有機野菜は慣行栽培の野菜より何か優れているように一般に思われていますが、イギリスで行われた体系的な文献による解析結果から、有機と慣行の作物での栄養物含有量に有意な差が認められなかったと、2009年に発表されました。
イギリスの食品基準局から調査を委嘱されたロンドン大学大学院の栄養公衆衛生研究チームは、1958年1月1日から2008年2月29日までの50年間に世界で刊行され、専門家の審査を受け、英語の要約のある関係文献をデータベースなどで検索し、該当した文献をレビューしてとりまとめた報告書を、2009年7月に食品基準庁に提出しました。
報告書は2部からなり、一つは栄養物レベルに関する報告書(1)、もう一つは健康への影響に関する報告書(2)であります。
―イギリスの食品基準局のロゴマークー
食品基準庁は、これらの報告書の提出を受けて 2009年7月にプレスリリースで有機食品と慣行食品の間には栄養や健康効果に大きな差異はなく、消費者は食品について正確な情報を得たうえで選択することが必要と強調しています。
消費者は、有機に拘る事無く、正確な食品情報を得て良いものを選ぶ必要があり、それを知っているのは、差し詰め野菜なら、経験豊かなベテランの八百屋さんであり、目利きからの耳学がベストかも知れません。
―有機と慣行栽培のイメージイラストーEebImagesより
有機と慣行の作物における栄養物と関連物質の含有量の差に就いて、含まれる栄養分の量ではほぼ同程度と言いますが、調査該当する全文献での統計解析で、慣行作物で有機作物よりも有意に高かったのが窒素含有量であり、有機作物のほうが有意に高かったのは、糖、マグネシウム、亜鉛、乾物、フェノール性化合物、フラボノイドであったとあります。
また、特に信頼度の高い文献解析で、両者に有意差が見られたのは2つのカテゴリーだけであったとあり、それは慣行作物では窒素含有量であり、有機作物で高かったのがリンと滴定酸度(注)であったとも有ります。
(注)滴定酸度:食品に含まれるクエン酸,リンゴ酸などの酸の量を簡便に表すために,酸を滴下して中和するのに要したアルカリの量で表示する方法で,値が大きいほど酸が多い。
その一次と二次の統計解析の少なくとも一方で、有意差が認められたケースの原因について、原報告は次のように推定しているとありました。
其の違いの推定原因:
(a) 窒素とリン、マグネシウム、亜鉛は、有機と無機の生産システムで使用した肥料や土壌中の作物の吸収可能な当該元素量に違いがあった。
(b) 乾物は、リン、マグネシウム、亜鉛が有機で多かったように、有機で全ミネラル量が多かったために、有機で多くなるケースが生じた。
(c) フェノール化合物やフラボノイド含量は、有機や慣行であれ、季節変動、光と気象、成熟度などの影響を受けるが、これらが有機作物で多かったケースが認められたのは、有機では殺虫剤や殺菌剤を使用しないために、昆虫や微生物の食害や侵入といったストレスをより強く受けて、フェノール化合物やフラボノイド含量が増加した。
(d) 糖と滴定酸度が有機で高かったが,恐らく肥料の使用、成熟度、生育条件の違いに関係する。
―比較表1-
その栄養物含有量の差による健康影響の可能性に就いては、その差が認められた有機と慣行の農生産物を食事で摂食したときに、人体の健康に差が生ずるかを、既往の知見から次のように考察しています。
(a) 窒素は全ての農産物に存在し、健康に影響するほどの差は考えにくい。
(b) マグネシウム、リン、亜鉛は全ての植物の細胞に存在し、通常の多様な食事を摂っている人に欠乏が生ずるとは考えにくい。マグネシウムの過剰摂取は有害ではあるが、慣行に比べて高いレベルの有機の食材を食べていても、腎臓が正常な人では害作用が生じないと考えられる。
(c) 乾物の必要量は定められていないが,乾物含有量の高いものではミネラル含有量が高くなっており、それが健康に良いであろう。
