熱帯果樹写真館ブログ

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マンゴーの花が咲いたら実を着けたい -奥の手は最初に使え-

2013年02月16日 | マンゴー
 2~3月は沖縄県でのマンゴーの開花時期です。
 マンゴーの花穂には数百から1,000個以上の小花が着生しますが、その数は品種、樹齢、栽培方法、環境条件により異なります(宇都宮,2008)。
 また、マンゴーでは開花した花の8~13%で結実しますが、収穫まで至るのは1%以下と言われています(米本,2008)。

 マンゴーの着果率を向上させるために、マンゴー農家は出蕾・開花・着果初期に様々な工夫をしています。
 例えば、花粉の発芽や花粉管の伸張に最も適した温度(23~28℃)にビニールハウス内の温度を調整やミツバチ等の受粉昆虫を放飼、病害虫の防除や樹の栄養管理等がそれに当たります。
 今回はそれら基本管理作業を行っているのを前提に、さらなる着果率向上に繋がりそうな話を紹介したいと思います。
 
 そのために、まずは数多着生する小花を観察してみます。
 マンゴー「アーウィン」の小花を拡大して見ると、5枚の花弁に5つの花台があり、その中央に丸く膨らんだ子房の上にのびる雌しべと子房の周辺に数本の退化した雄しべと1本の長く発達した雄しべ(先端に濃紅色の葯がある)があります(写真1)。



写真1.マンゴー「アーウィン」の両性花



 この小花は1つの小花の中に発達した雄しべと雌しべの両方があるので「両性花」と呼ばれるタイプです。
 マンゴーで果実になるのは「両性花」です。
 
 葯の色が濃紅色なのは開花して間もない新しい小花です。
 これが古い小花になると、葯の色は黒くなり、葯内に受精可能な花粉はなくなっていると思われます(写真2)。



写真2.古い小花は葯の色が黒くなる



 しかし、マンゴーの開花時期に園内を見回っていると、明らかに形状が違う小花を見ることがあります(写真3)。



写真3.花弁が細長い小花(雄花)



 写真3の様に花弁が細長い花は果実を着けない「雄花」です。
 これも拡大して見ましょう(写真4)。



写真4.マンゴー「アーウィン」の雄花



 雄花には果実になる子房と雌しべがありません。
 さらに拡大してみてもやっぱり子房も雌しべもありません(写真5)。



写真5.雄花には子房も雌しべもない



 着果率を高めるためには、両性花の割合(以下、両性花率)を高めた方が良いのかもしれないことは何となく想像できます。

 マンゴーの両性花率は、品種や開花時期、花穂内の 位置により異なることが知られています(劉,1994)。
 例えば、劉銘峰氏が1994年に編集、執筆した「芒果栽培技術」という冊子には、開花時期に係わらず「アーウィン」は「キーツ」や「金煌1号」より両性花率が高いことや「アーウィン」で摘花穂処理(2月に摘花穂し3月下旬に開花させる)を行うと両性花率が低くなること、「キーツ」 は1月下旬より3月下旬の方が両性花率が高くなること、品種を問わず花穂基部<中央部<先端部の順で両性花率が高くなることがデータを伴って記されています。ただし、同著のデータでは「アーウィン」の両性花率については開花時期との関係は判然としません。
 米本(2008)は、開花前から開花期の温度は両性花率に影響しないが、土壌乾燥は両性花を減少させる。隔年結果する品種では、表年に両性花が多くなる。(日本ではマンゴーで利用できる農薬として登録されていないが)植物調節剤(ホルモン剤)を開花前の花穂に散布することで両性花が増減すること等を記しています。
 
 鹿児島県立農業大学校の学生だった岩山ら(2009)も「アーウィン」の両性花率は開花時期との間に一定の傾向が見られなかったことを報告しています。
 さらに岩山ら(2009)は、萌芽してやや伸張を始めた幼蕾(長さ10cm弱)で基部の蕾群を手でかきとる摘蕾処理を行うことで中央部と先端部の両性花率が向上することを報告しています(図1)。



図1.マンゴーの摘蕾処理の有無と両性花率の関係

岩山ら.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面 的視点からのミッション敢行の軌跡~」より抜粋


 さて、ここまで両性花率の話ばかり書いてきましたが、本当に両性花率が高いと着果率も高くなるのでしょうか?
 
 劉(2009)は、「アーウィン」では開花後に正常に結実するか否かは両性花率ではなく気候が適切か否か、だとしています。
 しかし、台湾の様に露地栽培で温度管理や降雨条件にバラつきが大きい環境ではなく、前述のとおり雨よけや温度管理、その他基本管理作業を行っているのを前提とした場合、両性花率は着果率に影響を及ぼさないものなのでしょうか?
 
 これについても岩山ら(2009)は、さきほどの摘蕾区と無処理区で完全受精着果数と着果果房率を比較した結果、いずれも摘蕾区の方が多かった(高かった)という興味深い結果を報告しています(図2)。



図2.摘蕾樹と無処理樹の着果位置、着果率の違い

岩山ら.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面 的視点からのミッション敢行の軌跡~」より抜粋


 また、岩山ら(2009)は、摘蕾を行うことで果実が基部から離れた位置で着果し、果頂部が葉陰に隠れ着色不良になるのを防ぐ効果があることも指摘しています。
 
 この様に、適正な栽培環境化である処理(今回は摘蕾)を行うことで結果(今回は着果率)がどの様に影響を受けるかを数値で測定し比較しているところが科学的で素晴らしいです。
 この様な科学的データを根拠とした技術が増え、それを栽培者が選択ができる様になれば、マンゴーの栽培はもっと面白くなりそうです。
 
 
○参考文献
 ・宇都宮直樹.2008.「マンゴーの生育・開花生理」.農耕と園芸;2008年2月号;pp. 16-20.
 ・米本仁巳.2008.「新特産シリーズ マンゴー」.農文協.
 ・劉銘峰.1994.「芒果栽培技術」.台南区農業改良場新化分場.
 ・岩山勝志・大栄隼平・中尾翔一.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面的視点からのミッション敢行の軌跡~」.学生懸賞論文・作文入賞 作品集(第19回ヤンマー学生懸賞論文・作文);pp.61-74.(PDF:9.7MB




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