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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

夜の寺町通りで――祇園祭にて(5)

2007年07月24日 | 
 「いやあ、このあたりには飲み屋はないですね」なんて言いながら、八坂神社から四条通りを西に歩き、新京極、寺町通りをホセ夫妻と歩いた。すでに歩きながらコンビニで買ったビールを飲んでいたことから、アルコール禁断症状に陥ることなく、のんびりと話をしながら店の閉まった寺町通りを北に向かう。すると、なんだか不思議な場所に出た。木製の長いすがたくさん並べられ、飲み物が用意されている。とはいえ準備している人はいるが、誰かが椅子に座っているわけではない。つまり何かを待っているのである。
 「何でしょうね?」と話しをしながらそこを通過しようとすると、なんと前方から馬に乗った人々の行列が来るではないか。こんな夜にいったい何が起きたのだ?とにかく驚きながらもその行列を迎える。馬に乗って鎧を着た数人の人々を先頭に、神主の格好をして歩く多くの人々、そしてその後ろには神の使いである「お稚児さん」が馬に乗ってやって来たのである。今朝、長刀鉾の上で小さく見えたお稚児さん。まるで江戸時代にタイムトリップしてきたような行列が、ほとんど人通りのないシャッターのしまった寺町通り商店街を行列しているのだ。馬の蹄の音と、神主が歩きながらたたく太鼓の音が商店街に不思議なリズムを刻む。
 私たちが遭遇した場所は、この行列の休憩場所だったらしい。人々は思い思いに椅子に座り、お茶をもらって突然、普通の談笑を始めたことから、あっという間に現代に引き戻される。しかしその一角に歴史と時間が止まった空間が存在する。「お稚児さん」と彼を乗せた馬がたたずむ空間。馬に乗った人々が下りて休憩する中、「お稚児さん」だけはほとんど動かず、馬の上に座っているだけだ。彼は神の使いでいる間、地面には降りることも、足をつくことも許されない。
 この光景に出会う前、ホセ夫妻と川端康成の『古都』の話をしていた。小説の中の双子の姉妹、千重子と苗子は、祇園祭という特別な空間の中で、神の力によって20年の歳月を経て再会したわけで、祇園祭の空間には、何かを引き合わせる不思議な力があるのではないかといった他愛もない話である。しかしそんな話の直後に、この「お稚児さん」に遭遇してしまうと、なんだか突然のこの出会いが、ただの偶然とは思えなくなってくる。沖縄から祇園祭を見るためにやってきた私への「不思議な力」からのプレゼントだったのだろうか。もしそうであれば、寺町通りまで30分近くも気に入った飲み屋が見つからなかったことも、祇園祭にやってきた神の仕業か?


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