「人参シリシリー器を知ってますか?」
私が那覇の大学に赴任したのは1999年のことでしたが、当時、手術をしたばかりで体調が悪く、赴任後1か月余りで那覇市立病院に入院したのです。その時に味わった数多くの「ローカルの衝撃」は今も忘れられず、たった数日あまりの入院でしたが、はっきりいってそれだけで本が書けそうです。その一つが人参シリシリーでした。
だいぶ体調が良くなって、出てきた食事の一つにそのメニューがありました。しかし、「ニンジンシリシリー」なんて当時、聞いたこともないし、まだ1999年当時は本土でも沖縄料理大ブーム到来の直前で、さすがに沖縄そばやゴーヤチャンプルーは知っていても「ニンジンシリシリー」なんて聞いたこともなかったわけです。
まあ、人参を薄く切って、炒めるわけですね。ツナ缶の中身やら、ポークや卵と炒める人もいますが、要するに「人参の炒め物」です。しかし重要なのは、包丁で切るんじゃなくて、それ専用の「刃物」があるわけで、それが「人参シリシリー器」でした。当時はそんなものがあることに驚いたけれど、やっぱり時とともにそれも慣習と化していきました。
先週、久しぶりに「人参シリシリー器」を那覇の店頭で目にしました。話によると最近は台湾製のものが多いようですが、それでも、こうして店屋で売られているのを見ると、なんだか安心してしまいます。「やっぱり、ここは沖縄なんだな」って。もちろん、「ずっとあの時のままでいて欲しい」とは思いません。私が住む世界が変わっていくように沖縄もまた変わっていくのだから。でもね、人間は勝手な動物なんです。「昔」を見つけると、なんとなくニッコリ笑って、ホッとしてしまうのですから。あなただって、きっと私と同じはずです。