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日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

太刀 清綱 Kiyotsuna Tachi

2017-07-22 | 太刀
太刀 清綱


太刀 清綱

周防鍛冶の初祖といわれる鎌倉中期の清綱は、周防国玖珂に鍛冶場を設けていた。大和から移住した刀工と考えられており、細直刃出来の作に大和風が窺える。二王堂が火災になったおり、その鎖を清綱の太刀で斬ったことから二王清綱と言われるようになったとの伝説がある。その初代はなかなか手にする機会がない。この太刀は鎌倉後期の作。わずかに磨り上げられているが銘はかなり上部に残っている。地鉄はねっとりと詰んでその中に板目や柾調の肌が窺える。映りは淡く斑状に入って焼刃に迫り、いかにも古風。刃文は直刃で、刃中には肌目に伴って流れるようなほつれや金線が入る、総体には小模様な形の定まらない互の目となり、刃先にまで沸匂が広がっている。得難い名品である。□






太刀 則常(妹尾) Noritsune Tachi

2017-07-21 | 太刀
太刀 則常(妹尾)


太刀 則常

 妹尾鍛冶とは、備中国妹尾に鍛冶場を設けていたことからの呼称で、古青江鍛冶に含まれていると捉えればわかり易い。鎌倉前期の則常もその一人。この太刀は磨り上げられてい派入るが折り返し銘が遺されている。地鉄は良く詰んだ杢目交じりの板目肌が縮緬状に綺麗に揺れて見える。鎬から垂れ込むような映りが立ち、ねっとりとした柔軟さが窺える。刃文は湾れに不定形な小互の目交じり。焼刃は小沸に匂が複合し、刃境を砂流状に沸が流れ、刃中にも揺れるような肌が生じているのであろうかほつれが加わり、沸匂の濃淡と共に複雑な景色を展開している。きれいなんだけど、受け疵がすごいね。使った証拠。しかもこれだけの力を受けても折れなかった。

太刀 行真(妹尾) Yukizane Tachi

2017-07-20 | 太刀
太刀 行真(妹尾)


太刀 行真

 以前は鎌倉時代の波平行安と鑑られていた太刀。本作のように良く詰んだ地鉄に大肌が現れ、刃文が直調の湾れ刃であり、銘の一部が朽ち込み等で良く見えないと、判断しにくいところがある。他の在銘の備中国の行真の作例があり、それと銘が良く似ていることから、鎌倉前期の妹尾行真に間違いがない。確かにねっとりとした質感が窺える地鉄であり、大肌によって綾杉肌のようにも見える。また、縮緬肌のように杢目や板目が揺れて複雑なところもあり、鑑賞の要素は頗る多い。刃文は沸付いて砂流し状に流れる景色があり、帽子も掃き掛けている。

太刀 波平安久 Yasuhisa Tachi

2017-07-18 | 太刀
太刀 波平安久


太刀 波平安久

 南北朝後期の波平安久の、時代観が良く現れている太刀。茎の身幅が広く、焼幅が鋒まで均一であることから研ぎ減りを考慮すると、元先の身幅が広く反りの深い太刀であったことが判る。鎌倉時代に大和鍛冶からの影響を受けたことにより地鉄に大和風の板目流れの肌合いが強く現れるようになる。鎌倉初期の地鉄とは趣も違ってくる。それでも、綾杉風に揺れる肌合いを含んでおり、ちょっと面白い。もちろん波平鍛冶の本質でもあるねっとりとした質感は残されている。

 『刀剣美術』の726号で、鎌倉時代後期から南北朝時代後期までの時代による太刀の姿の変遷に関して、定例鑑賞会で詳しい説明が為されたことが記されていた。筆者を含めて多くの方々は、わずか数十年の間であっても、微妙に造り込みが変化して行くその過程を、現物を見ながら詳しく比較する機会がない。そのようなこの鑑賞会は頗る有意義であったと思う。今後も、各時代について、また、中央と薩摩のような遠隔地など、地域による違いもあろうかと思うので、それらを詳細に比較し、目で見てわかるように提示していただけるとありがたい。山城刀工と、備前刀工という地域の違いすら存在するわけだから、全国すべての刀工がいっせいに姿格好を変化させたはずがないのだ。また、戦法の変化による微妙な変化が、あるいは刀工群を抱えていた為政者の動向がどのように刀を変化させたのかという点も面白いテーマだと思う。公益財団法人日本美術刀剣保存協会が新たな場所に移り、今後、研究などに関しても多方面へと目を向け、変わってゆくだろうと、大きな期待を寄せているところである。

