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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬 2

2009年08月07日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
     2
 昨日午後二時過ぎに岩見沢駅で夕張市内に住む小学
五年生の鞄が間違って持ち去られる遺失物届に関して
同夜になって北海道警察は、稚内市豊富町で3日前に
起きた鹿内良夫さん殺害事件との関連できわめて重大
な関心を寄せていると捜査関係者が話していることが
わかった。JR岩見沢駅から不審な点があるとして警
察へ提出された鞄は、届を出した小学生と同じ型の鞄
で岩見沢駅のホームから無賃のまま逃げた男の鞄と入
れ替わったと小学生は証言している。
またその中身を調べた駅員の話では血を拭ったタオル
と血のついた包丁が入っていた。
 警察関係者によると1月10日南豊富町の温泉旅館
従業員鹿内良夫55才さんが自宅で刺殺された事件で
行方がわからなくなっている長男のものと思われる電
子音楽機器(通称ipod)が岩見沢駅で小学生が届
け出た鞄の中に入っていた。
残されたタオル等の血痕について今日にも鹿内さんの
ものと照合されれば、長男を全国に公開捜索するもの
と見られている。
 なお、鞄の届を出した夕張市の小学生の持ち去られ
た同種(マディソン・スクェアのロゴマーク入り)の
鞄には、飼い犬(茶色の雑種の仔犬)が入っており、
是非男と鞄を見かけた方は、情報を提供してくれるこ
とを夕張の小学生は切望している。

 道道を軽トラックで走って坊主山が見える頃カーラ
ジオで昨日の入れ替わった鞄についてのニュースが短
く流れた。
オレは、助手席で貰ったおにぎりを齧りながら、初老
の運転手に気づかれないようにトラックの荷台の方へ
リアウィンドーから目をやった。そこには、大きな重
油タンクと雑貨のダンボールに挟まれて灰色のマディ
ソンバッグが見えた。
「兄ちゃん。この先の川端橋まででいいかな。あそこ
で左に曲がって夕張へ帰らなくちゃならん。」
紺のジャンパーの下に着た制服の胸にアルファベット
でKUMAGAYA OILと書かれた無精ひげに白
髪の混じった運転手は、ラジオをFMの音楽番組に切
り替えて聞いた。
「ああ。すいません。いいっす。」
「千歳に行くんだべ。」
「千歳?」
オレは、なんで千歳なんだと虚をつかれた。
「飛行機で東京さ行くんだべ。」
「どうして?・・・・・」
「夕張川沿いの国道か道道でヒッチハイクする若い奴は、
たいてい千歳空港の近くまで乗せてくれって言うさ。
それも本州からの旅行者じゃなく、荷物の少ない北海
道出身の若いのは、顔つきが違うべな。」
「どう違うんですか・・・」
「そりゃ、逃げ出す顔してる。」
「逃げ出す・・」
ドキッとした顔を見られないように窓外をオレは見た。
「いや。あんたが家出しとるとか、言ってるんじゃないよ。
北海道を逃げ出して都会へ行こうみたいな若い奴を何度も
乗せてきたんでな。今のあんたみたい、みんな不安と期待
の入り混じった目をしてるよ。」
「はあ。そうっすか。そんな目してるっすか。オレ。」
「いやいや。気にすんな。当てずっぽさ。」
「オレ、地球岬へ行くんです。室蘭の製鉄所で生まれたん
で。里帰りです。」
「ほお。室蘭か。そりゃそりゃ・・・」
オレは、なんで里帰りなんて言葉が出たのか自分でもわか
らなかった。家なんて室蘭にはないし、ましてや親戚も知
り合いもいない。
今の今まで家を飛び出して以来、どこへ行くなんて思った
こともなく、ただ逃げただけだった。それこそ千歳空港か
ら東京へ行ってもよかったし、札幌へ出てコンビニで働い
てもよかった。正直どこへ行きたいなんてそもそもなかっ
た。それがこの皺だらけのジジイに聞かれて、咄嗟に地球
岬って言葉が出た。行ったこともないその地名が何故出た
のか後悔してるが、室蘭で生まれたことだけは、本当だっ
た。ただそこで生まれてすぐにサロベツへ引越したから全
くなんの記憶も思い出もない。しかしこんな口からデマカ
セがどうして言ってしまって、後悔すると同時に甘すっぱ
い気持ちになるのか、不思議だった。
「それじゃ。川端橋までな。そこから右に行けば追分の駅
だ。室蘭本線に乗れる。」
「すいませんっす。」
「ふーん。里帰りかあ・・・」
とそのジジイは、アクセルを踏み込みながら自分自身の心
に言うようにひとつ呟いた。

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