
先日書いたDowney Cafeの向かい側にあった小さな映画館。
3月に部屋の下見に来たときには営業していて、越してから通うのを
楽しみにしていたのに、一度も足を運ぶことのないまま閉館してしまった。
昭和10年に開館し、以来71年間湘南でもっとも古い映画館として存在していたそう。
正面のドアから中を伺うと、名画座のようなクラシカルな雰囲気が素敵で
(上映している映画は普通のロードショーものだったようだが)、
映画館というより劇場と呼ぶのがふさわしい風情だった。
こんな映画館でニュー・シネマ・パラダイスなんて見たらじんわりきそうだ。
最近乱立するシネコンのゆったりシートはたしかに快適で、音響もすばらしく、
あれはあれでアメリカの映画館みたいで好きではあるが、
こういう古くて良いものがどんどん姿を消していくのは本当に淋しい。
白壁が美しいロビーは吹き抜けで開放感があり、休憩時間にくつろげるように
ピアノの自動演奏なども楽しめたそうだ。
藤沢オデヲン座の当時の支配人によれば、「我々は無形のものを売り物に
しているので、映画を見終わったお客様にロビーで余韻を楽しんで
いただけたらうれしい。」と。
映写技師としての経歴を持つ支配人らしい、映画と映画を愛する人への愛情が
感じられる心遣いを知るにつけ、かえすがえすも閉館は残念である。

「ノルウェイの森」 村上春樹
15年ぶりくらいに読み返してみると、当時とはまた異なる印象を持つものだ。
発売当時は現代版「こころ(夏目漱石)」などと言われていたような記憶があるが
たしかに親友の自殺や一人の女性を愛するなどのプロットは共通しているけど主題は違う気がした。
この話の中で一番好きな登場人物の緑が言うセリフ、
「人生はビスケット缶みたいなもん」
好きなビスケットも嫌いなビスケットもいろんな味や形のが入ってて、
好きなのから食べていくと嫌いなのばかり後に残り、逆もしかり、
ランダムに食べれば楽しみも分散されるし、ってほんとそんな気がする。
終始「死」の影がつきまとう。
死は生の対極としてとらえがちだが、つねに表裏一体の関係であって
死を意識することによって生がさらに顕在化するというような思いにふととらわれる。
小説には直接関係ないけれど。
60年代後半~70年代初頭は何か頽廃ムードが漂います。
小説の発行部数ではほかの追随を許さなかったのに
「世界の中心で愛をさけぶ」に抜かれたって、むむむな事実である。