熱帯果樹写真館ブログ

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書籍紹介「ドリアン -果物の王」

2007年01月04日 | ドリアン
 今回は、熱帯果樹の書籍紹介をさせて頂きます。

 紹介する書籍は、中央公論新社から2006年10月に発行されましたカラー版新書、塚谷裕一著「ドリアン -果物の王」(本体980円+税)です。



 ドリアンと言えば、「臭い果物の代名詞」と云うのが一般的認識だと思います。
 しかし、本書の著者はその認識を真っ向から否定します。

 「ドリアンは臭くない」と。

 筆者の言い分はこうです。

 ・美味しいドリアンの香りは、熱帯の果物の魅惑的な香りである。
 ・外国人観光客と足元を見られて、外れのドリアンをつかまされると「臭いドリアン」を体験する。
 ・(良い香りのドリアンでも)ドリアンを本当に臭いと感じる人もいる。

 なんだ、やっぱり臭いじゃないか、と思い込んではいけません。
 先入観だけで食わず嫌いにならず、1度や2度の失敗にくじけずにドリアンを食べ続け、味が好きになった後でも、本当に嫌な香りか再確認して欲しいってことです。

 これは私も同意です。
 気がつけば、私もドリアンは好きな果樹(香りも含めて)にランクインですから。

 そんな「掴みはOK」な出だしから始まる本書の目次は、

  1 おいしいドリアン
   1-1 ドリアンは臭くない
   1-2 ドリアンが臭いと感じる人もいる
   1-3 香りの感じ方
   1-4 ドリアンの香りをめぐる論争
   1-5 おいしいドリアンの選び方
   1-6 いよいよ食べる番

  2 ドリアンの植物学
   2-1 ドリアンの可食部 —— 仮種皮
   2-2 ドリアンの種子を蒔くと —— 1 変な発芽
   2-3 ドリアンの種子を蒔くと —— 2 成長開始
   2-4 ドリアンの種子を蒔くと —— 3 ドリアンの葉
   2-5 ドリアンの鉢植え栽培
   2-6 ドリアンの地植え栽培
   2-7 幹生果という性質
   2-8 ドリアン説

  3 ドリアンのいろいろ
   3-1 分類学の約束
   3-2 ドリアン属のふるさととオランウータン
   3-3 食用になる近縁種 —— 1 カラントゲンとパパゲン
   3-4 食用になる近縁種 —— 2 さまざまな個性
   3-5 ドリアンの品種

  4 ドリアンの果物史
   4-1 豊かなアジアと戦前の日本の憧憬
   4-2 失われた豊かなアジアの記憶
   4-3 バナナの知られざる歴史
   4-4 日本に入らないおいしいバナナ
   4-5 昭和一桁の頃のドリアン —— 1 『果物通』
   4-6 昭和一桁の頃のドリアン —— 2 『マレー蘭印紀行』=忘れられたサオ
   4-7 大戦末期のドリアン
   4-8 『浮雲』にみる東南アジアの森林資源開発
   4-9 戦後日本における果物復活の足取り —— 1 グレープフルーツからの始まり
   4-10 戦後日本における果物復活の足取り —— 2 マンゴスチン
   4-11 戦後日本における果物復活の足取り —— 3 マンゴー

  5 ドリアンのいろいろな食べ方
   5-1 ドリアン羊羹
   5-2 ドリアンかき氷
   5-3 食べ合わせ

  6 ドリアンの栄養成分と香気成分
   6-1 ドリアンの栄養素
   6-2 ドリアンの脂肪分
   6-3 ドリアンの香り成分 —— 1 香りの秘密と個人差
   6-4 ドリアンの香り成分 —— 2 複雑な香り



 と200ページがドリアン&熱帯果樹づくしの1冊となっています。

 本書中で私が特に惹かれた章は、「3-3 食用になる近縁種 — 1 カラントゲンとパパゲン」と「4-3 バナナの知られざる歴史」です。

 前に挙げた章では、ドリアンの近縁種の中には「知られざる名果」があるというもの。
 特に、

(前略)
 上品でかつ濃い甘味が、絶品とも言うべき甘い香りとあいまっていて、しかもいわゆるドリアンにつきものの、雑味に近い匂いがまったくしない、上等なお菓子のようなドリアンだ。
(後略)



 と絶賛されているカラントゲン Durio oxleyanus Griff. と云う小型ドリアンが気になります。

 カラントゲンについては、Anthony Lamb著「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ(サバ州における野生または在来の果樹Ⅱ)」にも、

 Round green fruit, large spines, pale yellow fresh, sweet. Good potential.

 (果実は球形で緑色、棘は大きい、果皮は鮮黄色、甘い。潜在能力(将来性、可能性)あり。 Byねこがため訳)



 と在来種ながらも高い評価がありましたので、期待してしまいます。
 因みにマレーシアのサバ州において、カラントゲンは「Durian Sukang」の名称で通じる様です。

 また、後に挙げた章では、「戦後、バナナが高級果樹であったのは、戦争の混乱期の一時的な現象であり、戦前にはバナナは庶民に普及していた」と云う、驚愕の事実(私にとっては)が文学作品等を証拠として語られる様は圧巻でした。

※私の田祖母(大正15年広島県出身)の話では、彼女の記憶では幼少時代にバナナは庶民に普及してはいなかった、とのことです。或いはもう少し古い時代か地域性がある情報だったのかもしれません。もし「私の祖父母から明治~大正時代にかけては、バナナは庶民に普及していたと聞きました」等の情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、コメント欄に記入をお願いします。

 それにしても、本書の筆者は文献の引用が巧いです。
 本書内で紹介された参考文献まで読みたくなります。

 こういう読みやすくもタメになる熱帯果樹関連書籍が書店販売されていることを、多くの熱帯果樹ファンに知っていただきたく、今回は書籍紹介を行いました。

○参考資料
 ・「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ」.Anthony Lamb.1990.IN-HOUSE WORKSHOP ON FRUITS;24-26th October,1990;ARS, Tenom.
  ※「FRUITS, NUTS AND SPICES」.William W.W.Wong・Anthony Lamb.1993.Department of Agriculture Sabah, Malaysia.に掲載。

○参考サイト
 ・「中央公論新社