熱帯果樹写真館ブログ

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星に願いを - バナナの黒星病 -

2012年07月07日 | バナナ

 七夕なので星に因んだ話としてバナナの黒星病の話を書きます。

 バナナを栽培していると葉や果実に小さな黒い点々(以下、病斑)が観察されることがあります。
 病斑の表面が盛り上がっていてザラザラしていれば、黒星病の可能性が大です。

 黒星病の病原菌は Macrophoma musae (Cooke) Berlese et Voglino というカビの一種です。
 この病原菌について渡邊(1977)が「熱帯の果樹と作物の病害」という書籍に詳しく特徴を記しています(μはμmのことだと思います)。

 Macrophoma musae (Cooke) Berlese et Voglino という不完全菌の寄生による。病斑上の黒色小粒点は本病の柄子殻である。これは球形~扁球形で50~90×70~155μの大きさで1個の孔口が外に開いている。中には柄胞子を蔵し、その大きさは12~23×6~13μである。



 また、渡慶次(1997)は「熱帯果樹の病害」という書籍で上記の情報に「柄胞子は無色、単胞、卵形~広楕円形」という情報も追記しています。

 バナナの葉や果実に黒星病っぽい病斑を見つけたら柄胞子を観察して、黒星病であるという確信を深めましょう。

 その手順は、
 ① 剃刀やナイフの刃等で黒色小粒点を削り、粉状にしてスライドガラスに落とす。
 ② ①に水を一滴加えた後にカバーガラスを掛ける。
 ③ カバーガラスを軽く押さえて余分な水を端から出し、ティッシュペーパー等で吸い取る。
 これで標本観察用のプレパラートが完成します。

 そして、理科室等にある光学顕微鏡で観察します。
 上手にプレパラートを作成できていれば写真2の様に柄子殻から柄胞子が溢れている様子が観察できるはずです。



写真2.バナナ黒星病の柄子殻から溢れた柄胞子(拡大率400倍)



 さらにマニアックに黒星病の観察を続けます。
 今回は、「株式会社 キーエンス KEYENCE Japan」の営業マンS氏の好意で最新式のデジタルマイクロスコープ(顕微鏡)「VHX-2000」を使って、黒星病の病斑を観察することができました。

 まずは小手調べ、拡大率30倍で病斑を観察します(写真3)。



写真3.バナナ黒星病の病斑(拡大率30倍)



 実体顕微鏡で観察した様な画像が楽しめます。
 ここでは、病斑に様々な大きさがあるのがわかります。

 次に写真3の中央当たりを拡大率200倍で観察します(写真4)。



写真4.バナナ黒星病の病斑(拡大率200倍)



 かなり大きくなりました。
 真ん中の病斑は中央が綺麗に盛り上がり柄子殻が形成されています。
 しかし、上のやや小さい病斑では、柄子殻が盛り上がり始めです。
 下の小さめの病斑では、柄子殻は盛り上がる前です。
 病斑が真ん中位の直径(350~360μm程度)になれば、柄子殻が形成されるのでしょう。

 あと、この写真が凄いのは、柄子殻の中央が盛り上がっているにも関わらず、柄子殻の頂上部分も裾野である葉の部分も全てにピントが合っていることです。
 実はこの写真は、様々な位置でピントを合わせ複数のデジタル写真を撮影した後にピントが合っているところだけを集めて合成することで得られたものです。

 さらに、写真4を作成する段階で葉上の病斑がどの様に盛り上がっているのかが解析されデジタル画像が作られています。
 この画像は専用のソフトで3Dで自由自在に角度を動かしながら見ることができます。

 今回は、柄子殻が盛り上がっている様子が一番わかる画像をお見せします(図1)。



図1.バナナ黒星病の病斑の起伏(イメージ画像)



 こうなってくると柄子殻の直径や高さがどうなっているのか気になります。
 そこは最新機器。
 要望に見事に応えてくれます(図2)。



図2.バナナ黒星病の病斑の起伏(幅と高さを測定)



 柄子殻の直径は233.5μm、高さは29.21μmです。
 こんな作業がパッとできます。
 「VHX-2000」凄すぎます。


 さて、黒星病の防除方法も記しておきます。
 黒星病の病原はカビの仲間ですので、加湿条件でよく発病し、雨により感染拡大します。
 また罹病した葉や枯れ葉が感染源になります。

 そのため、本病の予防方法は、
 ① 密植を避け、通風を良くする。
 ② 罹病葉や枯れた葉は速やかに畑の外に除去する。
 ③ 果実は抽出1ヶ月以内に袋掛けを行い雨よけする。
 となります。

 農薬による防除を行う際は、「アミスター10フロアブル」と「ストロビードライフロアブル」の2種類が登録されています(図3)。
 どちらの薬剤も治療効果も備えた薬剤ですので、病斑が見え始めてから散布しても感染拡大の抑制が期待できます。



図3.バナナ黒星病の登録農薬(2012年7月5日調べ)
※フリーの農薬登録情報検索ソフトACFinder を用いて検索しました。



 黒星病は軽度の発症ではバナナ果実の食味等に影響しませんし、株が枯れることもありません。
 しかし、重度の発症になればバナナ果実が固くなったり、葉が枯れて、株も枯れることがあるそうです。

 雨が当たる環境でバナナを栽培していれば、黒星病は普通に見られる病害です。
 特徴をおぼえて、蔓延しない様に気をつけましょう。


○参考資料
 ・「熱帯の果樹と作物の病害」.1977.渡邊龍雄.pp.15.養賢堂.
 ・「熱帯果樹の病害」.1994.pp.29.社団法人 国際農林業協力協会(AICAF).バナナの黒星病の頁は、渡嘉敷唯助 氏が執筆.

○参考サイト
 ・「株式会社 キーエンス KEYENCE Japan
 ・「農薬登録情報検索クライアント ACFinder

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