満月の翌日、ぼくは人気のない海岸で月を眺めた。ちょっぴり削られた円形の月が暗い海を照らす。海風が少し寒くて、右手で左手の二の腕をさするとおだやかな波のような音がした。向こう側とこちら側にそれぞれやわらかな波がたつ。
波があるから船は進む。波は呼吸であり、血液の循環を生み出し、喜怒哀楽そのものでもある。月はそんな二つの波を照らす。しかし「私」の波は自らの肉体と精神で制御できるにもかかわらず、「海」の波の力を私たちはどのようにも手にとることはできない。そして「私」の波もまた自らで操作する力を失ったとき、それは「私」の喪失。
月がそんな「私」の波を照らしながら、微笑む。そして語りかける。
「おまえの波は今日の海のようにおだやかに、やさしく音をかなでているのかい?」
「君に言われるまでもなく、順調さ」とぼくはうそぶき、自らを奮い立たせる。もちろん月がすべてをお見通しなのはとっくにわかっているのだけれど……。(9月8日、デンパサールで記す)
波があるから船は進む。波は呼吸であり、血液の循環を生み出し、喜怒哀楽そのものでもある。月はそんな二つの波を照らす。しかし「私」の波は自らの肉体と精神で制御できるにもかかわらず、「海」の波の力を私たちはどのようにも手にとることはできない。そして「私」の波もまた自らで操作する力を失ったとき、それは「私」の喪失。
月がそんな「私」の波を照らしながら、微笑む。そして語りかける。
「おまえの波は今日の海のようにおだやかに、やさしく音をかなでているのかい?」
「君に言われるまでもなく、順調さ」とぼくはうそぶき、自らを奮い立たせる。もちろん月がすべてをお見通しなのはとっくにわかっているのだけれど……。(9月8日、デンパサールで記す)