熱帯果樹写真館ブログ

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バナナの株に潜む害虫

2007年03月18日 | バナナ
 2007年1月24日のブログ記事「バナナのそんなところまで食べちゃうの?」で、三尺バナナの果軸をバナナツヤオサゾウムシが食害していた旨をお伝えしました。

 その記事を掲載後まもなく、バナナツヤオサゾウムシの研究をしたいという学者さんの知り合いから連絡が入り、バナナツヤオサゾウムシの採集を行うことになりました。
 食害されていた三尺バナナの株は1月上旬には収穫が終わり、その後株は切り倒して畑の外に放置していることを生産者H氏から聞き、バナナツヤオサゾウムシ採集の許可を得ました。

 私もバナナツヤオサゾウムシが、バナナ株のどの箇所に多く加害しているのか確認したいと思っていましたので、よい機会に恵まれました。
 
 収穫が終わったバナナ株は、仮茎を2~3分割し野積みされていました。
 つまり、仮茎は長さ1m程度に切りそろえられていました。
 我々は積まれた仮茎の皮をとにかく剥ぎまくり、バナナツヤオサゾウムシの幼虫、蛹、成虫のいずれが出てきても採集しました。

 採集した手応えの要約を書きますと、バナナツヤオサゾウムシは

 1.株下部よりも株上部に加害が多い。
 2.仮茎の皮部分も加害するが、むしろ芯への加害が多い。

 ことが伺えました。

 また数十匹の成虫を採集しましたが、そのうち1匹が黒色型でした(写真1)。


写真1:バナナツヤオサゾウムシ成虫の黒色型(左)と普通型(右)


 そして、気になったのがバナナツヤオサゾウムシ以外にも複数回にわたりバナナ株内で見かける芋虫がいたことです。
 生まれて間もない様な小さな個体から、終齢幼虫と思われる成長した個体まで様々なサイズが確認されました。
 しかも、この芋虫は口から糸を吐きました。
 これは鱗翅目(チョウ目)の幼虫であることを意味しています。

 昆虫に関する知識に乏しい私ですが、

 1.鱗翅目(チョウ目)の幼虫
 2.倒伏した株に侵入する。
 3.頭幅がやけに広い

 と云った特徴からヒロズコガ科(Tineidae)を疑いました。
 採集の同行者には昆虫に詳しい知り合いが身近にいることから、この謎の芋虫を持ち帰り同定してもらうことにしました。

 そして翌日、芋虫の同定が完了しました。
 ヒロズコガ科のクロテンオオメンコガ(Opogona sacchari)だそうです(写真2)。


写真2:クロテンオオメンコガの幼虫


 日本国内におけるクロテンオオメンコガの発生については、日本応用動物昆虫学会誌に吉松慎一氏らにより「クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)の日本における発生状況(PDF:481KB)」として報告されています。
 以下にその要約を抜粋します。

 クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)は、海外では“Banana Moth”と呼ばれ、バナナ、サトウキビ、観賞用植物等の害虫として知られており、アフリカおよびその周辺の島々、ヨーロッパ、西インド諸島、ブラジル、アメリカ南部など世界各地から報告があるが、アジアからの記録は非常に少なかった。我が国からは、植物検疫で発見された例と、小笠原諸島の父島で採集された報告しかなかった。しかし、1988年以降、著者らは日本国内において観賞用植物を中心に発生した本種の同定依頼を頻繁に受けるようになり、本州から沖縄に至る13地点での発生を新たに確認したので、加害植物、加害・発生実態についてまとめた。本種は少なくとも本州、四国、九州の一部の温暖な地域から沖縄にかけて限定的に発生を繰り返していると考えられた。



 また同報告書内には、クロテンオオメンコガが2000年に新潟県でバナナに加害した事例があることも記載されていました。
 沖縄県内ではドラセナ等観葉植物で被害事例がある様ですが、バナナの被害事例は報告されていない様です。

 今回、クロテンオオメンコガの幼虫であると同定して下さった方からは、

 1.ヒロズコガ科には腐食性の種が多く、クロテンオオメンコガも生でいきいきしている植物体より、ちょっと腐りかけとか、ちょっと弱りかけな植物体を好む。
 2.積んであったバナナの茎に、切られたあと、入った可能性が高そうである。
 3.植えられている健全なバナナへの被害は、今のところそれほど心配しなくて良いのではないか。

 とのコメントをいただきましたが、前述した通り幼虫のサイズに大きなバラツキがあったこと、その後生産者H氏に確認したところ「以前に生きた株からも同様の芋虫を確認したことがある」と証言を得たことから、クロテンオオメンコガが生きたバナナに加害している可能性はあると思います。

 クロテンオオメンコガによるバナナ被害を過剰に心配する必要はないと思いますが、海外では「Banana Moth」と呼ばれている害虫が沖縄県内に近年侵入したと云う事実は知っていて損はないと思います。

○参考資料
 ・「クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)の日本における発生状況(PDF:481KB)」.吉松慎一,・宮本泰行,・広渡俊哉,・安田耕司.2004.日本応用動物昆虫学会誌;48巻2号;p. 135-139.日本応用動物昆虫学会.

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2 コメント

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バナナツヤオサゾウムシ (松元)
2008-07-01 21:54:06
我が家のバナナの木も虫の被害にあっており、芯から腐っていき枯れてしまいます。
バナナツヤオサゾウムシの幼虫、蛹、成虫のうち幼虫の写真及び成虫のサイズの表示があれば非常に分かりやすいと思います。
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Unknown (ねこがため)
2008-07-21 13:52:02
>松元さん
 ご提案ありがとうございます。
 虫のサイズ表示はあった方が良いですね。
 今後はできる限りサイズも記入する様にしたいと思います。
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