8月末に調査地のワヤン一座の公演に同行した。なんと公演時間は3時間45分。今のバリでこれだけの時間のワヤン上演をするダランはいるだろうか?私はスクリーンの前を陣取って、最後まで飽きることなく楽しくワヤンを観て、記録した。
ある国の王が、パンダワの持つブラフマストラというとてつもなく強力な兵器を自らのものにしたいとたくらんでいた。ブラフマは火の神、そしてストラは武器を意味し、この武器はこの世を焼き尽くしてしまうとてつもない力を持つ武器なのである。この王は家来をパンダワ五兄弟の三男アルジュナの息子アビマニュに化けさせて、まんまとパンダワ一族からこの武器を奪ってしまう。「化けて何かを奪う」というのは、ラマヤナ物語やスタソマ物語にも出てくるパターンである。ラマヤナでは、ムリチャが金の鹿、ラワナが老僧侶に化けて、シータ姫をラーマ王子からさらってしまう。
さてワヤンの演目の最後は、ブラフマストラをもつ王とビマの一騎打ちになる。ビマの従者たちは天空の神々に両手を合わせて助けを乞い、敵の王がブラフマストラを使わないことを一心に願うのだが、写真のように最後には我を見失った王はブラフマストラをパンダワ一族に向かって放ってしまうのである!このとき、私のまわりの数人の観客たちから――といって観客は10人ほどしかいなかったのだが――「おーっ」どよめきが起きた。もう観客は小さなスクリーンに集中し、まわりで狂ったように犬が吠えていることなの全く耳に届かない。そのとき、突然空から現れたのか風神バユの子、神猿ハノマンであり、その矢に飛びつくのだ。再び観客はどよめくが、今度は歓声に近い。ハノマンはこの矢を空中で捕獲し、そしてパンダワ一族に返すのである。一方、いつまでたってもブラフマストラが命中しないことにあたふたする王と家来はまさに滑稽だ。空を見上げ、遠くを眺め、同じ場所はいったりきたりする……。
演目の最後に、ダランは従者の言葉を借りてはっきり自らのメッセージを発した。核爆弾はNOだと。たったこの一言であるが、この演目から伝わるメッセージはとてつもなく大きい。しかしダランが言うまでもなく、マハバラタという古代叙事詩が、ブラフマストラという武器の存在を通して、核兵器の使用に対して現代世界に強く警告しているのだ。マハバラタはある意味、予言の書でもある。(9月2日に記す)
ある国の王が、パンダワの持つブラフマストラというとてつもなく強力な兵器を自らのものにしたいとたくらんでいた。ブラフマは火の神、そしてストラは武器を意味し、この武器はこの世を焼き尽くしてしまうとてつもない力を持つ武器なのである。この王は家来をパンダワ五兄弟の三男アルジュナの息子アビマニュに化けさせて、まんまとパンダワ一族からこの武器を奪ってしまう。「化けて何かを奪う」というのは、ラマヤナ物語やスタソマ物語にも出てくるパターンである。ラマヤナでは、ムリチャが金の鹿、ラワナが老僧侶に化けて、シータ姫をラーマ王子からさらってしまう。
さてワヤンの演目の最後は、ブラフマストラをもつ王とビマの一騎打ちになる。ビマの従者たちは天空の神々に両手を合わせて助けを乞い、敵の王がブラフマストラを使わないことを一心に願うのだが、写真のように最後には我を見失った王はブラフマストラをパンダワ一族に向かって放ってしまうのである!このとき、私のまわりの数人の観客たちから――といって観客は10人ほどしかいなかったのだが――「おーっ」どよめきが起きた。もう観客は小さなスクリーンに集中し、まわりで狂ったように犬が吠えていることなの全く耳に届かない。そのとき、突然空から現れたのか風神バユの子、神猿ハノマンであり、その矢に飛びつくのだ。再び観客はどよめくが、今度は歓声に近い。ハノマンはこの矢を空中で捕獲し、そしてパンダワ一族に返すのである。一方、いつまでたってもブラフマストラが命中しないことにあたふたする王と家来はまさに滑稽だ。空を見上げ、遠くを眺め、同じ場所はいったりきたりする……。
演目の最後に、ダランは従者の言葉を借りてはっきり自らのメッセージを発した。核爆弾はNOだと。たったこの一言であるが、この演目から伝わるメッセージはとてつもなく大きい。しかしダランが言うまでもなく、マハバラタという古代叙事詩が、ブラフマストラという武器の存在を通して、核兵器の使用に対して現代世界に強く警告しているのだ。マハバラタはある意味、予言の書でもある。(9月2日に記す)