太刀 波平 Naminohira Tachi

2017-07-15 | 太刀
太刀 波平


太刀 波平

南北朝時代の生ぶ無銘の波平。波平古鍛冶は大和鍛冶の流れを汲むと伝え、また奥羽の修験鍛冶の影響も受けていると考えられている。綾杉鍛えが波平派にみられることからの理由だが、素質はねっとりとした質感が強い地鉄で、白っぽく古風な映りが立ち、その中にうねるような肌が現れるものがある。この太刀も、表裏の風合いは異なるも、片面には綾杉状に揺れる肌が強く現れている。刃文は匂口の潤んだ直刃。沸を強くしないで折損防止を追求したのであろう。実用と言う意味で理に適っている。

太刀 古波平 Ko-Naminohira Tachi

2017-07-14 | 太刀
太刀 古波平


太刀 古波平

 鎌倉時代初期の、生ぶのままの波平鍛冶の太刀。綺麗に揃った杢目交じりの板目肌で、地鉄の本質にねっとりとした感があり、刃文も匂口が潤んで柔軟な鋼の様子を映し出している。これが波平派の古作の作だ。薩摩の古鍛冶は大和鍛冶の流れを汲んでいる。とはいえ、素材そのものは大和鍛冶とは異なる九州産を用いているのであろう、ここに波平派の特質がある。にもかかわらず、これを、田舎臭いと評する方がいるのは嘆かわしい。とある刀剣鑑定の書籍には、他の地方刀工についても似たような表現がされているのだが、「波平が都を遠く離れた僻地であることから…傑出した作者も出ず…平凡な一定化した大和伝系の伝法の一流派にすぎません。…どこか垢ぬけしない物足りなさを覚えるものです」と記している。絶句するひどい評価のしようだが、こんな説明で読者は理解し納得しているのだろうか。このような書き方は、この本の著者だけでなく、また他の刀工集団についても、度々述べているように、初代が最も優れていて、あとは品位が劣る、出来が悪い、力がない等々、比較評価するに値しない言葉の羅列でそれぞれを説明しようとしている。書籍を利用することは簡単だが、現物を手に取って鑑賞していただきたい。自ずと初、二代の違いが明確になり、自分の好みが何であるのかが判ってくる。他人の評価に自分の好みを合わせる必要はない。刀剣研究家は、多くの人に影響を与える立場にあるのだから、判断を誤りかねない説明をするべきではない。特に初心者に向けては。

太刀 武州住照重 Terushige Tachi

2017-07-08 | 太刀
太刀 武州住照重


太刀 武州住照重

 戦国時代末期の武州下原鍛冶の照重。この一派にも地中に杢を配した鍛えがある。如輪杢などと呼ばれている。拡大写真でその様子が判ると思う。実際にはさらに綺麗な、杢目が密集した地鉄もある。本作などはかなり古調な綾杉の鍛え肌に見える。このような鍛えがいかに創案されたのか、あるいは何らかの作風を手本としたのか、興味深いところである。戦国時代であることから、斬れ味を高める目的があったことは確かだ。下原鍛冶の源流は相州鍛冶で、室町時代の相州伝が基礎にある。匂口が沈んで凄みがあり、いかにも打ち合いに強く、しかも切れそうだ。

太刀 青江次吉 Tsuguyoshi Tachi

2017-06-27 | 太刀
太刀 青江次吉


太刀 青江次吉

堂々とした姿格好が遺されている、南北朝中期の青江次吉と極められている太刀。二尺五寸強で、二寸ほどの磨り上げ。杢目を交えた板目肌に細かな地景が入って肌立つ感があり、地沸が付き段状の映りが立つ。刃文は直刃で、帽子は先端がわずかに掃き掛けて綺麗に返る。刃境にはほつれが掛かり、小足が穏やかに入る。激しい出来ではないが、落ち着いた、高位の武士好みの作である。

太刀 備中國住次直 Tsugunao Tachi

2017-06-26 | 太刀
太刀 備中國住次直


太刀 備中國住次直作

南北朝中期の折り返し在銘の太刀。区が送られて二尺三寸強だから、三寸ほどさらに長かったと考えればよいだろう。地鉄は小板目状に良く詰んでいるが、よく見ると小杢が交じっており、地沸が付き、刃に沿って段状に映りが立つ。刃文は直刃に小足入りで、これにより浅く湾れているようにも感じられる。帽子は穏やかに乱れて返る。銘は、磨り上げながら折り返しで遺されている。
 未だに「末青江」の分類用語を用いている人がいるようだ。かつて、南北朝時代後期以降の作を末青江と呼んだが、青江鍛冶の流れを汲む工が各地に移住してしまったものか、鎌倉時代や南北朝時代の特徴を伝える室町時代の青江鍛冶は実質的に存在せず、作風からも青江鍛冶と呼ぶには適さないことから、現代では、おおよそ鎌倉前期以前の古青江と、鎌倉中期以降の青江の二つに分けられて考えられている。

