ところで、どうして李登輝はこうした「変節」をしたのか?
◆国民党を温存させた李登輝
李登輝が陳水扁や民進党をこれほど憎むのは、民進党政権が本気になって国民党の党国利権構造にメスを入れ始めたからであろう。
李登輝には、国民党の利権構造を「本土化」するとき、外省人から本省人政治屋の手に掌握し、自らが利権構造のトップに立とうという腹があったのだろう。だからこそ黒金を発達させ、国民党を温存延命させたのである。金に目がくらんだということだ。
そんな意地汚い心がなければ、1996年に54%を獲得して初代民選総統になった時点で、ゴルバチョフよろしく、とっとと国民党の解体に手をつけていたはずである。
李登輝はそれをしなかった。国民党を本土化させることで、国民党が持っている利権構造をそのまま独り占めにしようとした。
だから、陳水扁政権が2002年に農会信用部に手をつけようとしたときに、李登輝と台連は猛反発したのだ。
ただ、その後陳水扁政権は萎縮して、国民党資産問題にはあまり手をつけようとしなくなった。すると李登輝や台連も民進党に協力した。
ところが、陳水扁二期目になって、やはり国民党資産問題に手をつけるべきだという声が盛り上がってくるや、李登輝は民進党と敵対するのである。
これは、明確な証拠はないが、時期と因果関係を照らしあわせると、推測としてはほぼ間違いないだろう。
◆中国による篭絡工作
朝日新聞の報道で、李登輝が昨年下半期以降、中国から訪問要請を受けていたことが明らかになっている。
これを私自身が独自に調べたところ、どうも昨年秋ごろから、中国の公的機関から学術団体などを通じて李登輝のところに接触が増えたようである。しかも中国はここで金品を使ったかは今のところ明らかではないが、さまざまな脅しを使ったのは確かなようだ。李登輝はたたけばたくさんホコリが出てくるからだ。
中国は李登輝がかつて共産党系組織の友人を売ったことはもちろん、総統任期時代のさまざまな事件の真相をばらすと脅されたらしい。友人を売ったことなど李登輝には何の良心の呵責もないだろうが、不正をばらされると困る。もちろん、ほかにもさまざまな手口を使ったのだろうが、これで李登輝が中国に篭絡された可能性は大きい。
というか、今回の発言内容やメディアの選択など、そうとしか考えられない。
実際、中国側にもそうする動機はある。李登輝ほどの大物を篭絡すれば、それにつながる独立派に動揺を与えることができ、また李登輝がひとつの核となる政界再編による中国国民党の分裂もあるいは阻止できるかもしれない。
しかも李登輝の脛にはたくさんの傷があるし、李登輝につながる台連や国民党本土派は国民党的体質を引きずり、トップダウンだから、これで国民党本土派をかなり撹乱させることができる。
これは民進党にはあまり通じない手だろう。というのも、民進党には「核」がないし、李登輝のようなカリスマもいないから、たとえ陳水扁を篭絡しても、民進党への影響も意味もないからだ。
しかも、ここに来て、宋楚瑜、馬英九など、中国が期待をかけてきた外省人の大物政治家が、次々と力を失墜させてきただけに、中国としては国民党本土派の台頭、中国派政治勢力の泡沫化を防ぎたかったはずだ。
もちろん、台湾では、有名人が中国に取り込まれたら、その時点で人気が失墜するというジンクスがあるし、中国もその点では許文龍のときに学習済みのはずなので、李登輝取り込みで大きく撹乱できるとまでは思っていないかもしれない。
しかし、やはり李登輝を中国側に引き寄せれば、牽制や速度緩和にはつながるだろう。
◆李登輝が中国行きを果たしたら、台湾では完全に失墜
今回の発言で、もともと李登輝に疑念を抱いてきた民進党の多くや、まともな独立派は李登輝離れを急速に起こしている。これで台連は完全に泡沫化するだろう。
だが、李登輝信者の中にはまだまだ「李登輝がそんなことをいうはずがない、飛ばした」と信じ込んでいる阿呆がいる。しかし、その阿呆もいずれは現実に気づくであろう。
そして、李登輝が本当に中国に行ったらどうなるか。
李登輝には、どうせ先が長くない人生、最後の花を飾って、中国の指導者を握手して世界的に注目されたい、という目論見があるのかもしれない。そして、アホな日本のマスコミは、「両岸和解」として大書特筆するだろう。
しかし、その時点で、李登輝は「台湾の李登輝」ではなくなり、台湾の庶民や民衆の中での彼の人気は完全に失墜するのだ。彼は中国に行ったが最後、台湾には戻ってこれなくなるだろう。
そのときは「中国人李登輝が、中国に投降した」という位置づけになるだけで、台湾にとって何のインパクトもなくなる。
