小さな庭の小さな驚きに出会った出来事。前にもブログで書いたような気がするが～。
水滴 （まだ手を入れる必要があり！）
毎年七月になると、庭の縁側の下やシークヮーサー、椿、そして
ブーゲンビリアの幹や葉の上にクマゼミの抜け殻が残されていく。
その数は２０～３０個ほどだろうか。ふと成虫になる前の羽化の様
子はどうなっているのか、今まであまり気に留めなかったことが気
になった。抜け殻から飛び立つ前の、あの黄緑のセミの羽の美しさ
を見たいと思い立った。ネット検索すると、夕方から始まると紹介
されている。しばらくシークヮーサーの樹木のところへ夕方には出
向いてあたりを見回す日が続いた。見つけられない。とある日、猫の
ユウスケが家の中に咥えて持ってきたのは、土から這い出たばかり
のクマゼミだった。これから羽化が始まる前の姿だ。ユウスケが噛
み砕いていないのを幸いと、急いで幼虫をシークヮーサーの葉に置
いた。静かに動いた。羽化に最適な場所に移動するようだ。羽化に
はものすごいエネルギーが要すると読んだ覚えがあり、猫に咥えら
れた時点で危険水域かもしれないという思いが頭をかすめた。
一途に待った。背を下にシークヮーサーの葉にしがみついた幼虫
の背中はなかなか割れることはなく、薄い若草色が少し見えた。日
は暮れてきた。薄闇の中で懐中電灯を照らしてみた。たしか白っぽ
い草色が見えたのだ。背中から割れて出てくる瞬間を今か今かと待
ち受けていた。遠い月の光に照らされた幼虫の背中全体は、黒い目
の他は若草色に包まれていた。
しばらくして背中の小さな割れ目から出てきたのは小さな水滴だ
った。一滴の水はそこで固まった。透明な水滴の一部は白く混濁
している。心が震えた。これはクマゼミの最後の命の証なのだ。闇
の中の小さな、小さな水滴。命の源。月や火星で水の痕跡発見と大
騒ぎする所以～。
〈がんばったよね。ごめんね。ユウスケに会わなければ、今頃
きれいに羽化し、愛を叫び飛び回ったはずだよね〉
水滴は闇に浮かぶセミの魂そのものか～。
翌朝、クマゼミの周りには蟻が群がっていた。
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水滴
毎年七月になると、庭の縁側の下やシークヮーサー、椿、そして
ブーゲンビリアの幹や葉の上にクマゼミの抜け殻が残されていく。
その数は30～50個ほどだろうか。ふと成虫になる前の羽化の様子
が気になった。抜け殻から飛び立つ前の、あの黄緑のセミの羽の美
しさを見たいと思い立った。ネット検索すると、夕方から始まると
紹介されている。しばらくシークヮーサーの樹木のところへ夕方に
は出向いてあたりを見回す日が続いた。見つからない。とある日、
猫のユウスケが家の中に咥えて持ってきたのは、土から這い出たば
かりのクマゼミの幼虫だった。これから羽化が始まる前の姿だ。ユ
ウスケが噛み砕いていないのを幸いと、急いで庭に出て幼虫をシー
クヮーサーの葉に置いた。静かに動いた。羽化に最適な場所に移動
するようだ。羽化にはものすごいエネルギーが要すると読んだ事が
ある。猫が咥えた時点で、危険水域でありえた。
しかし、一時間、二時間と一途に待った。シークヮーサーの葉に
しがみついた幼虫の背中はなかなか割れることはなく、日は暮れて
きた。遠い月の光に照らされた背中全体は、黒い両目の他は薄い若
草色に包まれていた。懐中電灯を照らして見ると割れ目から白っぽ
い草色が見えた。
しばらくして背中の小さな割れ目から出てきたのは小さな水滴だ
った。一滴の水はそこに留まった。透明な水滴の一部は白く混濁し
ている。心が震えた。これは幼虫の最後の命の証なのだ。
闇に浮かぶ魂そのもののよう水滴は小さな光を放っていた。なぜ
か人の世の末期の水を取る儀式が頭を過った。魂呼びの風習の名残
とも云われるが、この地球、宇宙の初源への祈りに思える。
翌朝、幼虫の周りには蟻が群がり、いつの間にか消えていた。
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