秀策発!! 囲碁新時代

 「囲碁は日本の文化である」と胸を張って言えるよう、囲碁普及などへの提言をします。

囲碁観戦記の鑑賞術≪7≫〜分かりやすくする工夫〜

2015年11月16日 | 囲碁の話題
 平成22年の秋頃、仲邑幸さんにお会いする機会がありました。関西棋院のプロ・石井茜さんのお姉さんで、仲邑信也プロの奥さん。埼玉県で子供向けの囲碁教室をされています。そこでは、仲邑プロの指導方針として、子供にも棋譜並べをさせるそうです。また近年では、棋譜並べの有効性が再確認され、それを取り入れている教室も増えている。そんな話を耳にしていましたので、私が集めていた女流本因坊戦譜の中から、石井茜さんの物をコピーしお渡ししました。

「子供にプロの碁はわからない」
 そう言う方も大勢いらっしゃいます。しかし仲邑さんのブログを拝見すると、初級者の子供でも楽しみながら棋譜を並べているらしい。仮にわからない点があれば、仲邑プロが巧くフォローされるのでしょう。むしろ問題は、子供にはわからないだろうという指導者側の一方的な思い込みと判断。わからない事をわかる様に、出来ない事を出来る様にする、この2つは教育や指導上の初歩的な心得でありますが、それを何の模索も無しわからないとは、指導者としての役目を怠惰しているとしか思えません。

 とは言え、経験の少ない人が1人で棋譜並べをするのは結構な困難が伴います。ですので、まずは幾つかの下準備をします。
まずは拡大コピー。新聞は文章量が多く、文字は学校教科書よりも小さい。それでは子供では無くとも、文字が読みづらいと仰る方が随分と多い。そこで、拡大コピーをするだけでも随分読みやすくなります。ちなみに私の場合、拡大サイズを115%〜120%に設定し、新聞連載の原本をコピーします。棋譜は縦横8cm位にすれば読みやすい。
 棋譜の数字が探しにくければ、蛍光ペンで色分けする。これは万波奈穂さんが子供時代にやっていました。知らない漢字があれば、辞書で調べてふりがなや意味を書き添える。ヒントになる資料を集める…… 分からない事を分かり易くする方法は、他に幾らでもあります。この2つは、手軽なのでお奨めです。≪続≫

囲碁観戦記の鑑賞術≪6≫〜読み物としての楽しみ〜

2015年11月02日 | 囲碁界への提言
 それまで囲碁と縁がなかったが、定年退職されたご主人に誘われ碁会に始めて参加した。それがきっかけで新しい交遊関係が出来た。そんな女性の囲碁ファンも大勢いらっしゃいます。
「囲碁始めたばかりで全然強くない」
 と言う人にも、それぞれにあった楽しみ方がある。囲碁の番組や本を見る、囲碁の仲間と食事に行く、それもまた良いでしょう。今回、囲碁の観戦記について取り上げた理由も、実は囲碁が強くなくとも楽しめる、それを是非とも知って頂きたかったから。

「打碁集や観戦記を読んで勉強する際は、解説や参考図を読まず、棋譜並べだけに集中する事」
 これが棋譜並べの際の心得とされています。しかし、昭和40年以降はそうとは限らない。棋譜解説は分かりやすく、観戦記は読んで面白く。観戦記者はこれを意識して執筆し、解説担当のプロもそうする様に注意しているそうです。ですから、仮に解説が難しくわからないとしても、観戦記に書かれたエピソードを読み、より囲碁に親しむのもいい。はじめから勉強第一と意識する必要はありません。
 プロの碁はよくわからない。しかし、囲碁界の話題や対局者についての興味が少しでもあれば、観戦記は結構面白く読めます。打碁の進行内容や観戦記者のアングルにもよりますが、雑誌や新聞で取り上げられなかったエピソードが紹介される事も多々あります。普及活動、国際試合、研究会の様子…… そして観戦記は作品。新聞連載のエッセイや小説と同じ立場。そう思えば、仲間との会話のネタが見つかり、囲碁談義が盛り上がります。対局以外にも楽しみは沢山あるのです。

 昭和中期までは囲碁記者が少なかった事もあるのでしょうが、観戦記の人気が新聞の売上に直結する事もあり、著名作家が担当する事も多かった様です。中でも、戦中に川端康成が担当した本因坊秀哉名人引退碁の観戦記は、特に評判が高い。これは川端の全集にも収録されていますので、一度はご覧頂きたい作品です。≪続≫

囲碁観戦記の鑑賞術≪5≫ 〜つなげる事の重要性〜

2015年10月19日 | 囲碁界への提言
 私が公民館のサークルで囲碁を打ち始めたばかりの頃。相手がアマ5〜7段の場合、星目(石9ツのハンデ戦)ですらまだ勝てなかった。その時によく言われた事が、
「あんたみたいに形良く打っていたり、石を繋げているだけでは、いつになっても勝てるわけがない」
「そんな打ち方ばかりしているから、日本のプロは弱くなったんだ」
 相手方からすれば、守ってばかりで貧弱過ぎると感じたのでしょう。確かに当時は、石の攻め方を知らない。それでもどうにか強くなろうとしていました。そして縁あって『碁席秀策』の師範であった佐々木修先生のご指導を仰ぐ様になりました。

