もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記・28 ・・・おねえちゃんの馬の絵 ②

2017-09-12 13:57:03 | E市での記憶
前の記事を書いた後
なんだか釈然としなくて
ずっとぼんやり考えていた。

なんでこんな、そう面白くもないこと
わざわざ書こうと思ったのかなあ・・・って。

「私のおねえちゃんは
子どもの頃馬の絵が上手でした」

それだけのこと。

だからタイトルだけ立てて
何年も下書きファイルに
放ってあったのに・・・


そんなことを思ってたら
おねえちゃんの「馬」の話は
もう一つあったのを思い出した。


「午年」の年賀状より後のこと
じゃないかと思う。

その頃、うちには大学生のおねえさんが
「下宿」してた。

「下宿」っていうのは
一緒に晩ご飯食べるし
夜一緒にTV見たりもする。

その人はおかあちゃんの
女学校時代の「親友」の妹さんで
アタシたちとも普通に話をしてくれる
優しい感じの人だった。
「理学部」で「生物」の勉強してる
学生さんだって言われた。


夏休みだった気がするけど
違ってるかもしれない。


ある朝、その人がおねえちゃんに

「馬に乗ってみたくない?」

馬術部の友達に聞いたら
いいよって言ってたから・・・って。

そんなに馬が好きなら・・・って
その人は、おねえちゃんが喜ぶと思って
言ってくれてるのがわかった。


おねえちゃんはちょっと
困ったような顔をした。

正直、アタシも困ってた。

アタシは知らない人と会うのもイヤだし
馬なんて大きな動物に
近づくのもコワイし。

でも、おねえちゃんは
もっとフクザツそうな困り方で

「乗りたいわけじゃないんだけど」

みたいなことをボソボソ言った。

結局、「せっかく言ってくれてるんだから
行くだけ行ってみなさいよ」って
おかあちゃんに言われたりして
そのおねえさんと3人で
大学の「馬場」に行ったんだと思う。


しばらく待っていたら、おねえさんのお友だちが
馬に乗ってきてヒラリと降りると

「さあ、こっち来て」

下宿してるおねえさんも

「さあ・・・乗せてくれるって」


おねえちゃんが本当に困ってるのが
アタシはわかった。

アタシはもちろんイヤだけど
おねえちゃんも乗りたくないんだ。

家にいたときからそうだったのに
どうしてみんなわからないんだろ・・・
と思ってるうちに、おねえちゃんは

「あたしは見てるだけでいい」

おねえさんたちは
せっかく来たのにそんなこと言わないでとか
ちゃんと手綱持ってるから怖くないよとか
おねえちゃんを説得しようとしたけど
おねえちゃんはジリジリ後ろに下がって
小さな声で

「見てる方がいいの・・・」


その後は、お友だちが乗るのを
おねえちゃんは黙って見てた。


風がさやさや吹いてきて・・・

馬が走っているときは
おねえちゃんも
気持ち良さそうだった。

でも「馬術部」の練習だから
馬は走るより歩く方が多くて・・・

退屈になったアタシたちは
早めに帰ってきたんだったと思う。


家で「馬場」での話が出たときも
乗ろうとしなかったおねえちゃんが
責められるようなことはなかったけれど
下宿してるおねえさんは
やっぱり不思議そうな顔をしてた。

食卓でも、おとうちゃんが
「軍隊で乗った」馬の話とか
とにかく「生き物」としての馬の話ばかりで
アタシはアタシで妙な気分だった。


アタシの眼には、おねえちゃんの描く「馬」は
「生き物(哺乳類)」としての馬には
なあんとなく見えてなかった。

だから、ホンモノの馬に乗りたいとか
思うわけがないって、最初から
わかってたんだと思う。

おねえちゃんが困ってたのもわかったし
なぜ困ってるのかも(なあんとなくでも)
わかる気がした。

なのに、どうして
おねえさんもおかあちゃんも
わからないんだろう・・・って。


お姉ちゃんの「馬」は
普通の馬じゃあないんだよ。

手綱つけたり、鞍乗っけて
人が上に乗ったりなんかしない!


あの馬たちは、おねえちゃんの
アタマの中にしかいない
生き物なんだから。

だからあんなにきれいで
描いてるときのおねえちゃんは
あんなにシアワセそうなんだって。

小学生のアタシにわかるのに
たぶんおとうちゃんも
わかってない・・・

なんでなの???


そんな気持ちが
当時の私はしたんだと思う。





コメント
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