先のブログで触れたフラボノイド類は植物が自らを守るファイトケミカルと呼ばれる二次代謝物質と言う事ですが、植物には又、他の植物の生長を阻害したり、或いは動物や微生物を防いだり、引き寄せたりする効果を持つ物質を放出する作用があると言い、あまり聞き慣れない言葉ですが、アレロパシーと言い、日本語では他感作用と訳されています。
この言葉、大正時代の1922年から25年までの間、東北帝大に招聘されて植物学教室で教鞭をとった事のあるオーストリアの植物学者、ハンス モーリッシュが、1937年に植物の持つ他の植物に与える影響について提唱した作用と言います。
―Hans Molisch-WEBPhotoesより
そのアレロパシー、特定されている化学物質の例では、クルミ科の植物からの「ユグロン」と言う物質があり、クルミの木の周辺に植えられている植物が生長阻害を受けることが明らかにされ、除草剤として利用されていると言いますが、昔からクルミの木の下の花壇等では、草花の育ちが悪く成る事が経験的に知られて居ました。
-クルミの実―WEBPhotoesより
又、桜の葉に含む「マクリン」と言う化学物質、日本では古くからその芳香成分を好んで、桜の葉で包み「さくら餅」にして食べられています。
―美味しいさくら餅―WEBPhotoesより
この植物の持つ他感作用で根から分泌される物質に依って、自らの発芽繁殖が阻害されてしまう事があり、一時は驚異の外来植物として問題にされ、今も外来植物の「ワースト100」の中の駆除対象となっている「セイタカアワダチソウ」がその例と言います。
帰化植物特有の旺盛な新天地での繁殖力は、一端定着すると種子繁殖が自ら阻害され、吸収できる養分量の減少もあって、繁茂した占有地域での地下茎による持続的な生育が精いっぱいとなり、繁殖力の低下が起って、少しずつ減少する結果が観察されると言うのです。
―群落を作る背高泡立ち草―WEBPhotoesより
又、アレロパシー作用で同様の現象が発生する例ではアスパラガスの連作障害があり、一定の栽培期間を経過すると、収穫量の減少が起こり、更新改作を必要とする「生物耐用年数」がある作物となっています。
しかし、これは多くの他の植物でも見られる現象であり、芝生地や林地で雑草の発芽が抑制されている事が毎年除草して居て観察できます。
―生物耐用年数のあるアスパラガス―Wikipedia より
一般に畑地の栽培作物では、相性が良くて昆作すると病虫害が少なくなったり、共助作用で出来の良くなる作物があり、家庭園芸ではコンパニオン作物と言って、混植すると良いと謂います。一方で、どちらかと言うと相性の良くない作物があり、特に同種の作物を同じ場所で連作するのは避けるのが好ましいとされ、不作や病害の発生の原因の一つが、そのアレオパシ-作用であり、一般に良く謂われている「いや地」現象の発生です。
―アレロパシーイラストーWEBPhotoesより
その「アレロパシー」、微生物を含む植物相互間の生化学的な関わり合いを広く指し、微生物を含むある一種の植物が生産する化学物質が環境に放出されることによって、他植物に直接又は間接的に与える作用であり、植物や微生物の生育を阻害する場合と促進する場合の両方が含まれ、それにはある種の「化学物質」が関わっていると言う事です
―植物と環境との相互作用イラストーWEBPhotoesより
生物が自己をも含み、他の生物に対して影響を与える場合の化学作用と言いますが、他の生物たちに悪影響を与えるばかりでなく、ある種の作物を共植する事で生育が促進されて収穫量が増える実例が報告されているとも言います。
―アレロパシーイラストーWEBPhotoesより
そして今、アレロパシー作用を持つ植物や植物からの抽出物を、除草作用や病害抑制作用を持った農業資材などに利用する研究も行われていると言いますが、連作障害の全てが、アレロパシー作用に依るものでは無い事も事実であり、土壌の持つ植物との拘わりの中で、其の未知の化学物質の持つ作用をどう利用できるのかは大変興味の引かれる話です。
最後に恐らくこんな事聞いた事が無いと思われますので、拙宅の庭での「アレロパシー作用」に依る被害ともいえる話を一寸披露させて頂きます。
―紺照鞍馬苔こてりくらまこけーWebPhotoesより
その正体は、元は外来のイワヒバ科のシダ植物で、其の葉の色がブルー色の園芸の好きな方なら庭に植えたくなる鞍馬苔の一種で、「紺照鞍馬苔」と優雅な日本名で呼ばれ、環境で色が変わる事から「レインボーファーン」とも言う植物です。
―庭のつくばいを覆う紺照鞍馬苔―
恐ろしい事に、この苔が周辺の接触する植物を次々と枯らして仕舞うのです。拙宅の庭の手水鉢の周りの低い皐月の株が全て枯れてしまい、根絶やしにしない限り、取っても次々と伸びて来る旺盛な苔です。帰化植物特有のすさまじい繁殖力、周辺の植物を枯らすアレロパシーの持ち主であり、決して露地に混植してはいけません。
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