 佐々木先生に一体何を教わったのか…… アマ代表として梶原武男・八段に定先で勝ち、院生時代の山下敬吾や謝依旻に指導碁を打っていた。それほどの実力者は一体何を考え、そして何を教えているのか。佐々木先生にお会いした方ならご存知でしょうが、
「打碁の良し悪しは、『石の連絡』と『石の形』である」
 と、その2つを徹底して主張されていました。これはプロもアマも関係無く、また、如何なる時代も関係無く、囲碁の真理である。安心や安全の2つを最優先に考えるべきとも。
 とにかくチカラをつけたい、強くなりたいと思っていた初期の頃は、そんな事でいいのかと思っていました。しかし、実は佐々木先生の師事を仰ぐ度、次第に合点がいく事が多々あり、反対に一般のアマの間には誤った情報が流布しているのではと思う様になりました。

 今ならば、乱打戦や切ったはったばかりが戦いではない事はわかります。戦況優位の為に味方と協力し合ったり(=連絡)、必要な装備を揃えたり(=形)する。相手の石の連絡を妨害する事、相手の石の整形を妨害する事、つまり囲碁用語で言う連絡と形、佐々木先生の主張を反対の意味で考えれば、実はどちらも攻めの思想として説明が出来る。初めて聴いてからこれに気付く迄、それにしても時間がかかり過ぎました。≪続≫

囲碁観戦記の鑑賞術≪4≫〜作戦に注目する〜

2015年10月05日 | 囲碁界への提言
 プロの実戦譜を並べる事は大変有効な勉強法。かつての木谷門下では、学校へ行く前に棋譜並べをするのが習慣で、名だたる名手の実戦譜を多く体感する事で各々の感性と素質が高められたと言われています。

 そんな木谷門下生の一員であった加藤正夫先生、新聞連載の観戦記に目を通す事が日課だったようです。加藤先生の研究会へ行くと、まずは観戦記を新聞から切り抜いたり整理したりしていたと、どなたかの回想記で読んだ記憶があります。
 囲碁が強くなるにはどうすればいいか。上記の加藤先生は、何か1つ得意戦法を持ち、徹底的に研究する事を推奨されていました。得意戦法を徹底的に研究する事で、その戦法の真意が確実に身に付き、学んだその人の確かな実力となるという。
 加藤先生、本職の囲碁では中国流を、趣味の将棋では棒銀を愛用されていたという。まずは愛用する打ち方について詳しく、徹底的に調べてみる。そしてそれから、同じ様な打ち方をするプロの碁を探して並べてみる。プロの碁が分からないとは言え、ご自身愛用の打ち方ならば分かりやすい筈。当然分かりやすいだけではなく、調べれば調べる程知らなかった事も彼是出てくるので、次第に学ぶ楽しみも気が付く筈。

 料理好きの間では、この数年、塩糀が注目されています。塩糀その物は格段旨くはありませんが、発酵食品ならではの特徴、食材の旨味を引き出す働きがあり、色々な料理との相性が良い。それにレシピ本も多く出版されているので、塩糀レシピだけ毎日作って食べても飽きが来ない。料理は材料を理解すると書きますが、何か1つを突き詰めて調べ理解する事は、実は囲碁や料理に限らず、古来学問の本道でもあるのです。
 中国流、高中国流、ミニ中国流、二連星、三連星、多々ある囲碁の序盤戦法。いずれも日々研究が進んでいますので、ご自身が長年愛用している型であっても、調べれば調べる程、それまで知らなかった事が次々と見つかるかもしれません。≪続≫

囲碁観戦記の鑑賞術≪3≫ 〜好きな人への注目〜

2015年09月21日 | 囲碁界への提言
「歴代の名人の中でも坂田栄男さんは別格。勉強するなら、坂田さんの打碁がいい」
 と、佐々木修先生に勧められました。佐々木先生に限らず、私と同年代のプロも坂田先生の打碁を勉強していると言う話しは何度か聞いてはいましたので、一体どんな方なのかはずっと気になっていました。しかし、私が囲碁を始めた頃は坂田先生は既に引退され、囲碁雑誌でも書店でも坂田先生の打碁を見つけられません。
 ある時、坂田先生の実戦譜をまとめた本の復刻版を書店で見つけ、目を通してみました。結構難解な解説も多くありましたが、成程と思った打ち方がありました。それがきっかけで、坂田先生の打碁を出来る範囲で調べてみよう、と思ったのを覚えています。

 アマ高段者であってもプロの碁がわからないと原因と言うのは、何を選んで勉強したらいいのだろうか、そんな迷いが一因ではないかと考えられます。それならまず手始めに、著名棋士の打碁集を数冊読んでみては如何でしょうか。『囲碁名局精選』や『現代囲碁体系』等には当時のエピソードが紹介されていたり、実戦解説もわかりやすかったりと、囲碁に多少なりとも関心があれば十分に楽しむ事が出来ます。それらを読んで気になる打ち方が見つかれば、更に他の棋書や新聞の観戦記等を調べる等して、じっくりと深堀していく。
 囲碁と料理を比較して考える。囲碁インストラクターの木下かおりさんの手法を拝借すれば、有名シェフの番組をきっかけに、色々なレシピに挑戦してみる。テレビ朝日やBS朝日で土井善晴さんの料理番組が放送されていますが、これをきっかけに料理に初挑戦した方も大勢いらっしゃるでしょう。もしかしたら、それから父君の土井勝さんのレシピ本等を読む様になったと言う例もあっておかしく無い。

 何事を始めるにも、スタート以前には敷居を高く感じる物。ならば、技術の理解は一切後回しに、ご自身の好きな人のみに注目してみる。そうすれば思う以上にはじめ易くなる筈。これをその1つとして推薦します。≪続≫