今の台湾は李登輝に講釈されなくても、立派に台湾主体性と本土意識がはぐくまれ、成長しつづけている。ある意味で、漢民族意識が強い李登輝など日本語世代は、現在のように急速に「中国」離れが進む台湾全体の民意の中では、すでに時代遅れの古臭い意味での「中華台湾」主義でしかないのだ。
◆裏切りの人生
最初に指摘したように、李登輝の一生は背信・裏切りと変節の連続だった。戦後台湾共産党系の新民主同盟につながる読書会に参加して逮捕され、そのときに仲間を売ることで命を免れた経験がある。その後、60年代にはたびたび日米を訪れ独立派と接触したが、70年代には蒋経国の要請で国民党に入党、政府にも参加、その後は国民党内でどんどん出世、台北市長なども務めて、ついに蒋経国時代の副総統にもなった。この間、党外民主運動に対して特務出身の蒋経国が惨い弾圧を加えたが、李登輝はひたすら蒋経国に忠誠を誓った。総統になってからは最初は確かに民主化に尽力した。しかしまともな本土派若手を育てることはせずに、宋楚瑜、連戦など大中国派や本土派でも黒金系統の人間ばかり登用した。手塩にかけた連戦が2000年総統選挙で敗れ、自分が院政を敷く魂胆がつぶれるや、国民党を猛攻撃して、急進独立派と接近。「正名運動」の音頭をとるなど「独立派のゴッドファーザー」とも呼ばれ、むしろ陳水扁の弱腰を独立派の立場から批判するほどだった。2004年の総統選挙では陳水扁の応援に立った。
ところが、2006年になって陳水扁がメディアがでっち上げた「腐敗疑惑」で落ち目になるや、陳水扁について「ダーティだ」として狂ったように攻撃。このとき、陳水扁に対する不当なバッシングに反撃する独立派の多くと反りが合わなくなり、06年9月ごろから、独立派の集会に顔を出すこともなくなった。
そして、今回の発言である。
常に仲間を裏切り、政界を遊泳し、自分が世の中を動かすという自己陶酔に酔いしれてきた李登輝としては、当たり前の変節と裏切りでしかないのだ。
ともかく、今回の事件は、李登輝という仮面をかぶったカリスマの失墜の始まりである。
しかし、これは長期的に見れば台湾にとって悪いことではないだろう。
とにかく、これで、蒋経国につながる古い国民党ファッショにつながる政治的な大物はほとんど影響力がなくなるからだ。宋楚瑜、馬英九の失墜と同時に、李登輝も失墜。これは悪いことではない。
◆国民党を温存させた李登輝
李登輝が陳水扁や民進党をこれほど憎むのは、民進党政権が本気になって国民党の党国利権構造にメスを入れ始めたからであろう。
李登輝には、国民党の利権構造を「本土化」するとき、外省人から本省人政治屋の手に掌握し、自らが利権構造のトップに立とうという腹があったのだろう。だからこそ黒金を発達させ、国民党を温存延命させたのである。金に目がくらんだということだ。
そんな意地汚い心がなければ、1996年に54%を獲得して初代民選総統になった時点で、ゴルバチョフよろしく、とっとと国民党の解体に手をつけていたはずである。
李登輝はそれをしなかった。国民党を本土化させることで、国民党が持っている利権構造をそのまま独り占めにしようとした。
だから、陳水扁政権が2002年に農会信用部に手をつけようとしたときに、李登輝と台連は猛反発したのだ。
ただ、その後陳水扁政権は萎縮して、国民党資産問題にはあまり手をつけようとしなくなった。すると李登輝や台連も民進党に協力した。
ところが、陳水扁二期目になって、やはり国民党資産問題に手をつけるべきだという声が盛り上がってくるや、李登輝は民進党と敵対するのである。
これは、明確な証拠はないが、時期と因果関係を照らしあわせると、推測としてはほぼ間違いないだろう。
◆中国による篭絡工作
朝日新聞の報道で、李登輝が昨年下半期以降、中国から訪問要請を受けていたことが明らかになっている。
これを私自身が独自に調べたところ、どうも昨年秋ごろから、中国の公的機関から学術団体などを通じて李登輝のところに接触が増えたようである。しかも中国はここで金品を使ったかは今のところ明らかではないが、さまざまな脅しを使ったのは確かなようだ。李登輝はたたけばたくさんホコリが出てくるからだ。
中国は李登輝がかつて共産党系組織の友人を売ったことはもちろん、総統任期時代のさまざまな事件の真相をばらすと脅されたらしい。友人を売ったことなど李登輝には何の良心の呵責もないだろうが、不正をばらされると困る。もちろん、ほかにもさまざまな手口を使ったのだろうが、これで李登輝が中国に篭絡された可能性は大きい。
というか、今回の発言内容やメディアの選択など、そうとしか考えられない。
