上がる太刀の刃文は小乱となり、互の目や丁子がはっきりとしないという特徴があり、それはそのまま他の国の工にもあてはまるため、刃文のみによる鑑定は難しい。この太刀の刃文も、匂口が潤み、刃境がはっきりしない小互の目で、匂に小沸が交じって細かな砂流し状に焼刃が構成されている。構成されているとは言うものの、時代の下がる焼き入れとは異なり、極めて自然な刃入れ作業の結果のものである。
 区上に焼刃が施されていない状態を焼き落しという。時代の上がる作に間々みられるもので、本作も生ぶのままのその様子が観察される。区上の彫刻も行平に特徴的なもの。研ぎ減りがあるも、その古風に収まる様子は控えめで美しい。

 

太刀 一文字真利  Sanetoshi-Ichimonzi Tachi

2010-08-18 | 太刀
太刀 一文字真利

太刀 銘 真利



 古一文字と称される鎌倉時代中期の福岡一文字派。一文字派の中でも時代が上がり、広く知られている華やかな互の目丁子出来とは趣を異にして古作の風合いが顕著。地鉄は板目肌が刃中から鎬地にまで縦横に現われて地景が肌を強く立たせ、乱れ映りが鮮明に現われた中に地景がくっきりと浮かび上がる。地鉄は総体に地沸と映りとで明るく冴えており、ここに備前他派とは異なる一文字派の特質が現われている。匂に小沸の複合した焼刃は出入りの少ない湾れか直刃調に感じられるが、刃中は小乱の様相を呈して複雑に乱れ、小互の目、小丁子、小足、ほつれ入り、これに鍛え肌から生じた稲妻金線小模様の沸筋砂流しが働き合って刃先に迫る。
 この太刀は、磨り上げながら茎下端部に真利(さねとし)の銘が残されている元来の小太刀。腰で深く反って品の良い姿格好を良く留めている。切先も研ぎ減り少なく、大切に伝えられてきたものと思われる。

  

太刀 景光 Kagemitsu Tachi

2010-08-09 | 太刀
太刀 景光

太刀 銘 備州長舩住景光

 

 鎌倉時代後期の備前長舩の正系、景光(かげみつ)の小太刀である。
 直刃調の刃採りだが、焼頭が平坦な小互の目乱刃で、足が鋒側に流れる逆足であるため、刃形がノコギリのように見える。この景光に特徴的な刃文をノコギリ刃、あるいは方落互の目(かたおちぐのめ)などと呼んでいる。
 まず地鉄を鑑賞されたい。板目鍛えに地鉄は所々肌起つ風があるも、映りが鮮明に現われており、この中にくっきりと黒く沈んだ色合いの地景が現われているのがわかる。景光の父である長光の刃文とも地鉄とも異なる、景光独創の凄みのある風合いである。
 刃文は匂出来で、刃中に淡く沸匂が広がる。これを切って金線が稲妻の如く走っている様子も凄まじい。
 直刃の魅力は、何と言ってもその刃縁に現われる繊細な働きであろう。何度も申し上げているが、再度言わせていただく。刃文とは乱刃や丁子刃、直刃など焼き入れによって施される刃文の形状のことであり、鑑賞の要点とは、この刃文の形よりもむしろその中に現われる微妙で繊細な働きである。これについては、刀をある程度勉強した方でも気付かない場合がある。直刃を見て刃文がないとおっしゃる方は、もちろんそれ以前の問題外で、刃文の意味をも知らないのでしょうが、刃文の形を見るだけであれば博物館でガラス越しに眺めるので充分である。手にとって刀を鑑賞するということは、それだけ多くの鑑賞の要点に接することである。手にとって観察することが出来る状況を活かしてほしい。

 

太刀 青江次直 Aoe-Tsugnao Tachi

2010-07-15 | 太刀
太刀 青江次直

 太刀 銘 備中國住次直



 青江次直(つぐなお)在銘の太刀。青江物には鯰肌(なまずはだ)とも澄肌(すもはだ)とも呼ばれる独特の肌がある。映りの働きの一つ、あるいは地鉄そのものに異鉄が交じって変り鉄のように見えるものとも考えられている。この太刀の地鉄は、その典型例である。良く詰んだ縮緬状の肌がねっとりとし、際立ってはいないが映り状に淡く叢付いて乱れた様子が観察できる。白っぽい斑の周囲に一段沈んだ縁がみえる。これが鯰の肌模様に擬えられて鯰肌の呼称の要因となっている。物打辺りには変り鉄が明瞭に現われている。□