(d) フェノール化合物やフラボノイドの多くは、抗酸化活性との関係で健康に良いとされている。最近、ケルセチン(フラボノール)が肺ガン抑制に効果があると示唆している研究広告や集団調査でフラボノイドの摂取量が多いと冠状動脈性心臓病による死亡率が低いことを示す研究報告がある。
(e) 滴定酸度と糖は、食品素材の味覚的性質に違いを生ずるが、健康とは関係ない。
―消費者が買うことで広がる有機栽培―WebImagesより
皆さんは、この報告結果を如何受け止められますか?有機野菜が健康に良いと考える一番の理由は、実は無農薬栽培であるとお考えになりませんか。勿論、農薬は正しい使い方に従えば、健康に害を及ぼす事は有りません。
しかし、喩え微量であっても農薬成分は必ず農産物に残留しています。人が摂取する食品の全ての化学物質の複合的な作用を勘案すると、微量な残留神経毒成分や内分泌かく乱物質等が、生体組織へ何等かの影響及ぼす事は充分考えられますが、今の制度ではそこまでの安全性の証明は課されては居ませんし、科学的にも明らかにされて居ません。
農薬には当然の潜在危険があり、化学合成農薬の使用を全く締め出している有機農法の意味は、先ず其処にあり、其の意義は大変大きいと理解すべきと思っています。
―有機野菜は差別化から始まる!―WebImagesより
更に大きな意味が有る事は、農薬を解放区間で利用するなら、其の大部分は作物の周囲を含めた自然の生態系に破壊的な影響を及ぼす事であり、今や農業生産にあって、如何にして農薬を減らすかが究極の課題となって居るのは周知の事実です。
其処にこそ制度しての有機農業の真の意味があると思って居ますが、今や農業生産者にとっても減農薬は最大の関心事であり、出来れば化学農薬を少しでも減らす為に 「綜合的病虫害管理」、IPMが作物毎で徹底すべく、其の実践が提唱されて久しくなりました。
―無農薬だから、アメリカは有機栽培イチゴが盛んです!-WebImagesより
尚、話は元に戻りますが、個々には有機と慣行の作物の成分品質には差が認められているケースがいろいろあり、作物の種類や品種が同じであっても、土壌の水分や養分などの条件によって、作物の成分品質は異なるのであり、其の農法を厳密に規定しても、其れと判断するは無理があります。
有機栽培と慣行栽培で、こうした条件に明確な違いが存在すれば、当然成分品質に違いがでることが期待されますが、作物は例えば、窒素などの養分を少な目に施用して、かつ節水栽培すれば窒素過剰施用で潤沢に水分を供給した場合よりも糖度やビタミンCの濃度の高い作物を生産することができます。
こうした条件を慣行栽培で確保することが可能であれば、同様に有機栽培で条件を確保できる糖度やビタミンC濃度の高い有機農産物を生産できる事になります。
しかし、実際には異なる品種を用いて様々な条件で作物は栽培されており、其の成分品質は同じ種類の作物であっても、かなりの幅が出る事もあって、サンプル数が多くなれば、其の傾向は看過できても、全体的に見ればその有意差は無くなるのです。
―輪作は有機栽培では特に大切です!-WebImagesより
私事になりますが、均衡培養液を用いる特殊な容器野菜栽培を始めて15年、土壌機能の大切さを知って、本格的な家庭菜園を外房で初めて7年目に成りますが、当初から有機栽培に拘る積りは毛頭無く、唯其の狙いは、食べて美味しい安全安心な無農薬野菜栽培であり、それには先ず、土壌条件を知っての圃場の土壌管理であり、如何に無駄な肥料を節約するかで有ります。それは化学肥料だけに限った事では有りません。
―外房菜園の収穫期を迎えた玉葱と収穫を待つジャガイモー
其の間に会得した秘訣と言えば、菜園の周りの刈り芝を全て、マルチにして徹底的に利用する事と作物残滓を圃場に返さない輪作です。
最大の悩みは、驚く程の虫害の多さであり、酷い「モグラ」の出没です。普段は住んで居ない為に、予期できない鳥獣害にも手を焼いています。究極は優れる栽培品種への拘りであり、多角的観点からは市販野菜を越える事です。
参照ネット情報源:西尾道徳氏の環境保全型農業レポートNo.137
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