太刀 貞次 Sadatsugu Tachi

2017-06-16 | 太刀
太刀 貞次


太刀 貞次

鎌倉後期の青江貞次と極められた太刀。貞次は、鎌倉後期から南北朝期の青江派の中心的な鍛冶。二尺三寸強だから、もちろん磨り上げられている。かつて、青江派の分類は、鎌倉前期以前の古青江、鎌倉中期以降の中青江、南北朝時代の末青江と三つに分類されていたが、現在では、鎌倉前期以前の古青江、鎌倉中期以降南北朝時代までの青江の二つに分けられているだけ。その後、青江派は、備中を巡る権力者の移り変わりなどによって、存在感が薄れてゆく。室町時代には青江派と呼べる、その特徴を明確にした鍛冶は見当たらなくなる。ここが不思議なところで、青江派の人気の一つにもなっている。青江鍛冶の特徴は、鎌倉初期の古青江より鎌倉中期以降南北朝時代の青江鍛冶によって強くなっている。各地の鍛冶の特徴が、鎌倉時代においてより強められたように、青江においても同じことがいえる。縮緬状に良く詰んだ杢目交じりの板目肌に段状あるいは斑状の映りが立ち、直調の刃文に逆がかる小足が入り、南北朝期にはこれが強く際立って火炎状になるものもある。本作は、それらの特徴を良く示している。






太刀 古青江 Ko-Aoe Tachi

2017-06-14 | 太刀
太刀 古青江


太刀 古青江

 鎌倉時代前期の古青江と極められた太刀。良く詰んだ杢目交じりの板目肌がわずかに肌立つ風があるも、ものすごく綺麗だ。この古調な肌合いが多くの武士を魅了した。備前一文字のような強く杢目や板目の立つ風がなく、しっとりとした感がある。刃文は小沸出来の直刃だが、刃中は穏やかな小乱となっており、匂口潤み調子に渋い出来も特徴的。古青江は鎌倉後期から南北朝期にかけての青江の作風とはずいぶん異なるのだ。


太刀 藤原清則 Kiyonori Tachi

2017-06-10 | 太刀
太刀 藤原清則


太刀 藤原清則享徳四年三月日

 これも室町中期の吉井派の作。永享の吉則より二十数年下がる。太刀銘ながら二尺一寸強の、鎬が高く仕立てられた片手打ちの造り込み。板目肌に流れるような肌が交じって良く詰み、総体は小板目風に感じられるほど。地沸が付き映りが立ち、細かな地景が網目のように現れている。刃文は見ての通り細直刃調の浅い湾れ刃だが、綺麗に揃った穏やかな互の目が交じっている。この点が吉井派の特質。浅く湾れ込んだ帽子は先小丸に返る。刃中には小足が入る程度だが、澄んで美しい。地鉄の良さがこの太刀の魅力だろう。

太刀 備前國吉井吉則 Yoshinori Tachi

2017-06-09 | 太刀
太刀 備前國吉井吉則


太刀 備前國吉井吉則應永五年六月日

 室町初期応永頃まで時代の上がる吉則。茎が、磨り上げられているとは言え古調で味わい深い。二尺一寸強、反り六分六厘。この頃から盛んに用いられるようになった、扱い易い片手打ちのスタイルだ。小杢、小板目を交えた地鉄は総体に良く詰んで地沸が付き細かな地景も交じり、映りも顕著。互の目の刃文は、時代の下がった吉則のような小模様の互の目ではないが、それでも高さと幅の揃った互の目を並べたように端正なところが窺える。誰が見ても間違えない、特質が良く現れた作で、しかも優れている。


太刀 康光 Yasumitsu Tachi

2017-05-06 | 太刀
太刀 康光


太刀 康光

 腰開き互の目も得意だが、直刃出来に素晴らしい作品を遺している康光は、応永備前の代表工。先の南北朝後期の太刀からこのような太刀へと連続している。南北朝時代中期の大太刀に比較して小振りになるが、腰反りが付いており、姿格好は鎌倉期に戻ったようにも感じられる。だが肉が厚い。この姿格好が、南北朝時代末期から室町初期の、鎌倉時代の古作に倣った造り込みである。この時期にも復古意識が高まっているのである。大太刀から小太刀へと進化し、次第に片手打ちの打刀へと進化している。地鉄は応永杢と呼ばれる杢目交じりの板目肌が躍動的。刃文は直刃基調にごく浅く湾れている。頗る美しい出来である。映りは、刃文に応じた直映り。

太刀 光包 Mitsukane Tachi

2017-04-28 | 太刀
太刀 光包


太刀 光包

 これも小反に加えられる南北朝後期の刀工。生ぶ茎からなる姿格好を見てほしい。刃長二尺六寸強、反り一寸。小反とはいうものの、古作に戻ってこのような長寸深反りもある。ただし元来が細身。重ねは二分三厘。先反りも付いている。この辺りが鎌倉時代の太刀と異なるところ。地鉄は細かに詰んだ小板目肌に板目が交じって所々肌立つ感があるも、総体は綺麗だ。刃文は、この写真では良く判らないが、互の目に小湾れ交じり。焼頭が高低して腰開き調子になるところは、この後の盛光などの刃文に通じるのであろう。