実際、中国側にもそうする動機はある。李登輝ほどの大物を篭絡すれば、それにつながる独立派に動揺を与えることができ、また李登輝がひとつの核となる政界再編による中国国民党の分裂もあるいは阻止できるかもしれない。
しかも李登輝の脛にはたくさんの傷があるし、李登輝につながる台連や国民党本土派は国民党的体質を引きずり、トップダウンだから、これで国民党本土派をかなり撹乱させることができる。
これは民進党にはあまり通じない手だろう。というのも、民進党には「核」がないし、李登輝のようなカリスマもいないから、たとえ陳水扁を篭絡しても、民進党への影響も意味もないからだ。
しかも、ここに来て、宋楚瑜、馬英九など、中国が期待をかけてきた外省人の大物政治家が、次々と力を失墜させてきただけに、中国としては国民党本土派の台頭、中国派政治勢力の泡沫化を防ぎたかったはずだ。
もちろん、台湾では、有名人が中国に取り込まれたら、その時点で人気が失墜するというジンクスがあるし、中国もその点では許文龍のときに学習済みのはずなので、李登輝取り込みで大きく撹乱できるとまでは思っていないかもしれない。
しかし、やはり李登輝を中国側に引き寄せれば、牽制や速度緩和にはつながるだろう。
◆李登輝が中国行きを果たしたら、台湾では完全に失墜
今回の発言で、もともと李登輝に疑念を抱いてきた民進党の多くや、まともな独立派は李登輝離れを急速に起こしている。これで台連は完全に泡沫化するだろう。
だが、李登輝信者の中にはまだまだ「李登輝がそんなことをいうはずがない、飛ばした」と信じ込んでいる阿呆がいる。しかし、その阿呆もいずれは現実に気づくであろう。
そして、李登輝が本当に中国に行ったらどうなるか。
李登輝には、どうせ先が長くない人生、最後の花を飾って、中国の指導者を握手して世界的に注目されたい、という目論見があるのかもしれない。そして、アホな日本のマスコミは、「両岸和解」として大書特筆するだろう。
しかし、その時点で、李登輝は「台湾の李登輝」ではなくなり、台湾の庶民や民衆の中での彼の人気は完全に失墜するのだ。彼は中国に行ったが最後、台湾には戻ってこれなくなるだろう。
そのときは「中国人李登輝が、中国に投降した」という位置づけになるだけで、台湾にとって何のインパクトもなくなる。
今の台湾は李登輝に講釈されなくても、立派に台湾主体性と本土意識がはぐくまれ、成長しつづけている。ある意味で、漢民族意識が強い李登輝など日本語世代は、現在のように急速に「中国」離れが進む台湾全体の民意の中では、すでに時代遅れの古臭い意味での「中華台湾」主義でしかないのだ。
◆裏切りの人生
最初に指摘したように、李登輝の一生は背信・裏切りと変節の連続だった。戦後台湾共産党系の新民主同盟につながる読書会に参加して逮捕され、そのときに仲間を売ることで命を免れた経験がある。その後、60年代にはたびたび日米を訪れ独立派と接触したが、70年代には蒋経国の要請で国民党に入党、政府にも参加、その後は国民党内でどんどん出世、台北市長なども務めて、ついに蒋経国時代の副総統にもなった。この間、党外民主運動に対して特務出身の蒋経国が惨い弾圧を加えたが、李登輝はひたすら蒋経国に忠誠を誓った。総統になってからは最初は確かに民主化に尽力した。しかしまともな本土派若手を育てることはせずに、宋楚瑜、連戦など大中国派や本土派でも黒金系統の人間ばかり登用した。手塩にかけた連戦が2000年総統選挙で敗れ、自分が院政を敷く魂胆がつぶれるや、国民党を猛攻撃して、急進独立派と接近。「正名運動」の音頭をとるなど「独立派のゴッドファーザー」とも呼ばれ、むしろ陳水扁の弱腰を独立派の立場から批判するほどだった。2004年の総統選挙では陳水扁の応援に立った。
ところが、2006年になって陳水扁がメディアがでっち上げた「腐敗疑惑」で落ち目になるや、陳水扁について「ダーティだ」として狂ったように攻撃。このとき、陳水扁に対する不当なバッシングに反撃する独立派の多くと反りが合わなくなり、06年9月ごろから、独立派の集会に顔を出すこともなくなった。
そして、今回の発言である。
常に仲間を裏切り、政界を遊泳し、自分が世の中を動かすという自己陶酔に酔いしれてきた李登輝としては、当たり前の変節と裏切りでしかないのだ。
ともかく、今回の事件は、李登輝という仮面をかぶったカリスマの失墜の始まりである。
しかし、これは長期的に見れば台湾にとって悪いことではないだろう。
とにかく、これで、蒋経国につながる古い国民党ファッショにつながる政治的な大物はほとんど影響力がなくなるからだ。宋楚瑜、馬英九の失墜と同時に、李登輝も失墜。これは悪いことではない。