
(wikipedia "Rosetta stone" より引用。)
「礼に始まり礼に終わる」という教えは武道の基本である。「礼」がなければ、武術はただの喧嘩になってしまう恐れがある。そこに歯止めをかけるのが冒頭の教えだ。
「礼」はもともと儒教の言葉で、社会秩序を安寧にたもつための徳目だった。だが、儒教が求めた社会秩序とはすなわち堅固な身分制度のことだった。「礼」によって上下関係をしっかりさせて、混乱を起こさないようにしようという発想だった。ときあたかも春秋戦国時代である。
このシリーズで述べてきたように、上下関係という身分制度は農耕文明がもたらした負の遺産である。もう発生してしまった農耕文明の害毒をこれ以上発展させないようにしよう、というのが儒家のスタンスだったと言える。儒家はリアリストだった。
「礼」という文字が発明されたのは、これも農耕文明による。文字によって今の記録が遠方や未来に渡せるようになったとき、当時の人は「大変なことになった」と感じたという説がある。現代人が原爆を発明したときに匹敵するようなインパクトが、文字の発明にはあったようだ。
現在、世界には約3,000の言語があるが、文字をもっている言語はわずかに17言語だという。これによっても古代における文字の発明が、いかに衝撃的だったかが分かる。事実、文字の発明は複雑な法律や申し合わせを産み、人類の生活はルールでがんじがらめになってしまった。もとはもっと大らかだったのだ。