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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

パラダイス荘のお話

2010年09月28日 | バリ
 ぼくは、バリで調査をしている間、「パラダイス荘」と命名した4部屋の長屋風アパート(下宿)に滞在していました。4部屋は、一番南から、チェコ人、日本人(私)、アメリカ人、日本人とすべて外国人が住むアパートで(ちょっと新大久保のアパートのようです)、4人に加えて、犬が一匹います。このアパートに住んでいるといっても、誰が飼っている犬なのかはまったく不明で、時間によって、それぞれの部屋のベランダをねぐらにしています。4人+1匹、これがパラダイス荘の住人(犬)なわけです。
 約1ヶ月ここに住んでいる間、そりゃもう、相当なドラマがありました。腹を抱えて笑える話あり、考えさせられる話あり、バリとは何なのか、留学とはなんぞや、という重いテーマの話まで。1冊の本、1本の映画が作れるくらい面白い(面白そうな)話ばかりです。
 チェコ人は朝でも夜でも、部屋とベランダでギターを弾きながらチェコ語のフォークソング調の歌を絶叫し、音のはずれたヴァイオリンを演奏します。見た目は1960年代のジョン・バエズみたいですが、それにしてはギターも歌もバエズにはほど遠い……。
 アメリカ人のバリ人の彼氏は近くから自転車に乗ってやってきます。だからぼくは、彼が自転車に乗って夕方あらわれ、明け方帰っていくとき(帰っていく時間的タイミングが実に考え抜かれ、絶妙です。)、ベランダにいたり、部屋で起きていたりすると、高田渡の《自転車に乗って》を必ず口ずさみます。
 犬は外国人にしかなつきません。バリ人には狂ったようにほえ、外国人には尻尾を振ってついてくるのです。スーパーに買い物に行くのもついてこられて、相当に閉口しました。なんだか外国人を見分けるハチ公みたいです。
 犬には洒落た名前がついていましたが、忘れました。たった一度も名前で呼んだことはありませんでした。私が部屋に戻ってくるとおなかを出して媚を売ろうと必死な犬。だからぼくは完全に無視します。媚を売るものは、人も動物も嫌いです。でも、犬にとってはどうもここがパラダイスのようなのです。だから、彼はここから出ることができないし、出てもすぐ戻ってきてしまいます。パラダイスをいったん知ってしまうと、時間を発つのが忘れてしまうのです。知っているでしょう?竜宮城という名のパラダイスでそんな経験をした人を……。ただ犬にとってのパラダイス=バリではありません。それはバリ人とは異なる外国人の姿と行動を存分に楽しめるという点で犬を決して飽きさせることのないパラダイスなんです。

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