熱帯果樹写真館ブログ

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穴開きパパイアの謎

2006年10月16日 | パパイア
 9月の末に珍しいパパイア果実を観察する機会に恵まれました。
 果頂部に穴が開いたパパイア果実です(写真1・2)。


写真1:果頂部に穴が開いたパパイア果実


写真2:穴開き果断面

 今回は、何故この様な「穴開き果」が生じたのか、原因を考えたいと思います。
 このパパイア果実は、紅妃(レッドレディ)と呼ばれる品種の両性株から得られたものらしいとのことです。

 パパイアの果実は、果形は一般的に球形か卵形、又は洋ナシ型で、正常な果実は5つの縦の心皮が側面で癒合して一体化した構造です。果実には大きな1つの中央腔を形成し、その内部には多数の種子が子房壁に位置する胎座に着生します。

 果形は、花型により決定すると考えられています。
 パパイアの花型は、雄花、両性花、雄花の3タイプに大別されますが、このうち両性花は雄しべの数により、さらに4タイプに分けられます。
 つまり、パパイアの花は雌花1タイプ、雄花1タイプ、両性花4タイプの計6タイプに分類されます。
 以下に各花型の特徴を記します(表1)。

表1:パパイアの花型


○参考資料:「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」


 写真1を見直しますと、穴開き果実の心皮数は「いずれも5個で心皮のゆ合が不完全で、果実によっては心皮にねじれが見られる奇形果」であることがわかります。
 表1と併せて考えますと、タイプⅢ(奇形花)の特徴を見事に表現した果実と言えそうです。

 両性花であれば、タイプⅡ又はタイプⅣであれば正常果が得られたはずですが、何故タイプⅢの花が咲いてしまったのでしょうか。

 パパイアの両性花のタイプは極めて不安定で、温度、遺伝因子、土壌水分、チッ素レベル、昼夜温差等の様々な影響により変化することが知られていますが、花タイプを決定する主な要因は温度(高低と昼夜温差)と遺伝因子であるとされています。
 一般に夏の高温時に花芽分化すると花は雄化(雌しべが退化)し、冬の低温時に花芽分化すると花は雌化(雄しべが減少または欠落)することが知られています(図1)。


図1:パパイアの花型と両性花に対する温度の影響

○参考資料:「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」


 ここで、今回の穴開き果実が発生した原因を考えてみたいと思います。
 パパイアの花のタイプを左右する温度とは、開花前の花芽分化時と考えられています。
 また、タイプⅡ・Ⅲの花は低温時に花芽分化した際に発生しやすい花のタイプとされています。

 野菜用パパイアの開花から収穫までの日数を示した資料を私は残念ながら持っていませんので、完熟パパイアの登熟日数を参考に考えます(図2)。


図2:果物用パパイアの開花時期と登熟日数

○参考資料:「果樹栽培要領」


 5月に開花した花が果実用として収穫されるまでの日数(登熟日数)が約140日ですので、5月上旬に開花した花が9月下旬に収穫される計算になります。
 しかし今回の果実は果実用に熟した果実ではないので、5月下旬に開花して120日程度経過したものではないかと仮定します。

 パパイアの花芽分化から開花までの日数は、一般に45~90日とされています。
 もし5月末に開花したのであれば、花芽分化の時期は3月上旬~4月中旬と考えられます。
 この頃の名護市(沖縄本島北部地域)の気温はどの様になっていたのでしょうか(図3)。


図3:2006年3月~4月の半旬別気温の推移(名護市)

○参考資料:沖縄気象台HP


 図3で注目すべきは、平均最低気温の推移です。
 
 Nakasone等(1997)によると、ハワイでパパイア(ソロ品種)の両性株を栽培して得られたデータとして、

 平均最低気温20.5℃以下で、ソロ品種には心皮化した花ができ始め、15.5℃まではその割合が増え続ける。


と記しているからです。

 図3の平均最低気温の推移を見ますと、3月上旬~4月下旬までの半旬別平均最低気温は10.7℃~18.2℃の間を推移していますので、Nakasone等の云う心皮化した花(タイプⅢ)が生じるのと同条件だと言えるのではないでしょうか。

 因みに、今年(2006年)の名護市における半旬別平均最低気温で20.5℃以上になるのは概ね5月上旬以降ですので、露地栽培では4月末までに花芽分化を行った株では奇形花(タイプⅢ)が生じたかもしれません。

 穴開き果の様な奇形果を生じさせないためには、果形を確認して奇形果なら早期に摘果することはもちろんですが、それでも奇形果が多い様なら栽培品種の検討を行う、または温度変化による果形の変異が少ない雌株中心の栽培に切り替える等の工夫が必要かもしれません。


○参考文献
 ・「パパイアにおける果実の着生と発達」.1997.Henry Y. Nakasone(著)、出花幸之介・井上裕嗣(訳).沖縄農業;第32号第1号;p.68-88.沖縄農業研究会.
 ・「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」.2003.伊藝安正.(財)沖縄県農業後継者育成基金協会(沖縄県青年農業者等育成センター).
 ・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.

○参考サイト
 ・「沖縄気象台









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2 コメント

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Unknown (Kochan)
2008-10-10 20:31:59
初めまして、Kochanと申します。
パパイヤの花を調べていて巡りつきました。
うちのパパイヤサンライズソロに花が咲いたのですが、すぐに落ちてしまいました。気温による問題かもしれません。大変参考になりました。ありがとうございます。
http://blog.kochan.com/
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返答が遅れて申し訳ありません (ねこがため)
2008-11-15 10:42:46
>Kochanさん
 はじめまして。
 パパイア開花おめでとうございます。
 花の形や付き方から両性株みたいですね。
 ただし、咲いた花は雄花に近い形状みたいですが、そのうち実が着く花が咲きますよ。
 上手く越冬して、春先に結実というのが一番美味しい果実が収穫できるパターンです。
 頑張ってください。
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