  

太刀 青江貞次 Sadatsugu Tachi

2010-07-12 | 太刀
太刀 青江貞次

太刀 無銘青江貞次



 備中国青江鍛冶、その中でも名流として代々工銘が受け継がれた貞次の、鎌倉時代後期作。腰反り深く先が延び、樋が掻かれて頗る安定感があり姿が良い。
 地鉄は板目肌に杢目が交じり、複雑に乱れて縮緬のような風合い。この鍛着部が密であるため、そして微細な地沸で覆われているため、まさに絹織物のようなしっとりとした肌となる。この刀は特に地鉄が詰んでおり、青江物と呼ばれる上質の肌が楽しめる作である。所々に地景が現われるも、同派中では過ぎることなく、自然な肌合いとなっている。
 直刃の刃文は匂を主調に小沸が付き、刃縁に垂れ込むような小足が入り、繊細緻密なほつれがこれに複合する。一般に青江物には逆足が長く入って火炎のように見える刃文があるも、派手ではないところが、この刀の最大の魅力である。





太刀 尻懸 Shikake Tachi

2010-07-07 | 太刀
太刀 尻懸

太刀 銘 大和(尻懸)  

 

 鎌倉時代の大和国に栄えた流派の一つ、尻懸則長(しっかけのりなが)の作。磨り上げられているが、茎尻に特徴的な大和の文字が残されており、これによって則長と断定できる。
 板目に杢目の交じった地鉄は、地景が頗る顕著に現われて肌が強く立ち、一見して松皮のような激しい肌合い。だが、素質は鍛着部が密に詰んでおり、地沸が付いて躍動感と生命感に溢れた綺麗な地相となっている。この肌合いが尻懸の鑑賞の大きな要素。
 刃文は直刃に小互の目が交じる態で、刃縁は鍛え肌によって現われたほつれや喰い違いなどが顕著に働く。総体は匂主調ながら、所々に沸が厚く付いて同国の手掻派の作とは同趣ながら風合いを異にしている。匂の広がる刃中に砂流し沸筋が金線を伴って走り、物打辺りからそれが強まって帽子は激しい掃き掛けとなる。

 

太刀 千手院 Senjuin Tachi

2010-07-06 | 太刀
太刀 千手院

太刀 磨上無銘 千手院



 南北朝時代の千手院(せんじゅいん)の太刀。擦り上げられてはいるが、太刀の本来の姿格好を良く留めている。地鉄は板目肌が強い柾目状に流れて地沸が厚く付き、地景が肌に沿って入り肌が立つ。大肌の中の地底の様子は微塵に詰んだ小板目鍛えであり、これらの複合になる地鉄の様子に特徴が見出せる。一般的に千手院の地鉄はこのように肌が強く立って疵気が多いところにある。刃中に現われている肌には沸が強く絡んで沸筋が顕著に現われ、沸筋に伴い金線、砂流しも激しく入る。直刃基調の焼刃ながら、小足や小互の目が交じることもあり、これらを切って流れる沸筋や金筋の様子は迫力満点。この太刀では刃中の杢肌に地沸が付いて金線が現われ渦巻き状に見える部分もあり、沸は厚く刃先に抜けるほどに深く、殊に強みがある。帽子の働きも同じで、激しく沸筋が流れて掃き掛ける。地中にも湯走りから変化した沸筋が現われ、この刀では区上辺りには沸筋が強く流れて二重刃となる。□
 


太刀 了久信 Hisanobu Tachi

2010-06-17 | 太刀
太刀 了久信

 太刀 無銘了久信



 生ぶ無銘で、山城国来派の流れを汲む鎌倉時代末期の了戒派の久信(ひさのぶ)と極められている太刀。鳥居反り深く、身幅広く重ね厚く、がっしりとした造り込み。山城物に特有な小板目肌に鍛えられた地鉄は、微細な地沸が付いて潤い感があり、区上から始まる沸映りで明るく白っぽく感じられる。細直刃基調の焼刃は、わずかに湾れ、刃縁盛んにほつれて淡い金線となり、小互の目を交えて小乱調となる。父である了戒とは作風を異にして、引き締まった感がある。殊に刃中の働きが活発で、一時代上がる風がある。物打辺りから上は刃文が抑揚変化し、乱れ込んで先は丸く返るところなど、山城古伝とは風合いを異にして新趣が求められているようだ。